第二章 婚約者の策略
王太子の婚約者、第二公爵家令嬢セラフィーナ・ド・ルヴァン。
彼女は、誰よりも美しく、誰よりも冷たい。
「殿下、あの男爵令嬢の件……うまくいっているようですね」
「そうだな。可愛いものだ。怯えながらも泣かないのが気に入っている」
王太子の笑みに、セラフィーナは柔らかく微笑んだ。
けれど、瞳の奥には薄い嫌悪が宿っていた。
(この人は、本当にどうしようもない。八人も愛妾を抱えておいて、まだ足りないのね)
だが彼女は表には出さない。
代わりに、静かに計画を進めていた。
「叔母上。……例の件、お願いできますか?」
「ええ。噂を流しておきましょう。“男爵令嬢が王太子を誘惑した”と」
王太子が飽きた頃に、リュミエールを“社交界から排除”する。
それを理由に婚約を解消し、自分は別の貴族――侯爵家の青年と結ばれる。
その裏で動くのは、宮廷の女帝と呼ばれる叔母。完璧な布陣だった。
(殿下の好色さを利用して、私は自由を手に入れる)
誰も気づかない。
この王国の“王太子妃”が、最も冷酷な策士であることに。
「ふふ…あなた方なんて所詮、盤面のおもちゃに過ぎませんわ。さて今日も留学中のあのお方に文を書きましょう」
セラフィーナはさらさらとペンを走らせると偽装用の花押を捺し、極秘に信用できる侍女に預けた。




