第2話 あのお兄さんもうすぐ死んじゃうのですか?
今夜は女を買うつもりなのだろうと言わんばかりの村長の笑みで少しばかり気を悪くしたシンだが、すぐに気を取り直して、自らの宿泊場所へと向かう。
村長宅から村の入り口方向へと戻りながら、家の扉を確認していくと扉に11と書かれた家がシンの視界に入った。
まだ建てられて数年ほどしか経ってなさそうな数人で住めそうなサイズの木造りの赤い屋根の家だ。
「なかなか綺麗なお家なのです。虫さん達が入って来なさそうなので、ここならきっとぐっすりお眠りできるですよ」
ジルはその家を見て、少し嬉しそうにシンに話しかける。
「確かにな、単に雨風をしのげればいいってわけじゃないからな」
シンもジルの言葉に賛同した。
古びた家屋ではこの時期はまだまだ虫がいたり、隙間から入ってくることが多い。
虫除けの薬草などもシンは用意しているが、それでも完全に虫の接近を防げるわけではなく、耳元でブーンと音を立てる耳障りな羽音が酷ければ、なかなか寝付けず、睡眠不足で朝を迎えることになる。
野宿でも虫に悩まされることがあるが、そもそもソロで冒険者をやっているシンが野宿をする場合、夜間の魔物や盗賊との遭遇を常に警戒する必要があるため、身体を休めても眠るわけではない。
同じ虫は虫でも野宿における虫よりも宿を取った際に飛び回る虫の方がシンを不快にさせる存在であり、シンとしても新しい宿泊場所や清潔な宿泊場所は大歓迎だった。
「とりあえず、さっさと中に入って酒場へ飯に行こう。明日もまた早く出発しないといけないしな」
「そうなのです。ジルも今日は疲れてお腹がペコペコなのです」
疲れたも何も今日のジルはほとんどエンジェの背の上で過ごし、楽をしていた。
どうしてお前が疲れてんだよと言わんばかりにエンジェは首を傾げてミャアと鳴いた。
村長から手渡された鍵を使って扉を開け、シン達は家の中に入る。
室内からはしっかりした金属製の鍵がかけられるだけでなく、木の板で二重に扉を外から開けられなくできる作りになっている。
ボルディアナに買い付けに行く商人はかなりの金品を所持していることが多いため、少しでも盗難のリスクを減らす努力をしているのだろう。
シンは家の中央部で袋から取り出した羽毛を胸の位置から落とす。
綿毛のように軽い羽毛はくるくると回転しながらも、ほぼ真下へと落ちていく。
羽毛が特定の方向に揺れ動くことがなかったことから、隙間風はなさそうだ。
そしてその後、シンは壁を軽くコンコンと叩きながら、屋内を一周する。
シンは何らかの違和感を感じることはなかった。
それも当然だ。
宿泊客に快適に過ごしてもらえるように村なりの工夫がなされ、不信感を抱かせるような真似は行っていないのだから。
商人は耳聡い。
仮に一旦悪評が流れれば、ほとんどの商人はこの村での寝泊まりを避けるようになるだろう。
そうなれば、ボルディアナとグランズールの中継地として潤っているこの村も一気に追いつめられることになる。
ジルの様子からして問題ないとは思いつつも、ダリアを救ったシラガイの村での経験からそれとなくチェックしてしまうのがシンの中では習慣になりつつあった。
家具などの調度品は高級品ではないが、シンプルで丈夫な作りになっているし、甕にはしっかり水が注ぎこまれており、いちいち村の井戸に水を汲みに行く手間が省かれているだけでなく、簡単な調理器具なども揃っている。
日頃から清掃がなされているため、目立った汚れは特に見当たらず、街のそれなりの宿屋と比べても見劣りするものではない。
寝室には寝具がきちんと備え付けられている。
ベッドだけではなくシーツや布団、枕もある。
だが、ベッドのサイズが一人用としては大きすぎる。
3つあるベッドのサイズはいずれもダブルであり、枕も2つずつ用意されている。
