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「それはメイドからですか?」

「はい・・・。出し忘れた衣服があったからと・・・。二時前には屋敷に戻るからと言われて・・・。」

「だが実際に二時には間に合わなかったな。」

 横から父が口を挟むと、青年は申し訳なさそうな顔をしました。

「あぁ・・・僕が早く着いてしまって・・・。待つのもなんだったので・・・その・・・。」

「帰ってしまったか、又は後回しにしようとしたか。」

「はぁ・・・。」

 この青年は間違いなくバイトでしょう。仕事がいい加減です。

 しかしこれで、クリーニング店の謎は解けました。

「屋敷に着いた時、悲鳴等は聞こえなかったかい?」

 父の質問に、青年は首を横に振ります。

「では、誰かが逃げる姿等を見たとかは?」

 青年は又も、首を横に振ります。全くもって役に立たない青年です。これ以上の成果はなさそうなので、私達はクリーニング店を後にしました。

 次はコートのお店で確認です。一応メガネが電話で確認をしていますが、念には念を!アリバイを一つずつ潰して行くしかありません!

 コートのお店に到着をすると、早速父が厚化粧の店員に質問をします。

「メイドは何時頃来ましたか?」

「十二時半頃かしらねぇー。ちょうどお昼にしようと思ってたところに来たから、よく覚えているわー。まぁ受け渡しだけだから、すぐ済んでよかったわー。」

 厚化粧は聞いてもいない事まで、ベラベラと喋ります。

「特注のコートだったのよー。あそこの奥様、前から羽振りが良かったけど、最近更に良くなって。こちらもありがたいわー。」

「最近と言うと、何れ位前から?」

「そうねー。ここ一ヶ月前位かしらー。先週も、特注の帽子を購入してくださったわー。」

 特にこれと言って、需要な証言もありません。このままでは厚化粧の世間話に付き合わされそうだったので、私達は早々とコートのお店から退散をしました。

 次にメイドが車のタイヤをパンクさせてしまったと言っていた、スーパーへとやって来ました。スーパーの店員にパンクの事を聞いてみると、メイドの言う通り、駐車場でパンクをしてしまい、四苦八苦しているメイドの姿を見たとの証言が何件も。これは目撃者が多いので、確実に真実でしょう。お屋敷でも確認はしていますしね。

 困りました!ここまでの話しだと、メイドのアリバイは完全に成立しています!となると、メイドは完全に白!犯人候補から除外されます。私の予想は見事外れと言う事になりますね・・・。

 となれば、次は亭主のアリバイです!

 まず婦人死亡推定時刻の午後一時四十分ですが、知らせを聞いて会社を出た午後一時五十分、慌てて出て行く姿を、秘書が目撃していました。自室へと最後に入った時間は、ランチを済ませ戻って来た、午後一時三十分。その時も秘書に目撃をされている様です。

 ランチへは部下と一緒に行っていますね。証言が取れました。

 となれば、これでは亭主のアリバイもある事になってしまいます。ならはやはり犯人は息子なのでしょうか?

 父は何かを考え込んでいる様子で、しばらくすると屋敷の周りをウロつき始めました。まるで何かを探している様子です。一体何なんでしょうね?

「亭主、お宅で飼っている犬が見当たりませんね。」

 父の質問に、亭主も今言われて気づいたのは、ハッと周りを見渡しました。

「そういえば・・・。どこへ行ってしまったのやら・・・。」

 亭主は困った様子で、頭をポリポリと掻いています。

 確かに、息子の写真を見せられた時に、そこには大きなゴールデンレッドも一緒に写っていました。あの巨体の犬もが行方不明です。

「所で亭主、息子さんについてですが、何か重大な秘密があるますね?」

 突然の父の質問に、亭主は心臓が飛び跳ねたかの様に驚いています。そしておどおどとしています。

「な・・・なんの事でしょうか?」

 声が微妙に震えていますね。

「あぁ・・・そう言えば、マダムと息子の事で喧嘩をしていたとか・・・。確かマダムとは、喧嘩もここ最近はしていないとおっしゃっていたのに、おかしいですねぇ。」

 私もわざとらしく言うと、突然亭主は、崩れ落ちる様に、地面へとひれ伏しました。そしてあの馬鹿でかい声で答えます。

「申し訳ないー!あれは嘘だったのだぁー!もうマダムがこうなってしまった以上、本当の事を言うしかなぁーい!」

 五月蝿いです・・・とても五月蝿いです・・・。が、これで亭主もようやく腹を括ってくれた様です。

 亭主は涙ながらに、話し始めました。意外とあっさり。

「実は・・・実は・・・実は私共の息子は・・・既に死んでいるのだよー!しかももう三ヶ月になる・・・。」

「は?死んで?では、私達の捜査はなんだったのでしょうか?」

「それは・・・それはマダムが・・・息子の死を受け入れる事が出来なくて、息子はまだどこかで生きていると思い込み、止める私の言う事等聞かずに、探偵事務所へ・・・。」

「成程、そが喧嘩の原因ですか。」

 頷く父でしたが、私は開いた口が塞がりません。だって無駄な捜査をさせられていたと言う事じゃないですか!どうりでおかしいと思いました。息子の情報が少ない事やら、携帯番号もないやらで・・・。

