教会
石造りの天井は、高い。
声を落とさなければ、
祈りでさえ反響する。
教会の奥。
一般の信徒が立ち入らない部屋で、
数人の司祭が円卓を囲んでいた。
「……欠員、一」
年老いた司祭が、
淡々と告げる。
誰も驚かない。
誰も嘆かない。
「補充は?」
「済んでいます。
昨日付で、次の勇者が任命されました」
書類が一枚、
卓の中央に置かれる。
名前。
年齢。
適性。
それだけ。
命についての記載は、ない。
「今回も、早かったな」
「ええ。
最近は特に」
若い司祭が、
少しだけ声を落とす。
「……消耗が、激しい」
一瞬、
沈黙が落ちた。
「仕方あるまい」
年老いた司祭は、
静かに言った。
「勇者とは、そういう役割だ」
誰も反論しない。
反論できない。
「力の回収は?」
「問題ありません」
別の司祭が答える。
「全て、想定通りに――」
そこで、
言葉が止まった。
「……?」
円卓の空気が、
わずかに変わる。
「どうした」
「いえ……」
司祭は、
書類を見直す。
「回収量が、
前回と比べて……」
指が、止まる。
「……少ない?」
ざわめき。
「そんなはずはない」
「勇者は確かに死亡した」
「条件は、満たしている」
司祭は、
首を横に振った。
「それが……
数値が、合わないのです」
年老いた司祭が、
ゆっくりと目を細める。
「回収漏れ、か?」
「……いえ」
言い淀み。
「漏れというより――
分散しているような」
沈黙。
誰かが、
乾いた音で喉を鳴らした。
「……そんな記録はない」
「はい。
少なくとも、これまでは」
円卓の中央に、
光が灯る。
簡易的な聖具。
力の流れを示すもの。
本来、
一点に集まるはずの光が――
僅かに、
ズレている。
「……観測誤差だ」
年老いた司祭が、
そう結論づけた。
「今は、まだ」
その言葉に、
誰も異を唱えない。
だが。
若い司祭は、
胸の奥に残る違和感を
振り払えずにいた。
勇者は、補充される。
力は、回収される。
それが、
この世界の仕組みだ。
――はず、だった。
石造りの天井の下。
祈りの声が、
何事もなかったかのように響く。
だが、
ほんのわずかに。
歯車は、
噛み合い始めていた。




