第一章③
「え?」俺は意味が分からない。
「だから陰陽師です、映画とかに出てくる。」女は怠そうにこたえる。
「そういう意味じゃなくて、なんで陰陽師がこんなへんぴな町にいるんだ、ていうかあれはなんだ?」地面の上でうごめく黒い塊。
「あぁ、あれは影喰いです。」
影喰い
江戸時代の文献にも書かれている妖怪。普段は影の中に潜んでいるが夜闇にまぎれ人や動物、とくに子供を襲うと言われている。江戸時代以前の書物にも書かれている。
「そんなことを聞いているんじゃねぇ、そもそもそんな非現実的なものを信じれる方がおかしいだろ。」
「おかしいも何もあなた実際に見えてるんですよね?」
「・・・・・・・」
「ここでごたごた言ってても始まらないので、先にあれをかたずけます。」
彼女はポケットから札のようなものを5つ取り出した。
「そんなもんでどうするんだ?」
「うるさいので黙ってみててください」
彼女は札に向かって何かを唱え影喰いに向かって放り投げた。
札は影喰いを中心に綺麗五角形を描くように飛び地面に張り付いた。
彼女が手を振り下ろすとその札は光り輝き、札と札の間に光が流れ、影喰いを囲む星形となった。
パンッ
彼女手を叩くとその光は影喰いを包む大きな光となり、包み込みそして光は最後に大きく瞬き影喰いとともに消えた。
「な、なんじゃこりゃ」俺は口を空けたままその様子を見ていた。
「ふぅ、終了です。」
彼女はけだるそうに手をはたいた。
「・・・・・・・終了ですじゃないだろ、なんだ今のは?」
「ただの基礎的な封印術ですが。」
「影喰い?だっけ、あれはどこに行ったんだよ。」
「あなたも見ていたじゃないですか、封印、今回の場合は消滅と言った方が正確ですがね」
「こんなことがあり得るのか?」
俺の頭は目の前で起きたことについていけずぐちゃぐちゃになっていた。
「とりあえず、緊急事態は終わったのでさっさと行きましょう」
「行くってどこに?」
「・・・あなたは何しにこんなところまで来たのですか?」
「何しにってさっきのやつに追われて。」
「あなたのは思っていた以上におつむが弱いようですね、だから何のためにこの町まで来たのかと聞いているのです。」
「さりげなく暴言を挟んでんじゃねぇよ、俺はこの町に・・・あっ」
俺はここでこの町に来た目的、母の姉?である彩音に会うことを思い出した。
「しまった、すっかり忘れてた。」
「やっと当初の目的を思い出したようですね、さっさと行きますよ。」女は歩き出した。
「行くってどこにだよ?」
「どこまで鈍いんですか、あなたは何から何まで説明しないと理解できないのですか?、はぁ」彼女は頭を押さえた。
「彩音様のところに決まっているでしょう」
「そうだよな、ってなんであんたがそのことを知ってるんだ?」
彼女は口を空けて固まった。
「おつむが弱いとは感じていましたがまさかここまでとわ、あなたの脳みそは鳥・・・・・失礼。ミジンコ以下です。」
「ひ、ひでぇ」
「もしかしてまだ私が誰なのかわからないんですか?」
「誰って初対面のやつのことを俺がわかるはずないだろ。」
「その微生物レベルの脳をフルに回転させてよく考えてください。」
そうは言われてもこんなキャラの濃いやつを忘れるはずがない。
見てくれはすさまじく美人だし何よりこの敬語の割に上から目線かつ心をつかぬくような物言い。
あったことがあるなら絶対に忘れるはずがない。
「まだわからないんですか?、いい加減私も疲れました」
あきれた様子でこっちを睨めつけた。
やばいなぁ、やっぱりくそ美人だ。
そんな目で見つめられたらぞくぞくする。
言っておくが俺はMなわけではない。
このしゃべり方と威圧的な態度さえなければ絶対モテるのに。
でも言われてみればこのしゃべり方どこかで・・・
目をつむって真剣に考えた。
・・・・・・・・・・・「吊るしますよ?」・・・・・・・・・・・・・・・
「あぁ!!!お前もしかして電話の。」
「気づくのが遅すぎです、この単細胞生物。」
女は思いっきりため息をついた。
「それに女呼ばわりはやめてください、私には富樫 蒼空(とがし そら)という名前があるので。」
「わかった、んで?これから俺はどうすればいいんだ?」
「決まっているでしょう、今から彩音様の所へ向かっていただきます。」