マダム殺人事件
事務所のソファーと違い、フカフカで座り心地の良いブランド家具の高級ソファー。事務所の紅茶とは違い、香も強く味も濃厚な高級ティー。あぁ・・・美味しいです。マダムはいつも、こんな美味しい紅茶を飲んでいたのですね。何とも妬ましい。
私と父は、豪華なリビングで豪華なソファーに座り高級な紅茶に舌を包みつつ、亭主とこの豪邸で働くメイドの帰りを待っていました。どうやらメイドは、買い出しに行っていた様です。
私達はメガネから、改めて『マダム殺人事件』の調査依頼を受けました。何故殺人事件かと言うと、メガネの調べで他殺だと判明したからです。
マダムは二階から突き落とされ、一階の大理石の床に頭を強打して死亡。突き落とされたと言う証拠は、衣服が乱れ抵抗した形跡があった事から。そしてマダムの左手には、何と息子が持っているはずの、愛犬ゴールデンレトリバーと亭主と写った魚釣りの時の写真を握りしめていたそうです。
自分達では調べないのかって?調べませんよ、面倒臭い。ですが父は少し調べた様子で、父曰く、マダムは抵抗はしましたが、争いはしていない様子。何故なら容疑者を引っ掻いたり、髪の毛を引張たりした痕跡が、全く無かったそうです。つまり容疑者は顔見知り、と言う事になりますね。
今の所、容疑者は亭主、メイド、息子の三人。息子はマダムが写真を握りしめていた事から、一度帰宅した可能性が有ると見ての事。亭主とメイドは同じ家に住む者なので、自動的に容疑者の中に入ってしまいます。まぁこの三人の誰か、と言う事は、間違いないでしょう。問題は、誰が、何の為に?と言う事です。
「遅いなぁ。」
父はボヤきます。確かに遅いです。メイドは車で近くのスーパーに買い出しに行っているので、戻って来るのにそう時間は掛からないはず。亭主も自宅から会社までは、車で二十分の所に車で通勤しています。連絡をしてから、もう三十分も経つのに、二人共未だに戻って来る気配はありません。
「逃げたのでは?」
「それは無いだろう。」
そうとも限りませんよ。どちらかが犯人ならば、逃げた可能性も有ります。
「こうしていても仕方ない。息子の部屋でも見に行くか。」
「行くのですか?」
「どちらにせよ、見とかないと。息子も容疑者の一人だからな。」
「ですよねぇ~。」
とてつもなく面倒臭いです・・・。
私達は息子の部屋へと向かいました。息子の部屋が何処かって?すぐに分かりますよ。ドアに札が掛かっていたので。
「ここか。」
「ですね。ドアに息子って札が掛かっていますから。」
息子の部屋へと入ると、中にはメガネがいました。どうやらメガネも、息子の部屋を探索に来ていた様です。
「あぁ、どうも。丁度何か出てこないかと、調べていた所ですよ。」
「それで、何か出てきたのですか?」
「いや・・・それが何も出てこなくて。変わりに無くなっている物ならありましたよ。」
それを出てきたと言うのではないのでしょうか・・・。
「何が無くなっていた?」
「写真です!ほらっ、写真立ての中の写真が、無くなっています。」
自信満々に言うメガネでしたが、それは息子が持ち出し、その後マダムの左手の中へと移動した、写真の事ではないでしょうか。
「マダムが握りしていた写真が、この写真立てに入っていたのですね。」
「そう!その通りです!」
やはり・・・。
「それで、他には何か無くなっていたか?」
「いえ・・・他には特に変わった様子はないですねぇ・・・。」
そう言うメガネでしたが、よくよく考えたら私達は初めて息子の部屋へと来ました。何かが無くなっていたり、位置が移動していたりしても、分からないのではないでしょうか。そう当然の疑問に襲われてしまいました。
「あのぅ・・・。メイドか亭主が来てから、見てもらった方が分かるのでは?私達は、初めて息子の部屋に入るのですし。」
