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冬と呪いの記録その1

※投稿は不定期です。気長にお付き合いいただけましたら幸いです。

 私は超常現象に詳しくない。短冊学園中等部三年の冬休み。倉庫を掃除していた私遠藤 春香(えんどう はるか)は、ある文書、呪術記録を発見した。それを超現係に持ち込んだことで、私は超常現象調査所に所属することになったのだ。

 その名の通り、超常現象を調査する組織だ。異技院および日本超常能力協会の公認を受けた、国内における超常現象の調査を行う専門機関、と言われている。


「さて、遠藤さん。今週は超現係の担当は僕じゃないから、早速行こうか」


 彼は霧守 悠真(きりもり ゆうま)。私と同じ中等部三年であり、関東超常現象調査所神奈川支所横浜分室の調査官。そして超現係にも所属している。

 超現係とは短冊学園に設けられた超常現象の相談室となって場所であり、中等部と高等部に設置されている。顧問の先生の下に超現係の生徒が配置されており、在中の生徒は二週ごとに入れ替わる形式となっている。

 そう、冬休み明けに私と霧守が出会ったのは偶然なのだ。そこから始まった縁でもある。彼が呪術記録に記されていた祖父の名前から、中央へと連絡を取ってくれたのだ。

 私は知りたい。祖父の死の真相を。そして呪術とは、超常現象とは、この世のオカルトを知りたいという知識欲に芽生えたのだった。


「はい! 行きましょう」


 調査に行くと言っても、まずは情報を集めなくてはならない。今回は関東超常現象調査所神奈川支所横浜分室にて取り寄せた資料を読みにいくのだ。

 国鉄横浜線に揺られ、短冊学園のある緑区より、横浜分室のある横浜駅へと向かう。車両の揺れと軋む音、線路の繋ぎ目でガッタンという揺れと音。

 これら全てが私の好奇心を向上させる音色となっていた。

 横浜駅近くのビルに入る関東超常現象調査所神奈川支所横浜分室。私はドキドキという胸の高鳴りを抑えながら訪れる。

 ちなみに、初めて訪れた。超常現象調査所所属になったのは霧守の推薦で、書面のみの審査だった。なので、施設を訪れるのはこれが初めてなのだ。

 入り口の職員さんに超現調査官の認証札を見せ入る。ドキドキの瞬間だった。


「これが、中央より持ってきてもらった資料だよ」


 エレベーターを降り、部屋に入って渡された封筒と紙束。封筒には、【一九五一第三号呪殺事件調査記録】と書かれていた。私は紙束の方にも目をやる。


【遠藤 茂に関する調査記録】

—本記録は、1996年1月現在、関東超常現象調査所・神奈川支所横浜分室に所属する橘真澄が、超常現象調査所および日本超常能力協会(JPAA)より提供された旧記録をもとに、再編纂したものである—


「こっちは、橘先輩が調べてくれた、君の祖父に関する調査記録だ。読んでみるかい?」


「……はい」


 私は小さく頷き、ためらいながら手を伸ばしつつ、紙束を手に取って、一枚目をそっと捲った。白地に整然と並ぶ活字が、淡々と過去を語っている。


——遠藤 茂調査官

——全国超常現象調査局所属

——表向きは戦後の国内調査事務所に勤務。周囲にもそう伝えている


 そこにあるのは確かに祖父の名前だった。けれど、そこに語られているのは、自分の伝え聞いた祖父ではなかった。


——遠藤 茂調査官の母が鎌倉呪術師の家系

——関東地方の呪術調査を担当

——優れた調査能力を保有


 私は最後の一文にたどり着き、読む手を止めた。手の中の紙が急に重くなった気がした。


——現職中に呪術的な因果律操作による事故で殉職。詳細は同封の一九五一第三号呪殺事件調査記録を参照


 震える手を伸ばし【一九五一第三号呪殺事件調査記録】を持つ。その封筒から紙束を取り出した。それは今まで持ったどんな紙類よりも重く感じた。紙を捲ろうとすると、その触れた指先が冷たく感じた。やっとの思いで一枚、また一枚と捲っていく。


——これは一九五一年・第三号呪殺事件の調査記録である

——呪術による因果律操作により、連続的に事故が誘発された事件である


——第一番事件概要

報告番号:一九五一・第三号・一番

発生日時:一九五一年六月一三日

発生場所:東京都●●区

行使者:不明(術式痕跡のみ確認)

被害者:清水 真二(法務庁特別審査局所属)


 ページをめくる手が止まった。そこに、祖父の名前があった。


——第十二番事件

報告番号:一九五一・第三号・十二番

発生日時:一九五一年十二月二日

発生場所:東京都●●区

行使者:不明(術式痕跡のみ確認)

被害者:遠藤 茂(全国超常現象調査局所属)


「……この、行使者不明や術式痕跡のみって、どういうことですか?」


「当時の技術じゃ限界だったってことだね。呪術が使用された痕跡はある。でも、誰がやったのかは特定できなかった。簡単に言えば、焦げ跡はあるけど、誰が火をつけたのかまでは分からない、みたいな」


 霧守の説明を聞きながら祖父の名をじっと見みつめた。やがて視線を霧守に向ける。


「つまり、結局、誰がおじいちゃんを呪ったのか分からないってことですね」


「うん、そうだね。その後の怪奇庁の捜査でも明らかになってない。でもね……」


 霧守はもう一つの紙束を私の机の上に置いた。古びた紙束。表紙にはこうある。

【内務省特異保安局秘匿文書〇三一 抜粋】

—以下は内務省特異保安局と大日本帝国超常技術局による共同調査記録である—


「一部抜粋だけど、重要な記録だよ」


 そういい、霧守は一枚目をめくって見せた。


——鎌倉呪術院所属者調査記録第一九項

対象者:夜車 才蔵

概要:因果律操作を捻じ曲げる呪術を行使。大日本帝国資産に損害を与え、鎌倉呪術院監視下から逃亡。その際の混乱で行動員数名が死亡。危険人物として記録。


「……後の推測に過ぎない。でも、夜車才蔵って人物は、君のおじいさんが調査していた“対象の一人”だった可能性がある。事故の直前、祖父が送った報告に彼の名前があったという記録も、一部の古い手控えに見つかっていてね。曽祖母が鎌倉呪術院の関係者なら、遠藤さんの祖父、遠藤 茂さんが調査の過程で、夜車 才蔵なる人物にたどりついてもおかしくないと思うんだ」


 祖父の死の真相はまだ闇の中。それでも、私の知りたいという好奇心は、さらに深まるばかりだった。

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― 新着の感想 ―
よく考えるものですなぁ……
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