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打算あり善行冒険者  作者: 唯野 皓司/コウ
第2章 6級冒険者 開拓者の村編
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第5話 村長さん、押しが強すぎやしませんか

(なあ、ジル。この子もやっぱりマイナスになってんの?)


 天を仰いだ状態から素早く立ち直ると、シンは自分の前を歩いているダリアのことを指でさす。

 ジルはしばらくダリアのことをジロジロと見ていたが、首を横に振った。


「うーん、この子はマイナスじゃないですよ」

(そっか、この子が悪いことしてるってわけじゃあないんだな)


 シンとしては、自分よりも年下の女の子が悪事に手を染めているなんて、あまり思いたくもない。

 この子が悪事をしているわけではない、それがわかるとシンは今までダリアに対して抱いていた警戒心を少し弱めた。


(この子の知らない、関わらないところで村の連中が色々とやらかしてるのかなあ)


 シンはこの村の依頼をこなすのが不安になったが、ギルドの職員の話では依頼達成した冒険者パーティはいずれもボルディアナに無事帰ってきている。

 少なくとも今回の依頼の最中に危害を加えられる恐れは低いと判断したシンは、少し落ち着きを取り戻す。


「こちらです」


 ダリアはシラガイの村の中でも少し大きめの家の前に立つと、シンの方に振り返る。

 他の村では村長の家はもっと大きなものが多いが、シラガイの村の規模を考えれば、村長というより村の者たちのまとめ役といった側面が強く、村の外から客を招けるような立派なものにはまだなっていないのだろう。


「父さん、ダリアです。冒険者様をお連れしました」


 自分の家でもあるというのにダリアは玄関の扉をノックし、それから家の中に入る。

 シンもダリアと共に家の中に入ると、村長はすぐに姿を現した。


「これは、これはよくぞお越しくださいました」


 村長は笑みを浮かべながらシンに挨拶をする。

 気性の荒い開拓者たちをまとめるのにふさわしい大きな体格をしている。

 シンよりも少し上背があり、身体つきも一回り太い。

 見た目からして30歳は越えているようだ。


「ボルディアナから来た6級冒険者のシンです」


 シンはそう言って、ギルドカードと依頼書を村長に提示する。


「私はこのシラガイの村の村長をやっているライアスです。それにしてもまだお若いのに、6級冒険者とは大したもんです。行く行くはこのシルトバニアの騎士にでもなさりそうですな。いやはや、それほどの冒険者に来ていただけるとは心強いことです」


 ギルドカードを確認したライアスはシンを褒め称える。


「ありがとうございます。まあ将来のことはどうなるのかはまだあまり考えていませんので」

「騎士よりもさらに上を目指すとは……なかなかできることではございませんな」


 他の騎士志望の冒険者はともかく、騎士にそこまで魅力を感じていないシンの気のない返答を誤解したライアスはさらにシンにおべっかを使う。

 ジルが口をパクパクさせながら「この人も悪人なのです」と指さしているところを見る限り、村人だけじゃなく村長も関わっているようだ。

 間違いなく、この村自体が真っ黒だ。


(か、帰りてー)


 シンはそう思うが、そういうわけにもいかない。

 すでに依頼を受け、このシラガイの村に来ている以上、依頼をほったらかしにして帰るわけにもいかない。

 シンがこの村の連中が胡散臭いと周りに言おうが、ギルド職員の夫婦以外にそれを信じる者はほとんどいないだろう。

 証拠もなく、あくまで普通の人では目にすることもできないジルが悪人だと言っているだけなのだから。


「その腰に帯びている剣も素晴らしいものでしょうな。一流の証でもある魔力袋まで持っておられるとは」


 ライアスはさらにシンの装備なども目ざとく褒めていく。


「ええ、まあ新調したばかりの自慢の愛剣ですが。それよりも、まずは依頼の方を片付けましょう。ゴブリンの巣はどのあたりにあるんですか?」


 このままだと村長のペースで長話されそうなことを危惧したシンは、話を依頼の方に戻す。


「おっと、これはいかん。すっかり長話をしそうになりましたな。遅くならないうちにゴブリン共を退治してもらわねば。ダリア、イアンを呼んできなさい。朝方、狩りに出ていたが、今なら戻って弓の整備をしている頃だろう」

「シン様、それでは少し失礼します」


 ダリアはシンに一礼すると、家の外へと出ていく。


(このおっさんと二人っきりかよ。どうせならあんたが行けよ)


 少なくともダリアがイアンとやらを連れてくるまでは、二人っきりで会話を続けなくてはならない。

 シンはダリアが外へ出ていくのを見つめながら、できるだけ早く戻ってきてくれることを願う。


「ダリアに興味がおありですかな?」

「はい?」


 いきなり父親から娘に興味があるのかと言われて、驚かない男も少ないだろう。

 ライアスはシンがダリアに興味を持ったと思い、彼女の身の上話を始める。


「ひょっとすると私とダリアを見て、似てない親子だなとシン殿も思われたかもしれませんが……」


 確かにダリアは銀髪であるのに、ライアスは茶髪で、体型も顔つきもまるで似ていない。


「それもそのはず。実は私とダリアは血がつながっていないのです。私には妻も実子もいません。ダリアは養女なのです」

「そうなんですか?」

「ええ、ダリアは私の昔からの友人夫婦の娘でして。去年のことですが、実はその友人夫婦がどちらも不運にも亡くなりまして、その知らせを聞いた私が引き取ることにしたのです」


