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打算あり善行冒険者  作者: 唯野 皓司/コウ
第2章 6級冒険者 開拓者の村編
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第15話 俺が助けてみせるから

 ローランドは警戒しているシンとダリアを宥めるように訳を話す。


「落ち着けと言っただろう。私もあまりこんなことを言いたくはない。だが、ダリア……君が、この村の起こした事件に関わっている疑いを私は持っている」

「ダリアは何もしていない。この村の問題とは無関係だ」

「私もそう思いたい。だが、それを証明する人はいないのだ。シン、ダリアは君に対して親密な関係になろうとし、未遂とは言え、実行しようとしたのだから、私としては疑わざるを得ない」


 ローランドの言っていること自体は道理にかなっている。

 ダリアは何もしていないとシンが言えるのは、ジルの存在があるからだ。

 ジルがダリアの功徳ポイントがマイナスではないと言うからこそ、シンはダリアを警戒せず、罪を犯してはいないと信じることができた。

 だが、ローランドはそれを知らない。ジルの言葉も聞こえない。

 未遂とは言え、シンに対して取った行動を考えれば、これまでにも同じ行動を取ったことがある可能性を拭いきれない。

 そして、男を誘惑する以外にも協力できることはいくらでもある。女や子供は男の警戒を解くのに適した人材だ。


「俺に対してしたことなら、何も問題ありません」

「シンの件については、それでかまわない。だが、他の件についてはまだまだ話を聞かねばならんのだ。頼むから抵抗はしないでくれ。抵抗しなければ縄で縛ったり、手荒な真似はしないことを約束しよう」

「シン、きっと大丈夫よ。話せばわかってもらえるわ。私、本当にシン以外には何もしてないもの」


 ダリアは震えながらも笑顔を作ろうとするが、上手く笑顔を作れない。

 先ほどまでダリアにくっついていたアイリスがローランドに近づくと、必死になってポカポカと叩く。

 カトレア亡き今、たった一人の姉を自分から奪おうとする髭の男をアイリスは憎んだ。


「私からお姉ちゃんを取らないで、取らないで」

「やめなさい。頼むから……」


 ローランドは困った顔で涙を浮かべながらローランドを叩くアイリスを見つめる。

 まるで自分が極悪人にでもなった気分だ。

 本当に嫌な役目だ。


「騎士様、俺もついて行ってよろしいですか?俺もこの事件の関係者にあたるわけですし」

「むしろ、それはこちらからお願いしたいところだ。君からも事情を話してもらいたい。何、疑いさえ晴れれば、すぐにでも解放されることだろう」

「ダリア、大丈夫だ。きっと話せばわかってもらえるさ」


 シンはローランドからアイリスを引き離すと、真っ青な顔をしたダリアに近づき、そう勇気づけた。



 シン達は馬車に乗り、ボルディアナへと向かう。

 ローランド達は約束通りダリアを拘束することもなく、馬車の中では自由にさせている。


 これでダリアのことがなければ、どんなに良かったかとシンは思う。

 馬車の中では、アイリスがダリアにしがみつき、ダリアもアイリスを抱きしめて、何度も「大丈夫だからね」と繰り返し言い聞かせている。


(どうすれば正解だったんだろう)


 ライアスからシンと親密な関係になるように命じられたと説明したのはダリアだが、ダリアには説明させずに、シンが一人で騎士たちに上手く説明すべきだったんじゃないか。

 せっかく二人を救えたと思ったのに、こんなことになるなんて。

 ジルの言葉を聞いているのは自分一人。

 それをよく理解もしていなかった自分のミスなんだろうか。

 ダリアのことを他の者も信じてくれるとあまり深く考えず、思い込んでしまっていたのだから。

 ネガティブな思考がぐるぐる回り続ける。


「シンさんのせいじゃないですよ。分からず屋のあいつらが悪いのです」


 ジルはダリアの同行を求めた騎士たちにぷんぷんと怒っている。

 シンは何も言わずに、ジルの頭を撫でた。


(ダリアと口裏合わせるべきなのかな)


