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打算あり善行冒険者  作者: 唯野 皓司/コウ
第1章 7級冒険者編
8/88

第8話 ギルド職員に媚びることも大切

ジルドガルドではジル=ミニジルのことを指します。

ミニジルは自分のことを「ジル」と呼ぶのでミニジルと表記していると混同しそうなので

 ジルの作った人形に転生した慎一はジルドガルドへ転移し、慎一という名をジルドガルドでも一般的な名前であるシンに変え、2年間冒険者として生きてきた。


(どうせなら命の危険が低い商人にでもなりたかったんだがな)


 ほんの二年前まで、まさか異世界で冒険者になることなど予想すらしてなかったシンは溜め息をつく。


「溜め息ばかりついてると幸せが逃げていくのですよ~」


 ぱたぱたと羽を動かし、シンの周りを飛び回るジル。

 可愛らしい容姿でたまに吐く毒舌がシンの心を抉る相棒だ。



「金なしコネなし家族なし。シンさんを雇ってくれる人なんてボルディアナにはいないのです。職歴学歴住所不問の冒険者くらいしかシンさんに残された選択肢はないのです」


 ジルドガルドに転移した当初にジルがシンに指摘した言葉だ。

 仮にボルディアナにつくまでに、ジルの「これは食べれるのです」というアドバイスに従い、街に持って行った果実を持っていかなければ、シンはボルディアナの城門を通ることすらできなかったはずだ。


「こっちの方が近道ですよ」 と言うジルの案内に従った結果、ボルディアナに向かったところ入りくんだ森に迷い込んでしまった。

 そのため着ていた衣服がボロボロになったが、そうでもなければ農民出身で金も持たずにボルディアナにやってきたため、通行料が払えないという言い訳も通らなかっただろう。


「け、計算通りなのですよ」


 そう言ってシンと目線を合わせようとしないジルだったが、ボルディアナに到着後、シンは結果オーライと判断したためジルをあまり責めなかった。




 後ろからついてくるトマス達と共にボルディアナに戻る途中であったが、すでに森を抜け、シンの周辺に危険がないことを確認したミニジルはやかましかった。


 シャリシャリシャリ

 モグモグモグ


 森を抜ける際にどこからか見つけてきたジルにとっては大きすぎるサイズの果物を食い散らし、シンの目の前でしゃべる。


「むむむ、これはなかなか甘味なのです。シンさん、今度はあの森にこれを大量に採りに行くのですよ」

「せめて宿まで大人しくしとけ、と言うか顔に食べかすをつけるな」


 イラッとしてジルを叱るシンを見て、トマス達は怪訝な顔で尋ねた。


「兄貴、今何か言いました?」


 トマス達にはジルの姿が見えない。

 ジルの説明によるとシンの守護精霊のようなものらしく、精霊魔法を使用できる種族でも特に優れた才能を持った者でもなければ、ジルの存在を知覚できない。

 一時期だけボルディアナに滞在した精霊使いである上位階級の冒険者がジルの声を聞きとれたことくらいで、この2年間の間にジルの姿をきっちり認識できたものをシンは知らない。


「シンさん、しゃべらなくてもジルに伝わりますよ~ジルにしゃべりかけると独り言してる変な人に思われるのです」


 そう言って、綺麗に食べ終えた果実をジルは草むらの中にポイッと捨てる。



 シンの身体を作ったのは天界にいるジルなので、その分霊であるジルドガルドにシンのサポート役についてきたジルもシンの考えていることを読み取ることができる。

 おかげで日頃からシンはジルから著しいプライバシー侵害を受けている。


 特に討伐後などに少しムラムラとしているシンに対して「ジルはこれから少し散歩に出かけてくるのですよ~窓は開けていくのですよ~」 などと言ってシンを気遣う配慮は、ありがたい気持ちを通り越して情けなさで一杯になる。



 ボルディアナの城門をくぐり抜け、冒険者ギルドに到着する。

 その間に何度もジルが屋台での買い食いをシンに求めて引きずって行こうとするのはいつものことだ。

 いったいこの小さな身体にどれだけ入るのかとシンは疑問に思う。


 日頃よく見かけるギルド職員に頭を下げ、シンは素材鑑定所に向かう。

 今日の獲物はグレイウルフ5頭とグレイトホーンブル1頭、そして素材の大半をトマス達に譲ったグリズリーウルフ1頭だ。


 討伐証明部位を提出し、ギルドカードに討伐ポイントが記録される。

 シンは討伐した魔物の素材を鑑定所に設置されたタイルの上に置いていった。

 このタイルも魔道具の一種であり、素材の重さを量るとともにタイルに素材の汚れを付着させない効果を有する。


「今日はどういった風に換金されますか?」


 すっかり馴染みとなったギルド職員が笑顔でシンに尋ねる。

 グレイトホーンブルを見て、何やら他の職員に指示を出している。

 おそらくシンの換金後に競売にかけられることになるのだろう。

 競売で高額な落札価格がついてもシンには定額しか入ってこず、余剰分はギルドの運営費用に充てられる。

 当初はシンも不満だったが今では納得している。

 ギルドの運営費用が国や領地を統治する貴族から出される場合、ギルドはその国や貴族の下部組織扱いされる。

 そうなれば戦争などで冒険者ギルドに登録している冒険者の招集を義務付けられたりする恐れがある。


「グレイウルフの素材はすべて換金、グレイトホーンブルの肉10㎏とグリズリーウルフの肝は持って帰ります。あとグレイトホーンブルの肉5㎏はギルド職員の皆さんで召し上がってください。それとグリズリーウルフの素材は持ちきれなかったので、後ろのトマスっていう冒険者達に譲ったのでそういうことでよろしくお願いします」