ジルやエンジェは大きなベッドに喜んで突撃してその上を飛び跳ねているが、女性の連れ込みを想定しているようにしかシンには見えなかった。
夫婦や恋人同士で宿泊する客もいないわけではないだろうが、この村でそのケースはほとんどなさそうだ。
「金をケチらなくて良かった。というか、ベッドを入れる部屋はさすがに分けとけよ」
シンはそう呟く。
仮に他の護衛と同じところで寝泊まりすれば、すぐ隣から女性の嬌声が聞こえてきたかもしれない。
護衛は商人の子飼いの元冒険者や兵士を除けば、ほとんどの場合、現役の冒険者だ。
グランズールからボルディアナへと向かっている者はともかく、ボルディアナからグランズールへと向かう商人の護衛を務める冒険者であれば、騎士団の魔物討伐に参加する者も多いだろう。
その期間、何週間も娼館に行けなくなる以上、この村で楽しんでおこうと考える者は少なくないはずだ。
他に宿泊者がいてもそういったことを気にもせず、一夜限りの逢瀬を楽しむことだろう。
そうなれば虫がいなくても、シンが睡眠不足に悩まされることは間違いない。
「ジル、エンジェ。遊んでないでさっさと飯に行くぞ」
「はーいなのです。美味しいお料理を出してくれるところですよ、きっと」
先ほどまでエンジェと遊んでいたジルだったが、夕飯に行くとのシンの言葉に即座に反応し、今日の夕飯が何かとワクワクと小さな胸を躍らせた。
シンがヴィアーテの村の酒場に夕飯を食べに行くと、すでに酒場内のほとんどの席は他の宿泊する商人や冒険者たちで埋まっていた。
いや、埋まっているというのには語弊があるかもしれない。
カウンターを除き、ほとんどの席は二人掛けのものだが、商人や冒険者の多くは一人ずつその席を利用している。
「空いてる席に座んな。壁際につったってる女で気に入った女がいれば、声をかけて酒でも奢りながら、話をしてくれ。その後どうするかはあんたら次第さ」
店内で料理を作っていた男性がシンにそう声をかける。
シンが店内を見渡すと壁際に十数人の女が客にウィンクしたりして、愛嬌をふりまいているのが確認できる。
二人掛けの席がほとんどなのは商売女に声をかけるためのものだろう。
酒を奢るか、部屋に連れ帰るかは男性客とその商売女次第と言ったところだろう。
店側が強制的に女を男につけるわけではなさそうだ。
女を呼ぶ気のないシンとしてはカウンターの席の方が良かったが、残念ながらすでにカウンターの席は埋まっている。
「わかった。ところでこいつを入れても大丈夫なのか」
シンはエンジェを指さし、男に確認をとる。
「別にかまやしねえが、粗相とかして他の客とトラブルとかを起こすんじゃねえぞ。万一そのでけえ猫がやっちまった場合は頭下げて、周りの客や女に酒でも振る舞いな」
男にところかまわず排便をする猫呼ばわりされたエンジェは心外だと言わんばかりに顔を顰めた。
シンは空いている席に腰を下ろしてしばらくすると、店のウエイトレスが料理を運んできた。
少しそばかすを残す、明るい笑顔が印象的な少女だ。
壁際に立った女たちとは異なる地味な出で立ちでエプロンをつけているところを見ると売りをやらないこの酒場の店員だろう。
少女が運んできた料理は大きな豚肉のスペアリブ、今日焼いたと思われる柔らかそうな白パン、そしてこの村で収穫されたナスと人参、鶏肉をトマトを煮詰めたソースで和えたもの、ジャガイモの卵入りスープだ。
「他の料理が食べたいとか追加して何かを食べたいなら、別料金で頼めますよ。あと飲み物も申し訳ありませんけど、別になります」
「何かアルコールの低めの果実酒を頼む。あと、同じものをもう一人前追加、それとこいつに調味料なしで適当に肉を焼いて出してくれ」
