剣が、ほんの少しだけ応えた
その日から、青年は毎日、剣を振った。
朝。
街の外れ。
人のいない場所。
「昨日より、少しだけでいい」
そう言って、俺を抜く。
相変わらず動きは遅い。
派手さもない。
だが――
無駄が、減っている。
足の運び。
重心。
振り終わりの姿勢。
全部、少しずつ良くなっている。
(……成長、早くないか?)
俺は剣だ。
だが、なぜか分かる。
この青年は、吸収が異様に早い。
「……今の、昨日より軽い気がする」
青年が呟く。
気のせいじゃない。
俺の中で、何かが――
ほんのわずか、揺れた。
その日の午後。
再び魔物と遭遇した。
昨日と同じ種類。
だが、今度は二体。
青年の足が止まる。
「……二体、か」
一瞬の迷い。
だが、逃げなかった。
「大丈夫……」
「昨日できたんだ」
距離を取る。
地形を確認する。
突っ込まない。
囲まれない。
一体が前に出た。
来る。
俺を構える手に、力が入る。
――その瞬間。
スッ、と。
俺の重さが、消えた。
(……は?)
軽い。
明らかに、軽い。
青年も目を見開く。
「……え?」
だが、考えている暇はない。
魔物が跳ぶ。
青年は一歩踏み込み、
最小限の動きで俺を振った。
刃が、魔物の首元を正確に捉える。
――深い。
昨日とは、比べものにならない。
魔物は、即座に倒れた。
「……今の……」
青年が、息を呑む。
二体目が怯み、距離を取る。
青年は追わない。
無理をしない。
だが――
次の瞬間。
俺が、自然に進む方向を示した。
ほんの、感覚程度。
だが、確かに。
青年は、それを感じ取った。
「……そっち、か」
疑わず、踏み込む。
振る。
刃が、魔物を捉える。
二体目も、倒れた。
静寂。
青年は、呆然と俺を見つめた。
「……今の」
「俺、こんな動き……できたか?」
できていない。
昨日までは。
だが、答えは言えない。
俺は、剣だから。
青年は、ゆっくり息を整える。
そして、小さく笑った。
「……ありがとう」
また、それだ。
当然のように、そう言う。
俺を、
勝手に使ったりしない。
成果を独り占めもしない。
一緒に戦った結果として、礼を言う。
……やめてくれ。
そんなことされたら。
――応えたくなるだろ。
その夜。
鞘の中で、俺は気づいた。
ほんのわずかだが、
俺の中に――
力が、戻ってきている。
理由は分からない。
仕組みも知らない。
ただ一つ、確かなこと。
この青年が剣を握るとき。
この青年が、俺を信じるとき。
俺は、
少しだけ――
本気になってしまうようだ。




