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繁華街と若者と蒸気と

『ノアのみなさーん、今日も蒸気とともにいきましょう! 本日のお天気は、蒸気、多め。ところにより、晴れ。そして、ところにより……恋、です。お届けするのは、セラでした! マスクをしても笑顔を忘れずにねっ!』


イーストフォージから少し離れ西側に位置する、ヴェルミリオン区。ノアの中では新しい街、かつて金庫番が区画整理をし、作られた新たしい文化を楽しむ街として賑わっている。蒸気機関車の新駅と道の工事が連日進められ街の発展はこれからも忙しない。


石畳の広い通りを、リリとフェルは静かに歩いていた。


──初めて触れる世界に、戸惑っている。


フェルはそんなリリを横目に、ふっと笑った。 「これでも、ノアの中じゃマシなほうだ。うちらの商店街より、品がいいって言われてるからな」


そう言った直後だった。


「……そろそろだな」


フェルが呟く。


次の瞬間、

街じゅうに響き渡る、巨大なスチームホーンの音。


「ボオオオオオッ!」


空気を震わせるような低い音。

それは、ノアの正午を告げる合図だった。


リリが小さく首を傾げた。 その一分後──


街のあちこち、時計塔の頂上、工場の煙突、商業施設の屋上から、

白い蒸気が一斉に噴き上がった。


ゴウン、とわずかに地面が震えた。


蒸気の白いベールが、あっという間に石畳の通りを覆う。


市民たちは慣れた様子で、次々とマスクを取り出し、口元を覆った。

小さな子どもですら、素早く顔を隠す。


フェルも胸元からマスクを引き出して顔に当てる。


……が、隣のリリが、無防備に立ち尽くしていることに気づいた。


「リリ!」


フェルはあわてて自分のマスクを外し、リリに差し出す。 彼女の顔にマスクをかけようと、手を伸ばした。


だが──


リリは、その手を静かに、だがはっきりと押さえた。

小さな手だった。 けれど、驚くほど力強かった。 そして、どこまでも優しかった。

リリは、フェルの手からマスクを取ると、そっとフェル自身に戻した。


その表情に、言葉はなかった。だが確かに、伝わった。


──自分より、あなたを守る。


フェルは一瞬、何か言おうとしたが、喉が詰まった。リリは代わりに、軽く上、顔を半分だけ隠す。蒸気のベールが、街を白く包んでいた。


ふたりの間には、しばし無言の時間が流れた。


やがて、頭上の送風機がゴウンと音を立て、蒸気を押し流し始める。 霧がゆっくりと晴れていく。


白いベールの向こうで、リリは静かにフェルを見上げていた。

フェルは、ふと目を逸らし、そして、ぼそりと呟いた。


「さっきは、ありがとうな」


不器用な、けれど真っ直ぐな言葉だった。


リリは、小さく首を振っただけだった。 何も言わない。だが、その仕草には、確かに「どういたしまして」という色があった。


ふっと、フェルは笑った。リリもまた、ほんの少しだけ、目を細めた。


──小さな、でも確かな信頼が、ふたりの間に芽生えた瞬間だった。

挿絵(By みてみん)

AIに挿絵を描いてもらってますが 細かい表情までは伝わりきらなかったりします。

すごい技術だけどもどかしい。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。今日はもう1話続きます。

17時に公開されます。引き続きよろしくお願いします。


レビューや評価をいただけると、とても励みになります!

この章の終わりまで、毎日投稿いたします。どうぞお楽しみに

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