同じ料理や肉を単に焼くだけなら時間はかからないだろうと判断したシンは少女に追加の料理を注文する。
別料金と言うことだが、シンが少女に値段を確認する限り、街の飲食店と大して変わらないレベルだった。
少し冷めてしまうが、エンジェの分が来るまではシンは料理に手をつけるつもりはない。
ジルはシンの料理を摘まめばいいが、エンジェはそういうわけにもいかず、エンジェの料理が来ていない状態でシン達が先に食べ始めるとエンジェが拗ねるからだ。
シンが注文してすぐにエンジェ用の焼いた肉とシンの果実酒が運ばれてきた。
「大きくて可愛い猫ちゃんにはミルクもサービスしておきますね。追加の料理はもうちょっと待っててください」
少女はそう言って、エンジェの目の前に肉が盛られた皿とミルク入りの小皿を差し出すとすぐに厨房の方へと戻って行った。
「じゃあ、さっさと食べるか」
シンがそう言うと尻尾を振りながら待ての状態だったエンジェは肉に喰らいつく。
皿に盛られた肉を地面に落とすことはなく、食べ散らかしたりはしていないので喰らいつくと言っても人以外の生き物としてはかなり上品な食べ方をしていると言えるだろう。
ジルはエンジェの料理が運ばれてくるともうそろそろ良いだろうと考えて、シンが食べようと言う前から少し摘まんでしまったため、ちょっぴり気まずそうにしている。
(エンジェの方が賢いし、行儀がいいんじゃないのか)
シンはそう考えると、シンの考えを読んだジルが慌てて言い訳を始める。
「ジルの方が賢いのですよ。これにふかーい、ふかーい訳があるのです」
「そうか。そうか。とりあえず話だけは聞いてやる」
「ジルはエンジェの分が来るまではきちんと待てたのです。だから、お行儀がいいのです。そして料理には作る人の気持ちが込められているのです。残さず食べてもらいたい、美味しく食べてもらいたい。だからこれ以上、料理が冷めていくのを見るのはジルとしては作ってくれた人に悪い気がしてついつい食べ始めたのです。これはジルの賢いせいで起こったミスなのです」
「そうか。そうか。それなら仕方ないな」
「むう、ジルのことを信じてくれないのですね」
シンの適当なあしらいにジルはプクーッと頬を膨らませるが、シンの方をチラチラと見ながらそのプクーッと膨らませた頬に料理を詰め込んでいく。
シンはジルを見てリス科の生物を想像した。
頬袋を持たないジルだが、そこに蓄えられる量は並みのリス科の生物では相手にならない。
小さなジルの胃袋と頬には魔力袋のような効果があってもおかしくないとシンは思った。
魔力袋のように長期間蓄えることは不可能な欠陥品だが。
ジルに負けじとシンも料理を堪能するが、その料理はいずれも村で摂る食事としては十分に満足できる味だ。
エンジェは自分の方が賢いというジルの発言を相手にすることなく、自分の料理を食べ終わるとシンの足下に寝転がり、のんびりと過ごしている。
誰がどう見てもジルよりもエンジェの方が格上だった。
追加の料理もジルと共に綺麗に完食したシンが勘定を済ませて宿に戻ろうと考えたが、酒場に設置された小さなステージで歌が始まった。
この世界では娯楽は少ない。
女と酒が男性冒険者にとっての娯楽の大半を占める中、酒を少ししか嗜まないシンはこの世界の楽器の演奏もない歌でも好きだった。
スマホもPCもテレビもないこの世界だ。
歌い手の技量にもよるが、とりあえずもう少し聞いてみるだけの価値はある。
シンはそう思い、近くにいた店員に追加でもう一杯果実酒を頼んだ。
歌い手は大きく胸元の開いたワインレッドのドレスを着たシンよりも少し年上の黒髪の女性だ。
声は凛としたものだが、歌の内容はどこか物悲しい。
旅に出てしまい、おそらく二度と戻ってこない恋人を懐かしむ歌や昔を懐かしむような歌詞が多い。
