大切にされるということ
拾われた瞬間、分かった。
この人は――
俺を、投げない。
夜の路地で俺を拾い上げた青年は、しばらく黙って俺を見つめていた。
剣身の細かな傷。
柄に残る擦れ。
「……結構、使われてるな」
値踏みじゃない。
文句でもない。
ただの確認。
青年はゆっくり俺を鞘に収め、宿へ戻った。
歩き方は頼りない。
背中も丸い。
強者の気配は、まるでない。
それでも――
壁にぶつけない。
人に当てない。
無駄に振り回さない。
それだけで、胸の奥が静かになった。
翌朝。
青年は俺を腰に差し、街の外れへ出た。
「……いきなり戦うのは、怖いからさ」
「まずは、振るだけでいいよな」
誰に言うでもなく呟き、俺を抜く。
遅い。
構えも甘い。
だが――
雑じゃない。
ひと振りごとに呼吸を整え、
足の位置を直し、
同じ失敗を繰り返さない。
「今の、力入りすぎだな……」
「もう一回」
失敗を、俺のせいにしない。
昼過ぎ。
木陰で休んでいるときだった。
――気配。
草が擦れる音。
低い唸り声。
(来るぞ)
小型魔物。
単体。
牙と爪だけの、初心者向け。
青年の動きが、一瞬止まる。
呼吸が乱れる。
握る手が、震える。
「……大丈夫」
「一体だけだ」
自分に言い聞かせるように呟き、距離を取る。
突っ込まない。
逃げもしない。
魔物が跳んだ。
反射的に、俺が前に出る。
ガンッ。
衝撃。
浅いが、受け止めた。
青年は後ろに下がり、体勢を立て直す。
「今の……受けられた」
声が震えている。
だが、目は逸れていない。
魔物が再び突進。
今度は横。
「――っ!」
遅れる。
完全じゃない。
だが、青年は最後まで剣を離さなかった。
俺の刃が、魔物の肩をかすめる。
血が飛ぶ。
浅いが、確実な一撃。
魔物が怯む。
「今だ……!」
青年は踏み込んだ。
大振りじゃない。
力任せでもない。
ただ、当てるための一振り。
刃が、魔物の胴を裂いた。
魔物は倒れ、動かなくなる。
しばらく、音がなかった。
青年は膝から崩れ落ちる。
「……勝てた」
「俺……勝てた……」
荒い息。
汗。
震える手。
それでも――
笑っていた。
俺を見下ろし、小さく頭を下げる。
「ありがとう」
はっきりとした声で。
……ああ。
これだ。
恐怖から逃げず、
失敗を他人のせいにせず、
剣を信じて、最後まで握り続ける。
それが、
大切にされるということ。
強さじゃない。
才能でもない。
一緒に戦おうとする、その姿勢。
俺は思った。
この人なら――
まだ何者でもなくても、
最低勇者と呼ばれていても。
きっと、前に進める。