「おぉ!確かにそうですね!」
このメガネは無能です。
「噂をすれば、メイドが帰って来たみたいだ。」
父の言葉通り、メイドは慌てながら、帰って来ました。買い物袋は持っていません。多分車の中でしょう。
どうやらメイドが遅れた理由は、慌てるあまりタイヤがブロックに乗り上げてしまい、勢いよく発進をした弾みで、パンクをしてしまった様です。タイヤ交換に手間取っていたそうですが、本当かどうかはタイヤを調べれば分かります。
「では、タイヤを調べさせて貰っても構いませんね?」
私がそう尋ねると、メイドはあっさりと了承をしてくれました。つまらない・・・。
「こちらのタイヤです・・・。」
気の弱そうなメイドは、パンクしたタイヤを指さしました。どうやら右後ろのタイヤがパンクしたみたいですね。
「どれどれ。」
メガネがタイヤを調べると、確かに新しく交換されたタイヤだそうで、疑われない様にか、メイドからパンクをしたタイヤを差し出して来ました。
「あの・・・。トランクにパンクしたタイヤが・・・。」
確かにトランクの中には、パンクをしたタイヤが入っていまいした。メイドの証言は本当の様ですね。
私達は息子の部屋へと戻ると、改めてメイドに、何か部屋の様子は変わってはいないかと見て貰いました。しかし、メイドが見ても特に変わった様子は無いようで、息子の部屋は何の参考にもなりませんでした。
仕方なく、亭主が戻る間、私達はメイドから色々と聞き出す事にしました。
「まず、息子さんが帰って来た形跡はありましたか?」
メガネが息子の事から訪ねます。そうですね、写真の事は気になりますし。
「いえ・・・。私は何の物音も聞きませんでした・・・。私が出かけたのは、随分と前でしたので・・・。」
聞いてもいない事も答えるのは、少し怪しいですね。
今は午後二時三十分。マダムの死亡時刻は、午後一時四十分。メイドが出かけたのは、午前十一時だそうです。
「こんな時間まで、買い物ですか?随分と時間が掛かるのですね。」
当然と言えば、当然の疑問。
「いえ・・・。クリーニングに寄っていたり、マダムに頼まれたお使いをしたりとしていたので・・・。」
「マダムのお使いとは?」
「オーダーメイドのコートを、取りに行っていたので・・・。ここからは離れたお店なので・・・。」
「成程、それで時間が掛かるから、早く出たわけですね!」
納得をするメガネです。
「見せて頂いても?」
やはり証拠は大事ですから。
「はい・・・。車の中に・・・。」
また車です。また移動です。面倒臭いです。
車の中には、確かに豪華なファーのコートが入っていました。妬ましい・・・。ついでに買い物袋も、やはり車の中に。クリーニングは、取って来たのではなく、出して来た様です。
となれば、次はアリバイです。当然メイドが行ったクリーニングと、コートのお店の番号を聞き、メガネが確認をしました。
午前十一時二十分、クリーニング店に到着。午前十一時四十五分に店を出る。これは世間話をしていた為。午後十二時三十分にコートの店に到着。受け取りを済ませ、午後十二時四十七分に店を出る。スーパーには、午後一時四十分に到着。そして今に至る。
しかし妙です。買い物の時間が、余りに短すぎます。買い物袋は二つ。何かが引っ掛かります。
「買う物は、もう決まっていた様ですね。買い物の時間が、とても短いですから。」
透かさずツッコミを入れますが、メイドはあっさりと返答をして来ました。
「はい・・・。いつも買う物は、大体決まっていますから・・・。カゴに入れていくだけですので・・・。」
「成程ね。」
父もメガネも、メイドの返答に納得をしていましたが、私は完全に納得はしませんでした。人を疑う事から、調査は始まりますので。