女を物色している他の男性客の興味をあまり引かないものだった。
だが、シンは昔聞いたことのある港で船を待つ女の気持ちを歌ったものに似たその歌とその歌い手の黒髪に郷愁を感じて、最後まで聞き入ってしまった。
そして、歌い終わった女性に無意識に拍手を送っていることにシンは気づいた。
ふとシンとその女性の目があった。
歌を何曲か歌い終わりステージから降りた女性はニコニコとしながらシンに手を振った。
そして、ゆっくりとシンに近づき、空いていたシンの向かい側の席に腰を下ろした。
「喉が渇いちゃった。何か奢ってよ」
女は笑顔でシンにそう話しかける。
シンはその女性の態度に少し厚かましさを感じたが、彼女の歌に聞き入ったことは確かだ。
シンは女性にチップ代わりに銀貨を一枚手渡した。
「私を買うなら、もうちょっと高いわよ。それとしばらくしたら、もうちょっと歌わないといけないから部屋に連れ帰るのはもう少し待ってもらう必要があるわ」
銀貨1枚と言う値段から酒を奢るのではなく、自分を買いたいという申し出だと勘違いしたその女性はシンに笑顔でそう言う。
「別にそういうのじゃない。歌を楽しんだ代金だ。あんたの声や歌、結構楽しめた。じゃあ、俺は明日早いし、これで」
そう言って、席を立とうとしたシンの肩をその女性は掴んだ。
「なんだよ、俺にまだ何か用か」
「どうせなら、今晩私を買わない?ちゃんとサービスしてあげるわよ」
「女を買うつもりはないから、他を当たってくれ」
「私の声、楽しめたんでしょ。一晩中いい声をないてあげるわ」
ウィンクをして下品な冗談を言い放つ女性を相手にせず、振り払って席を立とうとしたシンを慌ててその女性は引きとめた。
「もう冗談よ、冗談。でも、銀貨1枚もらってそのまま返すわけにもいかないし、これで私からお酒を奢ってあげるからお姉さんともう少し話をしましょ。歌をちゃんと聞いてただけじゃなく、褒めてくれて嬉しかったし」
そう言って、女性はウエイトレスの少女に二人分の飲み物を注文した。
飲み物まで注文されて、すぐさま立ち去るのは悪いように感じたシンは少しだけその女性と会話を続けることに決めた。
女性の名はエリーザ。
シンよりも2つ年上の未婚の女性だ。
街ならともかく、村ではまず行き遅れ扱いされる年頃だろう。
それでも村娘としてはみずみずしい肌、豊満な胸を持ち、腰のくびれたスタイルのいいエリーザに対して愛人にと申し込む商人たちがこれまでにも何人かいたが、エリーザは一夜限りの関係はともかく、愛人としての申し出を受けることはなかった。
エリーザはシンが尋ねもしないことを一人でペラペラとしゃべっている。
エリーザが歌った歌詞は一旗を上げにボルディアナへと行き、行方知れずになった幼馴染のことをそれとなく脚色をして歌ったものだそうだ。
「この村を出て冒険者になった他の子からは死んだって聞いたわ」
「そうか。……ところで、歌について俺の方から一つだけ言えることは客の気を引くならもう少し明るい方がいいかもしれないってことくらいだ」
「余計なお世話よ。私は夜の女よ、いちいち覚えてない数の男と一緒に寝てる女を相手に昔のことを思い出すなって言うようなみみっちい男はさすがに相手をしたくないわ」
エリーザはシンの言葉にケラケラと笑った。
エリーザはシンが杯を空けると新たに酒を注文した。
ついつい、それを断り切れず、律儀に飲み干したシンは少しばかり酔っていた。
だからだろうか、普段ならいちいち聞こうとしないことまでシンはエリーザに尋ねた。
「なあ、変なことを聞くかもしれないけど、不満はないのか」
「不満って?」
「だって、俺からすりゃ村が積極的に村の女が娼婦の真似事をするのを推奨しているようにしか思えないぞ」
「……村の他の男たちの中にも似たようなことを言うやつはいるわ。でもね、口減らしや人買いに売られてしまうことを考えれば、はるかにマシよ」
