第三章 貧乏令嬢は立ち位置を弁えている
日が落ちた王立学園の寮で、私は古いドレスの裾を縫っていた。
「……また袖口がほつれてる。これ、三年前のままだし」
王都の学園に通うのはいいけれど、うちの家計は火の車。
父は領地の税収を魔獣退治で使い果たし、母は病弱。
仕立て屋に新しいドレスを頼む余裕なんてない。
思わずため息が漏れる。
「……いっそ、紅茶屋でバイトでもしようかしら」
そう呟いた瞬間、窓の外から声がした。
「君が働く姿、見てみたいな」
反射的に悲鳴を上げそうになった。
月明かりの下、王太子が――寮の窓の外に立っていた。
「な、なんでこんな時間に!?」
「君の部屋、警備の者に聞いたらすぐ教えてくれた」
笑っている。まるで遊びの延長のように。
まさか王太子が、ここまで……。
(いやいやいや、これもうストーカーでは!?)
「怖がらなくていい。君を“守る”ために来たんだ」
守られているのは、私の理性の方なんですが。
まともな良識ある男爵令嬢の私は考えたーー
爵位もない、容姿もピンク髪がトガって浮いてしまう私が、キラキラ系王太子の嫁になれるわけがない。
3040才の行き遅れの貴族のお嬢さんが、もう愛人になるしかないと開き直ってお手つきになることも、跡取りが私しかいない男爵家のためにはできない。
(悪意ありすぎだろ、貴族のいじめ)
こいつらの好きなおもちゃは人なのだ。人をターゲットにしたおもちゃがだーいすき。
人の噂話、奸計をめぐらせ、時に人を冤罪をかけて陥れる。
学生時代からそんな萌芽が見られるこの社会は本当にある意味貴重で、そして気分が悪い。
クラスの王太子におべんちゃらを使っている男子たちはみんなどこか小さく見えて、追従することで自分の保身をはかって、御用書きでも汚いことでもなんでもしている。女子である私へのいじめにも加わる。
はっきり言って、その時点で小物に見えてしまう。
(はあ。騎士道なんちゃらじゃなくて、次男三男が自分の利益のためになら男爵令嬢の私なんかいくらでもいじめていいんだものね。気持ち悪いわ。)
きっとこいつらは、自分が爵位がもらえると言ったら私を乱暴することだって厭わないのじゃないかしら。
皆婚約者がいるような噂があるけど、私の耳までにその正確な情報は入ってこない。
だからこそ下手な相手とは付き合えないのだ。
男爵令嬢こそ気を使って生きてる生き物なのに、散々世間に流布された、いわゆる三文芝居小説ーー
【男爵令嬢と高位貴族令息が既存の貴族令嬢を断罪し、婚約破棄を掲げつつ婚約してハッピーエンド】的な愛人小説の類のせいで、世間はそんな風にみなしてくれない。
ピンク髪の男爵令嬢不遇を救う会を立ち上げたい




