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『好きだから』

作者: ミオ
掲載日:2026/08/20

「どこにいる?」


彼女から返事が来るまで、男は何度もiPhoneの画面を見る。


既読がつかない。


たったそれだけのことなのに、胸の奥がざわつく。


誰といるんだろう。


何をしているんだろう。


俺の知らない誰かと、楽しそうに笑っているんだろうか。


そんなことを考え始めると、止まらなくなる。


「好きだから……」


男は小さく呟いた。


好きだから、知りたい。


好きだから、そばにいてほしい。


好きだから、自分以外の男を見てほしくない。


それだけだった。


「今日は何してたの?」


「誰といたの?」


「明日は?」


彼女は最初、笑って答えてくれていた。


好きだから聞いてくれている、それが嬉しかったんだと思う。


けれど、少しずつ質問が増えていく。


連絡が遅いと不機嫌になる。


予定を伝えないと怒る。


男友達の話をすると、露骨に機嫌が悪くなる。


「俺以外の男と、そんなに仲良くする必要あるの?」


彼女は困ったように笑った。


「友達だよ?」


「分かってる。でも嫌なんだ」


男は正直だった。


嫌なのだ。


彼女が誰かに笑いかけることも。


自分の知らない場所へ行くことも。


自分の知らない時間を過ごすことも。


全部、嫌だった。


そして、そんな自分を悪いとは思えなかった。


――それだけ好きなんだから。


そう思っていた。


ある日、彼女が言った。


「私のこと、好き?」


男は即答した。


「好きだよ」


「じゃあ、どうして私のことを自由にしてくれないの?」


言葉に詰まった。


自由にしたら、離れていってしまう気がする。


自由にしたら、いつか誰かに取られてしまう気がする。


だから縛る。


だから確認する。


だから繋ぎ止める。


それが愛だと思っていた。


「俺は、失いたくないんだよ」


男がそう言うと、彼女は静かに笑った。


「私を失いたくないなら、私が自分からあなたのところに帰りたいってそう思うような、そんな人になろうとは思わない?」


その言葉が、胸に刺さった。


縛っておけば、離れないと思っていた。


追いかけ続ければ、逃げないと思っていた。


けれど、本当は逆だった。


愛しているから自由にできないのではない。


失うのが怖いから、自由にできないのだ。


好きだから。


大切だから。


その言葉の裏側には、


「俺を置いていかないで」


という、幼いほどの不安が隠れていた。


男はiPhoneを握りしめた。


そして初めて、彼女に送ろうとしていた言葉を消した。


「今どこ?」


ではなく、


「楽しんできてね」


と打った。


送信ボタンを押す指が、少し震えた。


好きだから、縛りたい。


好きだから、独り占めしたい。


でも――


本当に好きなら、


鎖で繋ぐのではなく、


自由なまま、自分のところへ帰ってきたいと思わせる男にならなければ…。


その夜、男は初めて、


「愛する」と「所有する」は違うと知った。

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