 養女で親子の付き合いがまだ浅いのであれば、ダリアが自宅をノックしたり、ライアスの前でぎこちない様子だったのも一応は説明がつく。

 もしもシンがジルの「この人も悪人なのです」という言葉を聞いてなければ、村長が友人の子どもを育てる善良な男に見えたかもしれない。


(正直、この村長が話している内容の真偽については判断できないなあ。まあ聞き流して、適当に相槌でも打ってりゃいいや)


 シンはそう思い、ふんふんと村長の話に耳を傾ける。


「痛ましいことに両親の死がショックで表情にあまり感情を出さない子になってしまいました。この村の生活にもなかなか慣れることができずに痩せてしまい……」


 ライアスは溜め息をつきながら、首を振る。

 どこからどこまで嘘で本当なのかわからない以上、シンとしてもただ頷くだけだ。


「ですが、先ほどあなたを連れてきたあの子の顔……どうやら街からやってきた冒険者に興味があるようです。ゴブリン退治の後にでも、少しボルディアナのお話を聞かせていただければ」


 ライアスは懇願するようにシンに頼む。

 そんな顔をしているようにシンには思えないし、そんな約束をするわけにはいかない。


「えーっと、ゴブリン退治がどのくらい時間がかかるかわかりませんし」

「いやはや、本当に仕事熱心な方だ」


 ライアスは感心したように頷いた。



「父さん、ダリアです。イアンさんを連れてきました」


 しばらくするとノックの音と共にダリアの声が聞こえて扉が開かれた。

 ダリアの後ろにいるのは背が高い、少し目つきの悪い男だ。


「おう、あんたがボルディアナから来た冒険者さんかい」


 イアンは気軽にシンに声をかける。

 シンとしてもこういう気安い対応をされた方がしゃべりやすい。


「ええ、ゴブリンの巣がどこにあるのか教えてもらえますか?」

「ああ。じゃあ村長。俺はこの冒険者さんに村の外でゴブリンの巣の位置を教えてくるぜ」

「それでは村長さん、俺はこれからゴブリンの巣の討伐をしてきます」


 シンは村長に頭を下げると、イアンの後ろをついていく。

 イアンはシンを見ながら、嬉しそうにしゃべる。


「いやーマジで助かるよ。俺が先日ゴブリンが巣を作ってるの見つけたんだわ。ゴブリンの一匹や二匹くらいなら俺の弓でもなんとかなるんだろうけど、巣から出てくるゴブリンしか相手できないし、複数に囲まれたらその時点で詰んじまうからな」

「この村の規模を考えたら戦える人が少ないのはわかりますし、怪我したら大変ですもんね。でも、ゴブリンの巣くらいなら、この村の人たちでも総出でやれば、なんとかなったんじゃないですか?」

「いやー、さすがにそう言うわけにもいかねえよ。普段から狩りをしてるやつを除けば、森を抜けていくのも一苦労なんだから」


 イアンの言葉でシンに嫌な予感が走る。


(森を抜けていくのも一苦労?まさかゴブリンの巣はこの村から離れてるのか?)


「ひょっとしてゴブリンの巣ってここから離れてます?」

「おう、よくわかったな」


 イアンは村の入り口付近から、西に広がる森の方向を指さす。


「あの森に入って、この方向にだいたい5㎞くらいのところに巣を作ってたんだ。結構距離離れてるから大変なんだわ」

「5㎞!?」

「いやー、マジですまねえな。悪く思わんでくれ。距離の離れたゴブリンの巣とはいえ、放置したまま変異種が生まれでもしたら、こんな小さな村だとやべえんだわ」


 想像していたよりもはるかに遠い距離にシンは驚く。

 しかも方向を示されても、正確な位置を把握するのは困難だ。


「あの、イアンさん。そのゴブリンの巣を案内してもらうわけにはいかないですか?」


 マンイーターなどの大型の魔物と違って、身も軽く足跡も小さいゴブリンの痕跡を辿り、ゴブリンの巣を見つけるのは時間がかかる。

 シンとしては、できればイアンに案内してもらうことで時間を短縮したい。


「悪いな。今、弓を整備してる最中に呼び出されたから、さすがについてはいけない。他にも今日獲ってきた獲物を処理しなきゃなんねえし」


 イアンは少しばかり申し訳なさそうな顔をして、首を振る。


「わかりました。それじゃあ、俺はこれから急いでゴブリンの巣に向かいます」


 シンとしても断られるのは予想できていた。

 弓の整備などが嘘か本当かはわからない。

 だが、村長の対応からして、シンにこの村で長居させたいのだろうということは薄々勘付いている。


(急がないと……)


 これまで、冒険者パーティがいずれもボルディアナに無事に帰ってきているとは言え、この村で一泊することになるのは不安を感じる。

 だが、森の中で日が暮れてしまうのはそれよりはるかに危険だ。

 ゴブリンの巣の位置がここから5㎞っていうのもあくまでイアンの体感だ。

 正確に計ったものではない以上、一つの目安程度にしかならない。

 それに本当のことをイアンが言っているのかどうかもわからない。


 シンはイアンの指さした森の方向へと走り出す。

 そして、森の中に入った後は速度を緩め、周囲を警戒しつつ、ゴブリンの足跡や痕跡がないか、探して行く。


 シンは森に入って、しばらくすると4本指だが人に似た足跡を見つけた。

 その足跡を追って、速度を上げて進んでみたところ、シンはゴブリンの巣らしき洞穴を発見することができた。

 確かにイアンの言った5㎞程度という感覚と指さした方向は正しかった。

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