理由不明レベルアップ
夜。
宿の部屋は、音を失っていた。
窓の外では、誰かの足音が遠ざかり、
昼の騒ぎが嘘だったかのように、
街は静まり返っている。
青年は、何も言わず眠っていた。
寝息は浅い。
夢を見ているのか、
時折、眉がわずかに動く。
俺は、壁に立てかけられたまま、
ただ、そこにあった。
――妙だ。
理由は、分からない。
だが、
嫌な予感に近いものがあった。
視界に、表示が浮かぶ。
⸻
《装備名:無銘のショートソード》
《攻撃力+2》
《付与効果:なし》
《耐久度:95 / 100》
《売却価格:――》
⸻
見慣れた数字。
ここ数日で、
何度も確認した表示だ。
……それなのに。
その奥が、
わずかに揺れた。
文字が滲むわけでもない。
書き換わる前兆があるわけでもない。
ただ、
満ちていく感覚だけがあった。
熱ではない。
光でもない。
重さに近い。
だが、重くはない。
説明しろと言われても、
できない。
昼のことが、
脳裏をよぎる。
倒れた勇者。
動かなくなった体。
誰も拾わなかった剣。
……関係、あるのか?
そんな疑問が浮かんだ瞬間。
表示が、
音もなく書き換わった。
⸻
《装備名:無銘のショートソード》
《攻撃力+3》
《付与効果:なし》
《耐久度:100 / 100》
《売却価格:――》
⸻
……増えている。
一目で分かるほど、
はっきりと。
だが、
理由が、ない。
戦っていない。
鍛えられてもいない。
ただ、
時間が過ぎただけだ。
俺は、しばらく黙っていた。
考えないようにしても、
考えてしまう。
昼。
勇者は、死んだ。
夜。
俺は、強くなった。
偶然だ。
そういうことも、ある。
世界は広い。
因果なんて、
都合よく繋がるものじゃない。
……たぶん。
翌朝。
青年は、何事もなかったように起き、
いつも通り俺を手に取った。
抜刀。
ヒュッ。
空気を裂く音が、
短く、鋭い。
「……あれ?」
青年は、
少しだけ首を傾げる。
「昨日より、軽い……?」
試すように、
もう一度振る。
ヒュッ。
今度は、
何も言わなかった。
気のせいだと、
自分に言い聞かせるように。
俺も、
同じことをした。
理由は、分からない。
仕組みも、知らない。
ただ一つ、
確かなことがある。
勇者が死んだ日と、
俺が強くなった日は――
同じだった。