 亭主は更に続けます。

「近所にもまだ生きていると思わせる為、引きこもっていると言う嘘の情報を流していたのだよ・・・。」

「あぁ・・・それで聞き込みに時に・・・。」

「しかしそんな事はいつまでも続かない。分かっていた・・・分かっていたんだぁー!」

「葬儀などは、どうされたのです?」

 当然の疑問に、亭主は当たり前かの様に答えて来ました。

「当然しましたとも。無論、身内だけでこの我が敷地内で誰にもバレぬ様こっそりとね。」

 息子が不憫で仕方ありません・・・。

「と言う事は、結局息子の行方不明自体がマダムの嘘だったんですね。息子の死を受け入れられないマダムが取った行動が原因で、お二人は言い合いの喧嘩にもなったと。」

 確認をする様に尋ねると、亭主は無言で頷きました。全てはマダムの偽装工作だったと言う訳です。持ち込んだ置き手紙も、マダムが書いたからこそあの様な変な文章に・・・。

 息子の事は意外とあっさり解決しました。しかし残るはマダム殺害の犯人!まだマダム殺害に関しては、捜査途中でした。やはりこの事からも、亭主が犯人と見るべきなのでしょうか?

 疑問する私でしたが、父は至って冷静です。

「亭主、本当の事を話して下さり、ありがとうございます。これでマダム殺害の犯人も分かりました。」

「なんですと!!それは本当ですか?」

 泣いていたかと思いきや、今度は驚く亭主。当然です、私も父の発言には驚きました。息子の真相発覚で、犯人が分かったとは、一体どう言う事でしょう?

「お父さん、犯人が分かったとは、どう言う事ですか?」

 父は再び屋敷内を見渡すと、再確認をしたかの様に頷きました。

「うん、やはり。犯人は犬だよ。」

「犬?って・・・ゴールデンレトリバーのですか?」

「ななななっ・・・何と!」

 意外過ぎる犯人に、私も亭主も驚きます。ちなみにメイドには、犬を探して貰っているそうです。いつの間に・・・。

「我が家の愛犬が犯人とは、一体どう言うことでしょう?確か警察は、もみ合った形跡があるからと・・・。」

「えぇ、ですから犬ともみ合ったのですよ。正確に言うと、じゃれて、でしょう。」

「じゃれて・・・つまりマダムの死は・・・。」

「はい、事故と言う事になります。」

 何と驚きです!警察の捜査の無能さに!

 父の話ではこうです。

 息子の死を受け入れられなかったマダムは、我が探偵事務所に行方不明者として相談。そうする事で、心を保っていたとか・・・。しかし私達が自宅を見に来ると聞き、マダムは慌てて無くなったと嘘をついた写真の回収をする。その時愛犬のゴールデンレトリバーと鉢合わせ。愛犬ゴールデンレトリバーは遊んで貰おうとマダムに飛びつくが、その場所が悪かった為、マダムは体勢を崩し下の階へと落下。結果死亡。これでマダムが写真を握りしめていた謎の解けました。

「まぁ、そう言う事ですな。。後はゴールデンレトリバーが見つかれば分かります。」

 話しを聞いた亭主は、がっくしと首をうな垂れ、口から魂が抜けている様でした。無理もありません。私も意外な犯人と、警察のアホさに、言葉も出ませんから。

 しばらくすると、メイドが使えない警察メガネと一緒に、ゴールデンレトリバーを連れてこちらへとやって来ました。

「いやぁ~やっと見つけましたよ!大きいですね!」

 馬鹿な事に関心をしているメガネは放っておいて、父は早速ゴールデンレトリバーの手を調べ、爪の間に挟まっている髪の毛を見つけました。

「これを鑑識に。きっとマダムの物ですよ。」

 メガネへと渡すと、「了解しました!」と、メガネはまるで自分の手柄の様に、そそくさと髪の毛を封筒に入れ、鑑識へと持って行きます。調子のいいメガネです。

「あの・・・本当にこの子が犯人なのでしょうか・・・?」

 未だに信じがたい様子のメイドに、父は強く頷きました。

 メイドの気持ちは私にも分かります。私も未だに信じがたいです。今までの捜査が無駄足だったとは・・・。 

 その辺で屍と化している亭主の事はメイドに任せ、私達も屋敷を後にし、事務所へと戻る事にしました。


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