 シンはそんなことも考える。

 だが、ローランドはシンの件についてはかまわないと言っていた。

 それならば、下手に口裏を合わせたほうが逆に疑いが強まる危険性もある。


 結局シンは馬車の中でダリアとほとんど話をすることができなかった。

 何度か話をしたが、会話が長くは続かない。


 一度昼食の休憩を挟み、まだ日が明るいうちにボルディアナへと到着した。

 犯罪者を入れるための牢屋や取調室のある施設へとそのまま馬車は進んでいく。

 施設に到着後、シンとダリアは引き離された。


 シンに対する取調官の質問は、思っていたよりもあっさりとしたものだった。

 ダリアが自分を誘惑しようとしたことをどうすればダリアの印象を悪くせずに伝えられるか悩んでいたが、幸い、ローランドがあらかじめ言ってくれていたのか、ダリアがシンに何をしようとしたかなどは聞かれない。

 シンはローランド達に話したことをそのまま伝えた。


 シンと取調官の話が済むと、シンを待っていたローランドに声をかけられた。


「シン、すまないがダリアの取調べが済むまでアイリスのところにいてやってくれないか。泣きながら部屋から出ようとして、我々ではどうにもならんのだ」


 ローランドは疲労した表情でシンに頼む。

 シンとしてもダリアとアイリスが気になる。

 自分に対する取調べが済めば、アイリスに付き添うつもりでいた。

 シンはローランドの頼みに頷いた。


 ローランドに連れられ、アイリスの待たされている部屋に向かう。

 アイリスの泣いている声と扉を叩く音が聞こえてきた。


「お姉ちゃんに会わせて。お姉ちゃんを連れてかないで」


 扉を塞いでいる騎士の表情も気まずそうだ。

 シンが来ると、騎士はほっとした表情を浮かべた。


 シンは扉を開けて、アイリスと顔を合わせた。


「お兄ちゃん……お姉ちゃんはどうなるの?」

「大丈夫だ。きっと話せばわかってもらえる。取調べ中でも騎士のおじさんがこの部屋でアイリスと二人で生活できるようにしてくれるらしいし、すぐに戻って来るさ」


 シンはアイリスを励ました。


 なかなかダリアは戻ってこない。

 ダリアの取調べはシンよりもはるかに長時間のものだった。


 まずはシラガイの村で生活することになった経緯と境遇について聞かれる。

 そして、ダリアの姉が村人たちに何をさせられてきたか。

 姉の死後、ダリアがライアスからどのような指示を受けてきたか。

 シンがなぜこの村の問題に気づいたか。


 多くの質問が取調官の口から飛び出した。

 取調官はシンとのことについてまではそれほど詳細には聞かなかったが、本当にこれまで村人たちに協力をしたことがないのかについては執拗に尋ねた。


 取調官が繰り返し、ダリアに尋ねたのには訳がある。

 先に到着したシラガイの村の者達の取調べが複数の取調官によって行われていたからだ。

 村の者達のダリアに対する憎しみは強い。

 ダリアがシンにばらしたから、自分たちはこんな目にあったのだ。そして、おそらく自分たちは処刑されることになる。

 そんな風に逆恨みしていた。

 彼らはなんとかしてダリアも道連れにしてやりたいという思いから、ダリアについて、やってもいないことを並べ立てた。

 シンが最初の男になっているはずだから、男を誘惑したなどとは言わないが、カトレアと共に一緒に冒険者などにお酌をし、冒険者たちの警戒を解く一役を担ったと口を揃えて取調官たちに話をしたのだ。

 取調官も村人たちの言葉をそのまま信じるわけではない。

 だが、こうも口を揃えて言われるとやはりダリアも関与していたのではないかと疑ってしまう。


 ダリアも取調官の質問から自分が疑われているのはわかった。

 仮に自分に刑が科せられるとなれば、どの程度の罪になるのかを取調官に尋ねる。

 取調官も殺害自体にダリアが関与していたとは思わない。

 それに村人たちに協力していたとしても事情が事情だ。

 おそらく数年間、犯罪奴隷として、領主が経営している鉱山や工房で強制労働をすることになるだろうと説明した。


 ひとまず今日の取り調べが済むとダリアはアイリスの待つ部屋へと戻された。


(数年間、アイリスと離ればなれになるかもしれない。それでも……)


