更新
夜。
森は、完全に静まり返っていた。
青年の体は、
教会の者たちによって運ばれていく。
手際は、良い。
慣れている。
血の跡だけが、
地面に残された。
俺は、
白い外套の男に拾い上げられた。
無造作に。
確かめるように、
一度だけ抜かれる。
刃が、月明かりを反射した。
「……訓練用だな」
それだけ。
興味を失った声。
布に包まれ、
他の装備と一緒に放り込まれる。
運ばれる間、
誰も俺を見ない。
教会。
石造りの建物の奥。
地下。
重たい扉。
湿った空気。
倉庫だ。
俺は、
棚の隅に戻された。
最初にいた場所。
初期装備が、
積まれている場所。
同じ形。
同じ重さ。
同じ扱い。
――同じに、見える。
夜。
灯りが消える。
完全な暗闇。
そのとき。
視界に、
表示が浮かぶ。
⸻
《装備名:無銘のショートソード》
《攻撃力+7》
《付与効果:なし》
《耐久度:100 / 100》
《売却価格:――》
⸻
……変わっている。
確実に。
だが。
外から見れば、
何も変わっていない。
錆もない。
光りもしない。
隣に積まれた剣と、
区別はつかない。
だが、
俺は知っている。
この数値は、
今日、増えた。
理由は――
まだ、分からない。
だが、
考える間もなく。
表示が、
書き換わった。
⸻
【更新通知】
勇者候補ID:第七三番
状態:死亡
処理:完了
補充:準備中
⸻
……補充。
その言葉が、
胸に引っかかる。
続けて、
小さな行が現れる。
⸻
戦闘ログ参照
紐付け装備:未登録
評価対象外
⸻
評価、対象外。
つまり。
青年は、
勇者候補だった。
俺と出会う前から。
知らなかった。
俺は、
本当に何も。
彼が、
選ばれていたなんて。
表示が消える。
倉庫には、
何事もなかったような静けさが戻る。
棚には、
同じ剣が並んでいる。
だが。
俺は、
もう“同じ”じゃない。
ここに戻ってきた。
最初の場所に。
けれど――
元のままでは、ない。