 シンはそう言ってトマス達の方を指さし、ギルド職員の了解を得た。


 シンは時折ギルド職員に対して差し入れをする。

 ギルド職員との円満な関係を築くことはシンにとって有意義なことだからだ。

 シンが望む、村に魔物が住み着いた依頼などをシンに伝えてくれるし、差し入れの行為に感謝してくれるからだ。

 毎回差し入れをすることはありがたみがなくなりそうなのでその頻度は多くないが、シンにとってギルド職員からの感謝で得られる功徳ポイントは決して少なくない。

 それに冒険者同士のトラブルには介入しないというのがギルドの方針ではあるが、ギルド職員も人間だ。

 何か冒険者同士でトラブルになっても、ギルド職員と関係が良ければ、それだけ有利に働く可能性がある。


 シンは換金した金のうち、自分が一週間生活するには十分な金額と明日孤児院に持っていく金額を除いてギルド内にあるシン名義の貸し金庫に預けた。

 そして帰り際にトマス達に自分への感謝の気持ちを忘れないように念を押し、宿に戻った。


 宿に戻り、お湯で身体を拭いた後、魔物の返り血を浴びた鎧を綺麗に磨く。

 白銀の剣は数日は使わないだろうから、明日砥ぎに出す予定だ。


 一通り装備を磨いたり、持ち物をチェックした後はジルの待ちに待った夕食だ。


 シンがここ2年定宿にしている〈火の鳥の止まり木〉はボリュームのある美味い鳥料理を出す宿として冒険者や肉体労働者たちに人気がある。

 シンが宿に隣接する酒場兼食堂に向かうとすでにそこは多くの人で賑わっていた。

 シンはいつも通り2人前の夜の部の定食を頼む。

 1人前はもちろんジルの分だ。

 シンの3分の1にも満たない小さな身体であるにもかかわらず、シンと同じだけ、いや間食を入れるとシン以上によく食べる。

 ジルは他の人には見えないため、シンはこの食堂のウェイトレスからはよく食べる冒険者として認識されている。

 今日のメインディッシュは鶏肉のオピタス煮込み。

 オピタスは地球で言うトマトに似た野菜であり、シンもジルも好物な一品だ。


「むむ、今日のオピタス煮込みも絶品なのです。また店長さん腕を上げたのですね。店長さんが死んだら、ジルが店長さんの担当者になってやるのです」


 オピタスですっかり口の周りを赤く汚したジルは鼻息を荒くして店長を褒め称える。


(店長も可哀想に)


 いくら店長を気にいってるとは言え、ミスの多いジルが担当者になるのは店長にとって、幸か不幸か。

 シンはそれを不幸だと判断して、店長の来世が幸多からんことを祈った。

 食べるのに夢中になってるジルは慎一の考えていることも読まずに一人前を完食し満足げに大きなゲップをするのだった。


 二人は食事を終え、自分の部屋に戻る。

 今日は月に1度の功徳ポイントの徴収日だ。


 夕食に満足したジルはベッドの上で飛び跳ねながらシンに告げる。


「今日はシンさんから功徳ポイントを徴収する日なのですよ~」


 ジルは眼鏡にスーツと言う女教師スタイルで、いつものことながらどこからか取り出した指差し棒でホワイトボードをペチぺチと叩く。


「それでは発表するのですよ。今月シンさんが獲得した功徳ポイントは……」


 だだだだだだー


 ジルは自分の口で効果音を上げる。


「じゃじゃーん、1万5000ポイントなのですよ!やりましたね、シンさん。これまでで最高ポイントなのですよ!」


 1万5000ポイント。

 シンの取り分は2割であるのでたったの3000ポイントだ。

 今月は二度、ボルディアナ近隣の村の魔物の巣を駆逐したため、これまでよりも大きなポイントだった。

 ただ、シンの借金は1000万ポイントであるため、最高ポイントと言っても焼け石に水のようなものだ。

 これまでに貯めたシンの功徳ポイントは1万7000ポイントなので、現在の功徳ポイントは2万。


「ジル……俺、ちゃんと完済できんのかな。2年ちょっとかけてたったの2万しか貯まってないんだぜ」


 こちらに来てから普段泣き言を言わないシンでも今日ばかりは泣き言を言いたくなった。

 ジルはそんなシンの頭をよしよしと優しく撫でる。


「大丈夫なのです。少しずつシンさんの月々に稼ぐポイントは多くなっているのですよ。このジルがついているのですよ!明日に向かってファイトなのです!」


 普段はちょっと我儘を言ったり頼りにならないこともあるジルだが、2年間ずっと傍でシンを応援してくれるジルはシンにとってかけがえのない相棒になっていた。



〈現在のシンの功徳ポイント 2万〉

〈目標達成まで   残り 998万〉

当初ジルはジルドガルドにシンを送り込む際に登場させることは確定してたのですが、相棒にするかは未定でした。

自分で書いていて楽しいキャラだったし、シンに相棒を作ってあげたかったので分霊と言う形でレギュラー入りが確定しました。

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