 それでも村の男たちと同じく死刑になるわけではない。

 生きていれば、またアイリスと一緒に生活ができる。

 気がかりなのはアイリスのことだ。

 自分が犯罪者として刑に服してる場合、シンはアイリスを見守ってくれるだろうか。


 部屋の扉を開けるとシンがアイリスを必死になって宥めていた。

 アイリスはダリアが扉を開けたのに気が付くと、ダリアに飛びついた。


 今日は疲れたのだろう。

 アイリスはダリアの顔を見て気が緩んだのか、しばらくするとウトウトとし始めた。

 ダリアがアイリスに嘘をついたのも大きい。


「たぶん、大丈夫。取調べの人も親切だし、私は罪に問われずにすみそうよ」


 ダリアはアイリスにそう説明した。

 アイリスはダリアの言葉を信じ、安心するとダリアの膝を枕にして眠る。

 アイリスが眠ったのを確認したダリアはアイリスを起こさないようにゆっくりと立ち上がり、これまでずっと付き添ってくれていたシンに礼を言う。


「シン、アイリスを見ていてくれてありがとう」

「本当に大丈夫なのか?」


 シンはダリアが無理をしているように感じて、尋ねた。


「わからないわ。どうも村の人たちが色々と私がやったように言ってるらしくて、取調べをする人も判断しづらいみたい」

「あいつらが……」


 もっと痛めつけてやればよかったとシンは思う。

 この世界には科学捜査などはない。目撃者や被害者、そして共犯者の証言の力は大きい。

 もちろん、それだけではなく、書類や署名といった証拠も判断材料にはされているが。


「でも、最悪の場合でも、せいぜい数年間の強制労働らしいわ。だから、私は大丈夫。……あのね、シン、こんなことをお願いできる立場じゃないのはわかってるんだけど……私がもし刑を受ける場合、アイリスのことをお願いできる?昨日シンが色々とお話してくれた孤児院に入れてもらえないかな?そして、時々でいいからアイリスに会ってあげて」

「断る」

「シン、お願いよ」


 シンが断ると、ダリアは悲しげな表情を浮かべ、もう一度シンにお願いする。


「違う。そうじゃないだろ。どうして強がってんだよ。アイリスとまた離ればなれになって、犯罪者として扱われるかも知れないんだぞ」

「私だって……どうして私がこんな目に遇わなきゃいけないのって思うわよ。せっかく、シンに助けてもらえたのに」

「じゃあ、どうしてそんな頼みなんだよ。俺が聞きたいのはそんなんじゃねえよ。私を助けてって、はっきり言えばいい」

「そんなことできるの?どうして、シンはそこまで……」

「やってみせる。俺がきっと助けてみせるから。俺はもうダリアとアイリスから感謝し続けてもらおうと決めてんだ。俺の感謝の取り立ては厳しいぞ、絶対に逃がさねえ」

「……シン、お願い。私を助けて」

「ああ、任された。必ずダリアを助けてみせる」


 シンはダリアとの話が済むと足早に先ほどまでいた施設の外へと出た。

 すでに夕暮れ時だ。思ったよりも長くあの施設の中にいたようだ。


 シンにはダリアを救う当てがあった。

 副ギルド長と今この街で待機させられている第4騎士団副隊長のグラスだ。

 シンは今回褒賞を得られるとしても辞退するつもりでいる。

 そして、ダリアの無実を主張すると共に恩赦も申し出るつもりだ。

 幸い、ダリアは死罪に当たるほどの罪を疑われているわけではない。

 そうであるなら、ギルドや領主からの褒賞などと引き換えに融通を利かせてもらえる可能性も高い。

 副ギルド長やギルド長であれば、領主とのつながりもあるはずだ。

 また第4騎士団副隊長と言う地位がどれほどのものなのか、シンには今一つ分からないが、グラスも第4騎士団副隊長と言う地位についている以上、領主との関係も単なる騎士に比べれば、はるかに近いはずだ。

 グラスの人柄は悪くはなかった。話せば助けになってもらえる可能性もある。


 まずは副ギルド長に相談してみよう。

 それにゴブリン退治の依頼完了と共にシラガイの村の話をギルドに報告する必要もある。


 シンはジルを連れて、ギルドのある方向へ走り出した。

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