転生したら勇者の初期装備だった件
目が覚めた瞬間、俺は確信した。
――これ、絶対ロクな転生じゃない。
まず、体がない。
手も足も動かないし、瞬きもできない。呼吸すらしていない。
「……あー、はい。死んだな、これ」
前世の記憶はしっかりある。
ブラック企業勤務、慢性的な寝不足、終電帰りの日々。
そしてある朝、目覚ましより先に意識が途切れた。
過労死。
あまりにも分かりやすい最期だ。
で、普通ならここから異世界転生。
チート能力もらって第二の人生スタート、のはずなんだが。
おかしい。
視界が、天井から一切動かない。
石造りの、やたらと高い天井。
首を動かそうとしても、動く気配すらない。
代わりに感じるのは、
妙な重さと、冷たさと、硬さ。
嫌な予感しかしない。
(……まさか)
次の瞬間、視界の端に文字が浮かび上がった。
《初期装備:訓練用ショートソード》
《攻撃力+1》
《付与効果:なし》
《耐久度:100/100》
《売却価格:銀貨3枚》
「……剣!?」
俺、剣だった。
いやいやいやいや。
人間どこ行った。
せめてスライムとか、ゴブリンとか、段階ってものがあるだろ。
しかも「初期装備」。
性能も価格も、見事なまでにゴミ。
視界をよく見ると、俺と同じような剣や盾、防具がずらりと並んでいる。
どうやらここは倉庫らしい。
俺は棚の上に、雑に置かれていた。
……扱いも雑だな!
そのとき、足音が近づいてきた。
「次の勇者候補は五名だ。初期装備を配布しろ」
鎧姿の兵士と、ローブを着た神官。
どうやら偉そうな人たちだ。
勇者候補?
不穏な単語が聞こえた気がする。
「今回も多いな」
「まあ、仕方あるまい。当たりが出るまで続けるしかない」
当たり。
……ハズレもあるってことだよな、それ。
嫌な想像をしている間に、兵士の一人が棚に手を伸ばした。
「ん? この剣、軽いな」
「初期装備なんてそんなもんだ」
そして――
俺は、掴まれた。
視界が大きく揺れ、初めて天井以外のものが映る。
持ち主の顔だ。若い男で、やたら自信満々な表情をしている。
「よし! 俺が勇者か! 余裕だな!」
ああ、もうダメだ。
そのセリフ、絶対言っちゃいけないやつだろ。
その瞬間、胸の奥がざわついた。
言葉じゃない感覚。
焦り、慢心、不安――そして、妙な違和感。
(……なんだ、これ)
分かった。
俺はこの持ち主の「状態」が、ぼんやりと分かるらしい。
詳しい理由は不明。
でも一つだけ、はっきりしたことがある。
(こいつ、危ない)
理由は説明できない。
だけど直感が、全力で警鐘を鳴らしている。
「まあ、初期装備だしな。すぐ強い武器に乗り換えりゃいいか」
男はそう言って笑った。
……あー、うん。
そうだよな。初期装備なんて、そんな扱いだよな。
俺は剣だ。
選ばれることも、拒否することもできない。
ただ、使われるだけ。
それが、今の俺の立場だ。
それでも、思ってしまった。
どうすれば、生き残れる?
どうすれば、次はもう少しマシな持ち主に当たる?
答えは分からない。
だが一つだけ、確信している。
この世界で生き延びるには、
――剣のままじゃ、詰んでいる。
俺は静かに覚悟を決めた。
まずは、この勇者候補。
こいつがどうなるか、見届けるところからだ。