エリーザはシンの目を見据えて、そう言った。
「もう10年以上、この村で口減らしをされた人や、奴隷として売られた人は誰一人としていないわ。他の村じゃ不作でそういったことが行われた時でも、この村ではなかった。余所から食料を買い込むことができたのよ。大切な家族や友人と二度と会えなくなったり、もっと不幸な目に遭うことを考えれば、私は今のあり方も一つの正しい答えだと思ってるわ。それを否定するなら、失敗しないもっといい方法を提示しなさい」
「……変なことを聞いて悪かった」
シンは自分の発言が男の理屈だと感じ、思うことはあってもエリーザに頭を下げた。
「私も少し熱くなったわ。これを飲んだら、そろそろ行くわ」
エリーザはシンの謝罪を受け入れると杯に入った果実酒を少しずつ飲んでいく。
「シンさん、シンさん」
食事を終えるとエリーザの歌を子守唄代わりにして、シンの膝の上でコテンと寝ていたジルがすでに目を覚ましていたようでシンに声をかけた。
(なんだよ)
「あのお兄さんもうすぐ死んじゃうのですか?」
ジルがそう言いながら指を指した相手はボルディアナで顔を見かけたことのある若い冒険者だった。
ジルの言っている意味がわからず、聞き耳を立て、その冒険者の方を眺めていたシンだが、耳に入ってきたその冒険者の発言からジルが言いたいことが理解できた。
次の魔物討伐で騎士団の目に留まって、きっと騎士になってみせる。
そしたらこの村を出て俺と結婚してくれ。
だから、もうしばらく客を取らずに俺のことを待っていてほしい。
幼馴染らしきソバカスの残るウエイトレスの少女に対し、真剣に愛を告げる若い冒険者がそこにはいた。
シンは死亡フラグという言葉を思い出した。
(確かにありゃ、ちょっと酷いな。まあ、俺にはかんけ、痛ッ)
シンは思わず、ジルの言葉に頷いたが耳に痛みを感じて、エリーザの方を振り向いた。
「こんな絶世の美女を前に他の女を物色?」
「そういうのじゃねえよ。って言うか、さすがに自分で絶世の美女はねえだろ。美人の部類には入ると思うけど」
「ふうーん、あの二人が気になったのかしら」
エリーザもそう言って、若い冒険者とウエイトレスの方を見る。
「男って馬鹿よね。騎士になんてならなくても、好きなら、養えるなら一緒になればいいのに。騎士団の魔物討伐に参加できるくらいなら、女の一人くらいは養えるでしょ」
「冒険者だからな。いつ、命を落とすかわからない。騎士ならそのリスクも低いし、見栄えもするだろ」
「女はそんなに弱くないわよ。仮に夫が命を落としたとしても、泥をすすって何とかやって見せるわ」
エリーザは幼馴染だった男のことを思い出し、フッと笑った。
「ねえ、もしあいつが危ない真似をしてたら止めてくれない?」
「一緒に行動するかどうかもわからねえし、仮に一緒になってもなんで俺がそんなことをしないといけないんだ」
「あいつもこの村の出身で知らないわけじゃないし、あのウエイトレスの子、私にとっては妹分だからかしらね。口約束でもいいからしてくれるなら、安くでうんとお礼をしてあげるわよ」
エリーザは腕で自分の豊満な胸を寄せてシンに笑みを浮かべる。
何を言っているのだろう。
自分でも馬鹿なことを言っているとエリーザは思った。
「ボルディアナの5級冒険者のシンだ」
「何よ、いきなり」
「絶対とは言えないけど、あいつに何かあって俺の気が向いたら助けてやるかもしれない。もしも俺があいつのことを助けることがあったら、あんたが俺のことを思い出した時にでも俺に感謝してくれ。あのウエイトレスの女もだ。それで十分だ」
シンは普段より酒を飲み、少しボーっとした頭でエリーザにそう告げた。
次回は22日午前11時




