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外で私達が話していると、物凄いスピートで一台の車が入って来ました。どうやら亭主が、戻って来た様です。
「マダム――――!」
物凄い大声でマダムの名を叫びながら、車から降りて来ました。亭主はどうやら、熱血の様です。
「わたしのマダムよ!何処へ!」
「あぁ、亭主。マダムでしたら、こちらに。」
メガネが亭主を案内すると、亭主はマダムの遺体を見ると同時に、泣き崩れてしまいました。
「マダム――――!」
また叫びます。
「だ・・・旦那様・・・。」
メイドがそっと声を掛けると、亭主はメイドに泣すがりました。
「おぉ!一体何故!何故こんなことに!一体誰が!」
「今、検察の方と探偵の方がお調べに・・・。旦那様のお話も・・・。」
「聞きたいのだな!好きなだけ聞かせよう!マダムの素晴らしさを!」
暑苦しいです。物凄く暑苦しいです・・・。
と言うわけで、私達は改めて息子の部屋へと行き、亭主にも変わった様子はないかと尋ねました。
「特にないな!」
やはりと言えば、やはりです。
亭主の話しでは、遅れた理由は渋滞にハマっていたとの事。当然こちらも確認しましたよ。交通情報では、確かに渋滞していました。
午後一時五十分、会社を出る。その後大通りで渋滞にハマり、今に至る。マダム死亡時午後一時四十分は、まだ会社の自室に居たとの事。それを証明する人物はいないが、会社を午後一時五十分に出る所を見た者は居るとの事。
「息子さんの事で、マダムと言い争いとかは、していませんでした?」
父の質問タイムが始まります。
「まさか!仲睦まじい夫婦でしたので、わたし達は!」
全否定です。しかし、逆に怪しかったりします。
「息子さんから、何か連絡は?」
「未だに有りません・・・。この事を知ったら、さぞ悲しむだろう!」
「では、息子さんの家出の原因等に、心当たりは?」
「全くありません!」
そこは自信満々で言う所では、無い様な気がします。
あれ?よくよく聞いてみると、父は亭主に息子の事ばかりを聞いています。これは一体・・・。
「では、息子さんが行きそうな場所とかに、心当たりは?」
「探しました!全て!学校も図書館も塾も!大好きだった海も!しかしいませんでした!」
「そうですか・・・。」
もしやとは思いました。父は息子を疑っているのでは・・・。
「以上です、ありがとうございました。」
「え?もう終わりなんですか?」
驚くメガネでしたが、父の尋問はいつもこんなものです。嘘つきは自然と分かるそうなので。ですが今回の父の考えは、流石の私も少し分かりません。息子を疑う気持ちは、写真から言っても、私にも有ります。しかし、メイドの証言や、亭主のアリバイにも疑わしい点が有ります。
「これからどうするのですか?」
「取り合えず、周囲の聞き込みからでも始めよう。ここの住人の証言は信用ならないからな。」
「聞き込みですかぁ・・・。」
物凄く面倒臭いです。聞き込みは余計な世間話まで聞かされるので、色々と厄介なのです。
「面倒くさがるなよ。」
父に心を読まれてしまいました。ダルマの癖に・・・。
まず始めに、近所の聞き込みからスタートをしました。まぁ基本と言えば基本です。
近所の方の話しは、こうでした。
「あの夫婦は、本当に仲がイイわ。よく二人で出かける所を見掛けるもの。」
「あぁ、あの夫婦ねぇ。仲はいいけど、どうも無愛想で好かん。わしは挨拶が出来る人間が好きだ。亭主の方は五月蝿いくらいに挨拶をしてくるが、マダムはなぁ・・・。」
「あそこの息子?余り見ないからねぇ。なんでも、引き籠もりだったらしいわよ。学校にもまともに行っていなかったとか。でもお金持ちだから、家庭教師でも雇ってたんじゃない?」
