表示が、書き換わる
夜。
青年がベッドに倒れ込み、
ほどなく寝息を立て始めた。
俺は、鞘の中。
静けさの中で、
いつもの感覚を待つ。
やがて――
視界に、表示が浮かんだ。
⸻
《初期装備:訓練用ショートソード》
《攻撃力+1》
《付与効果:なし》
《耐久度:95 / 100》
《売却価格:銀貨3枚》
⸻
見慣れた表示。
だが、今日は。
文字の輪郭が、わずかに揺れている。
まるで、
書き換えを拒んでいるみたいに。
次の瞬間。
画面が、暗転した。
――バチッ。
小さな、弾けるような音。
そして。
⸻
《装備名:訓練用ショートソード》
⸻
一行だけが、表示される。
その文字が、
じわりと滲み――
消えた。
代わりに、
新しい文字が打ち込まれていく。
⸻
《装備名:無銘のショートソード》
《攻撃力+2》
《付与効果:なし》
《耐久度:95 / 100》
《売却価格:――》
⸻
……ああ。
これが。
世界の判断か。
初期装備。
訓練用。
値段付きの消耗品。
その枠から――
外された。
続いて、内部情報。
⸻
【内部情報】
武装種別:回収対象
成長段階:3
同調率:31%
補正:
・重量補正(中)
・軌道補正(中)
・衝撃吸収(小)
⸻
数値は、静かだ。
だが、意味は重い。
俺はもう、
「最初に持たされる剣」じゃない。
値段も、表示されない。
売る前提ですら、
扱われていない。
翌朝。
青年は、いつも通り俺を抜いた。
――スッ。
その瞬間。
「……あ」
動きが、止まる。
青年は、俺を見下ろした。
首を傾げる。
「……重さは、同じなのに」
何度か、振る。
シュッ。シュッ。
音が、揃っている。
「……戻りが、速い」
言葉にしてから、
自分で驚いたような顔をした。
「……え?」
「なんで、こんな……」
見えていない。
表示は、まだ。
だが。
“初期装備”じゃない感触は、
もう誤魔化せない。
街へ向かう途中、
武具屋の前で足が止まる。
昨日まで、
通り過ぎていた店。
今日は――
なぜか、入った。
店主が俺を見る。
一瞬。
視線が、止まる。
「……それ」
低い声。
「初期装備じゃ、ないな」
青年が目を丸くする。
「え?」
「表示は、まだ訓練用だ」
「だが……振りが違う」
店主は俺を受け取り、
軽く構える。
――シュッ。
空を切る音。
眉が、わずかに動いた。
「……名もない剣だ」
「だが、もう“最初の一本”じゃない」
青年は、戸惑ったように笑った。
「そう……なんですか」
分かっていない。
だが、
否定もできていない。
俺は、静かに確信する。
もう、戻れない。
お店を出たあと青年は、軽く笑った。
「……使いやすいなら、いいか」
そう言って、
何事もなかったように、鞘に収める。
俺は、静かになった。
表示は、もう動かない。
今の俺は――
初期装備じゃない。
それだけで、十分だった。




