オレンジモール発 東睦月駅西口行 最終バス
今書いている作品が完全にストップしてしまったので、リハビリを兼ねて何となく思いついた作品を投稿。
オレンジモール、何の変哲もない俺の仕事先の近所にあるショッピングモールである。
人であふれかえる…というほどではないが、昼間はほどほどに人がいる、そんなごく普通のモール。
オレンジモールは二つの国道に挟まれていて、南側の国道経由で睦月駅行のバス、さらに北側の国道を少し行ってすぐに曲がる東睦月駅行のバスがある。
どちらも昼間の本数は1時間に2本で同じくらいだが、この辺の繁華街のある睦月駅行のほうが人の動きは大きく、最終バスも22時過ぎまで運行されている。
対する俺の家の近くまで行くのは東睦月駅行で、20時発が最終バスだ。
19時ころに仕事が終わることが多い俺は、オレンジモールで夕食を済ませ20時発の東睦月行き最終バスに乗るのが日課だ。
その日も俺は、19時過ぎに職場を後にしオレンジモールで食事をした後、19時53分、オレンジモールのバス停にたどり着いた。
そしていつも通り、モールの掃除をしている姿をよく見るおばちゃんが先にベンチに腰掛けてバスを待っていた。
19時58分、バスが到着して乗り込む、いつも通りだった。
ピンポーン♪
いつも通り、市民体育館の横にあるバス停に差し掛かる。
この後、東睦月駅入口バス停を過ぎれば終点、東睦月駅西口に到着する。
「ありがとうございました」
その日は体育館前で女性が一人降り、運転手が挨拶をする。
『バスが発車します、ご注意ください』
アナウンスとともにバスが発車する。
しかしその発車とともに、違和感があった。
ん?なんで左折したんだ?
いつもなら左折するのは、東睦月駅入口を出た後で、体育館前から東睦月駅入口までの間は直進だ。
そのあと東睦月駅西口のロータリーに入る時に左折するのだが、今日はまだ東睦月駅入口を過ぎていない。
しかし…。
ピンポーン♪
『毎度ご乗車ありがとうございました、まもなく終点、東睦月駅西口、東睦月駅西口でございます』
ん…東睦月駅入口がない?
そんなことを思う間もなく、バスは東睦月駅西口に到着し、俺はバスを降りる。
キツネにつままれたような気持だったが…仕方なく東睦月駅の橋上駅舎を通って家路を急いだ。
家に戻り、ベッドのなかで先ほどの東睦月駅入口の件をぼんやりと考えた。
その結果、バスは路線やバス停が廃止されやすいし、バス停の移動もできないわけではない。
だから、利用者の少なかった東睦月駅入口バス停は廃止して、体育館前を少し東睦月駅に近づけたのでは、と考えた。
…体育館前バス停がいつも通り、体育館の横にあったことを忘れていたわけではないのだが。
翌日も同じバスで出勤するのだが、朝は席に着くと眠くなり発車したのも気づかず、オレンジモール一つ手前の第二公園前バス停まで起きなかった。
そのまま出勤、そしていつものように19時過ぎ、オレンジモールでバスを待っていた。
いつものおばちゃんが座っている、いつもの光景。
そして、東睦月駅西口行き最終バスが来る。
見慣れているその電鉄バスが、なぜか得体の知れないものに見えたのは気のせいではあるまい。
いつも通りSUICAをタッチして乗り込み、発車を待つ。
弥生工業団地というバス停で1人乗客が降り、次が体育館前。
しかし、いつもなら直進するはずのバスが左折する。
そして、アナウンスが流れる。
ピンポーン♪
『ご乗車ありがとうございました、次は東睦月駅西口、東睦月駅西口、終点です』
背筋に冷たいものが流れたのはいうまでもない。
昨日は東睦月駅入口、今日は体育館前が"消えた"。
そしていくばくか、バスに乗る時間が短くなっている。
おそらく明日は弥生工業団地バス停が消え、さらに乗車時間が短くなるのだろう。
そして翌日、さらに翌々日と一つ一つバス停が減って行き、ついに数日後、昨日オレンジモール、第二公園前、弥生台、東睦月駅西口しかバス停が無くなった。
翌日朝は同僚が家まで迎えに来てくれたため、朝はバスに乗らず、出勤。
そして、帰り…。
オレンジモールに歩き、俺は衝撃を受けた。
どこを探しても東睦月駅西口行のバスがない。
唖然とする俺の前に、おばちゃんが通った。
思わず彼女を呼び止め、東睦月駅西口行のバスのバス停がないかを尋ねる。
するとおばちゃんは何を言っているだという顔をしながら答えた。
「東睦月だろう?
歩いたって10分とかからない場所にバスがあるわけないだろうさ」
は?
昨日までバスで20分ほどかかっていたはずの東睦月駅が歩いて10分弱…?
おばちゃんにとりあえず礼を言って、地図アプリを参考に歩いてみることにした。
おばちゃんの言葉通り、5分ほど歩いたらバスが左折する例の交差点があり、そこを越えれば1分もせずに東睦月駅に到着。
…いったいどういうことなのか…。
と、そこまで考えてふと目が覚めた。
どうやら帰りのバスの中で寝てしまっていたようだ。
ものすごく汗をかいている…目覚めが悪い。
仕事のし過ぎか…。
そんなことを思いながらバスは走る。
ピンポーン♪
『次は、体育館前、体育館前です。
お降りの方はブザーでお知らせください』
バスは体育館前を通過する。
…いやな感じだ。
先ほどの夢もこれが始まりだった。
…通過したバス停をこえ、次のバス停がアナウンスされる。
ピンポーン♪
『ご乗車ありがとうございました、次は東睦月駅西口、東睦月駅西口、終点です』
その日俺は初めて、気絶というものをしたのだった。
~fin~
ホラー、なんですかね。
よくあるオチの都市伝説ものに仕上がりました。
※5/31 〇〇や△△などを月名に変えました