「この間、喧嘩する声が聞こえたよ。なんかマダムの方が、酷く怒っていたね。喧嘩の原因?さぁ・・・。息子の事だろ。」
ここに来て、息子の新たな情報をゲットしました!どうやら息子は、引き籠もりで学校にもまともに行っていない様です。おまけに最近夫婦は喧嘩をしたとか・・・。亭主の嘘が一つバレましたね。
更に聞き込みを続けます。マダム死亡時刻時の屋敷周辺に、怪しい人物等は見なかったかと、聞きました。しかし、この質問に対しては、誰もが「見なかった。」と口を揃えて言ってきます。
怪しい人物はいなかった。ならば怪しくない人物はどうでしょう?この質問に一人の老人はこう答えました。
「あぁ・・・確かクリーニング屋さんが来ていたのう。ちょくちょくと来る人だから、顔はよく覚えておるわい。」
なんとマダム死亡時刻時に、クリーニング屋さんが訪問をしに来ていた事が判明です!確かメイドがクリーニングを出しに行ったと言っていましたが、ここに来てメイドの証言に疑惑が掛かりました。
老人曰く、インターホンを鳴らしても、誰も出る様子がなかった様なので、すぐに帰ってしまったとか・・・。私はこの老人の証言で、犯人が誰なのかが分かってしまいました!私が分かったと言う事は、当然父も分かったはずでしょう。ズバリ、犯人はメイドです!
マダム殺害後、クリーニング店へ行きアリバイを作ったのでしょう!何故なら、老人曰くクリーニング店は、デリバリーをしてくれるお店だそうで、マダムはいつもデリバリーを頼んでいたとか。だからわざわざ、お店へと足を運ぶ必要はなかったのです!
・・・と言いたいところですが、死亡時刻と噛み合いません。だからと言い、メイドが白とは限りませんよ。ここはやはり裏を取る事が大事です。
メイドの証言が本当かどうか、クリーニング店へとやって来ました。ちなみに父は、メイドが犯人だと、確信はしてはいないものの、疑いはしている様子。
「メイドは何時頃来ましたか?」
父の質問に、クリーニング店の女性店員が答えます。
「確か、十一時半前位だったかしら。」
メイドの証言時刻と一致しています。
「いつもはデリバリーで?」
「はぁ・・・。」
「では、何故今日に限って店まで?」
「あぁ、出掛けるついでだからと。」
「こう言う事は、よくあるのですか?」
「えぇ、たまに。まぁ世間話をする目的で・・・が多いですけどねぇ。」
「成程。」
父の質問タイムは終了です。どうやらメイドのアリバイが、一つ証明されました。
しかし不思議です。午前中にクリーニング店へと行ったのならば、何故午後にクリーニング店が屋敷へと訪問をしに来たのでしょうか?証言者の老人の話しでは、訪れたクリーニング屋さんは手ぶらだったとか・・・。ならば衣服を配達しに来たわけでもありません。衣服を回収に来たわけでもない・・・疑問です。
その事について、父ではなく私が鋭く聞いてみると、女性店員は不思議そうな顔をしました。
「あら?お屋敷に行ったんですか?あらやだ。私ったら、今日は必要ない事、担当に言い忘れたのかしら?」
どうやら女性店員は、マダム宅の地区担当者に、今日は寄らなくていい事を言い忘れたと思っている様子。
「担当の方と、お話は出来ますか?」
「えぇ、ちょっと待ってて下さいね。」
私の要望に、女性店員は快く答えてくれます。少し良い気分です。
店の奥から、痩せた青年が出てくると、青年は私達に向かい軽く会釈をしました。
「どうも、マダム宅の担当の者ですが・・・。」
見るからにひ弱そうで、根暗そうな青年です。こんなに痩せっぽっちで、衣装等沢山運べるのでしょうか?まぁそんな事はどうでもいいとして・・・。早速青年に今日の事を聞いてみました。
「はい・・・行きましたよ。二時に来てくれと・・・携帯の方に連絡が来ましたので・・・。」




