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最初の持ち主は、最低だった

はっきり言おう。

 俺の最初の持ち主は、どうしようもなかった。


 見た目だけなら、そこそこ整っている。

 年齢も若く、声も大きい。

 勇者に選ばれた、と聞けば「それっぽい」と思う人もいるだろう。


 だが、中身が致命的だった。


「俺、勇者なんだけど?」


 それが口癖だった。


 宿屋ではそれを免罪符のように使い、

 兵士にはそれを理由に命令し、

 失敗すればそれを盾に責任から逃げた。


 俺は腰に差され、街を歩かされていた。

 いや、「歩かされていた」というより、雑に振り回されていた。


 角を曲がるたびに壁にぶつかり、

 人混みでは誰かの肘に当たり、

 時々、地面に落とされかける。


 ……耐久度は100ある。

 だが、これはそういう問題じゃない。


「初期装備ってさ、マジでゴミだよな」

「まあ、俺が使えば関係ねーけど」


 何もしていないうちから、装備のせいにされる。

 前世でも聞いたことがある気がするな、こういう言い分。


 その日の依頼は、街の外れに出没する小型魔物の討伐。

 初心者向け。

 訓練を受けた兵士がつけば、事故の起きようがない。


 ――普通なら。


「前出るのは俺な! 勇者だし!」


 兵士の制止を無視し、勝手に前へ出る。

 敵の数も見ない。

 仲間の配置も聞かない。


(ああ……)


 胸の奥が、嫌な感じにざわつく。


 案の定、魔物は一体ではなかった。

 囲まれ、焦り、俺を振り回す。


「なんで当たんねーんだよ!」

「切れ味悪すぎだろ!」


 それはお前の腕が悪い。


 魔物の爪が防具の隙間に入り、悲鳴を上げる。

 体勢を崩し、地面に転倒。


 俺は地面に叩きつけられ、また掴まれる。


「くそっ! やっぱ初期装備じゃ無理だって!」


 来た。

 失敗は全部、装備のせい。


 兵士たちが必死にフォローし、

 なんとか撤退。


 命は助かった。

 評価は、最悪だった。


「……勇者って聞いてたんだが」

「怖くなると剣振り回すだけだな」


 当然の評価だ。


 だが、本人は納得していなかった。


「チッ……」

「運が悪いわ」

「こんな剣じゃなきゃ余裕だったのに」


 宿に戻ると、酒を飲みながら愚痴を始めた。


「剣が悪い」

「装備が弱い」

「国がケチ」


 ――自分が悪い、という選択肢は、最初から存在しない。


 そのとき、耳に入った。


「なあ、初期装備って売れるらしいぞ」

「銀貨三枚だってよ」


 ……おい。


 嫌な予感が、確信に変わる。


「まあ小遣いにはなるか」

「どうせもう使わねーし」


 夜。

 宿屋の裏手。


 俺は、何の前触れもなく外に持ち出され、

 無造作に地面へ投げ捨てられた。


 ガンッ。


 耐久度は、まだ残っている。

 だが、それ以上に、はっきり理解した。


 ああ。

 こいつは俺を――

 道具ですらなく、金に換えるゴミとして見ている。


 足音が遠ざかる。

 戻ってくる気配は、ない。


 夜風が冷たい。

 視界には星空だけ。


 そのときだった。


「……え?」


 戸惑った声が聞こえた。


「なんで……こんなところに剣が……」


 誰かが、立ち止まる。


 次の瞬間、俺は拾い上げられた。


 乱暴じゃない。

 落とさないように、両手で。


 その手は、少し震えていた。


(……ああ)


 分かる。


 この人は、さっきの男とは違う。


 強くもない。

 自信もなさそうだ。

 でも――


 俺を、ちゃんと「剣」として扱っている。


 久しぶりに、胸の奥が静かになった。


 次は、

 次こそは――

 捨てられないかもしれない。


 俺は、そう思ってしまった。

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