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ショッピングと花とシャツ

挿絵(By みてみん)


石畳に面したガラス張りの店。

そのショーウィンドウには、花柄のワンピースや、軽やかなシャツが並んでいる。

華やかすぎず、けれど確かに「街を歩くため」の服。


フェルはちらりと隣を見る。

リリは、無表情のまま立っていた。だが、その目はショーウィンドウをじっと見つめている。


「……似合うと思うけどな」


ぽつりと、フェルはつぶやいた。

リリは小さく首を傾げる。まるで、「私が?」と問い返すように。


「行こう」


フェルは笑って、リリの腕を引いた。


軽いベルの音が鳴り、二人はガラス戸を押して店内に入った。

棚にはワンピースやカーディガン、飾りボタン付きのシャツなどが並んでいて、

布の香りと蒸気の暖かさがほのかに漂っている。


リリが指差したのは、キャミソールとショートパンツがセットになった部屋着だった。

少し透け感のある薄布で、シルエットも柔らかい。


「これ、部屋で着るなら、軽くて良さそうですね」


「……昨日のも、悪くなかったけど」

フェルはぽつりとつぶやいた。

自分でも、なんでそんなことを言ったのか分からない。

ただ、思い出してしまったのだ。

機械の露出よりも、キャミソール姿のリリそのものが、やけに印象に残っていたことを。


リリは数秒黙ったまま、手にしたキャミソールを見つめ、言った。

「フェルさんになら、見られても平気です」


「……いやいや、そういう意味じゃないからな!?」


フェルは思わず声を上げ、赤面しながら咳払いをして話をそらした。


「昨日の、それ……やっぱりちょっと短かったかもな」


「短い、とは?」


「お腹、出てたでしょ。機械のとこ、腰回りまでけっこう見えてた」


「……はい。前は違いましたが、今は……まあ、服で隠れるので、特に気にしていませんでした」


「……マジか」

フェルは額に手を当てた。

“特に気にしていません”の一言が、妙に効いてくる。


「っていうか、俺が気にするのも変か。でも……その、ちゃんと服着ような」


「はい。そうします」


「……スピナだったら、たぶん一日中見てられそうだよな」

フェルは苦笑しながらつぶやいた。


「……スピナさんは、変態ですか?」


「いや、あいつはただのメカオタクだけど……まあ、たまにちょっと変」


「イブキさんはどうですか」


「あいつは太もも…いや喜ぶと思うよ」


リリが無表情で少しだけ目を細める。

フェルは咳払いをして、ごまかすように次のラックに目を向けた。


「でも、変じゃなかったよ。全部が……ちゃんと、女の子に見えた」


「私は、そう“見える”ように設計されています」


「うん。でも俺には……“それだけじゃない”ように思えたんだ」


リリは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

沈黙。けれど、それは気まずいものではなかった。


「……じゃあ、今度はサイズ合うやつ、ちゃんと選ぼう」


「はい」


そして――

リリが小さな声でつぶやく。


「フェルさんの分も、選んでいいですか?」


「えっ、俺?」


「はい。昨日、私のだけだったので」


フェルは少し目を見開き、そして照れたように笑った。


「……じゃあ、一枚だけな」


リリが選んだのは、シンプルな白地に小さな花模様のシャツだった。

フェルはそれを手に取る。


そして――


「これも」


リリが指差したのは、レザーアーマーの上に羽織るのにちょうど良さそうな、真っ白なコートだった。

丈夫な布地に軽い蒸気防護加工。値段もそれなりに張るが――


フェルはもう、断る気にはなれなかった。


「……仕方ないなぁ」


笑いながら、フェルは二人分を抱えてレジへ向かう。


そしてふと、出入り口に近い棚に目を留めたフェルが、ぽんとセーターを持ち上げる。


「なあ、まだ肌寒いし……セーターも買っておこうか。お揃いで」


淡いクリーム色の、ふわりとしたセーター。伸びがよく、少し長めの袖が心地よさそうだ。


リリはその布地に指先でそっと触れ、フェルの顔を見た。


そして、ほんの少しだけ頬を染めながら、ふわりと微笑む。


「……はい。お揃い、です」


その言い方がどこか嬉しそうで、フェルは照れ隠しのように咳払いをした。


当初の予算より、だいぶオーバーした気がする。けれどフェルは、心の中でぼそっとつぶやく。


(まあ、男ども喜べってとこだな……眼福ってやつだ。満腹は……遠ざかったけど)


会計を済ませ、袋をいくつも手にした二人は、再び街の通りに出た。

空にはまだ、薄く蒸気がかかっている。けれど、やわらかな光も差している。


リリは、新しい服の袋を大切そうに抱えていた。その姿は、いつもよりほんの少し――人間らしく見えた。


買い物はまだ続く。

今度は、普段着を探すために、別の通りへ向かって歩き出す。


その背中は、どこか軽やかだった。



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

メカ部分を少し見せるリリと二人が買ったセーター


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

レビューや評価をいただけると、とても励みになります!

この章の終わりまで、毎日投稿いたします。どうぞお楽しみに!


太もも好きな人ポイントをGO!挿絵が増えます。いらんか。。。

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