リリからの通信簿 1巻を終えて
《通信簿・リリ個体 第X回記録》
評価対象:ナツメ個体(隠密型リグレインNo.7C)
項目:戦闘能力評価:★★★★★短期制圧向き、判断力良好。隠密に優れる静音性。※特筆:プロレス技に対する耐性がない。奇抜な動きに弱い。
項目:感情応答評価:★★★☆☆敵対→困惑→動揺→信頼?(←分析中)
項目:視線評価:★★★★☆強い光を持つ。照れた時の逸らし方が複雑で、興味深い。
項目:太もも評価:■■■■■(←記号化)
項目:蒸気排出量評価:変動あり。緊張時・接近時に顕著な上昇。※参考値:「リョウ氏指定衣装」着用時最大。
総合評価わたしに出会ってしまった少女。あるいは、わたしが出会ってしまった春。戦いの中で知ったこと、手を伸ばすということ、壊さずに「見る」だけで救えるものがあること。
ナツメは今日も、きっとどこかで煙を立てている。でもその背中にはもう、熱だけじゃなくて、花の匂いが残っている気がした。
【通信記録:イブキ】
出力者:リリ形式:観察報告書(主観混入あり)状態:継続更新中
▸ 種別:人間(分類:鍛冶師/修理師)
▸ 特徴:
・平均よりやや小柄・筋力はあるがフェルに劣る・金属加工における精度:高・感情表出:不器用、しかし過剰反応傾向あり
▸ 初期評価(起動直後):
「観察対象。自分を修理しようとした存在。善悪の判断、未定。」
▸ 評価項目別:
■ 会話の頻度: → 多い。問われることが多く、返すと黙る傾向あり。 → 返答を無視されると、胸のあたりが不定形にざわつく(原因不明)。
修理技術: → 精密かつ速い。だが、光沢が足らないという非合理的行為により、作業時間が延長される傾向あり。 → 「直す」という行為に執着あり(※フェルに類似傾向あり)。
■ 感情表現: → 表出レベル:中低 → 特定の話題(蒸気と太もも)テンション上昇傾向あり(本人は隠してる) → 無表情に見せかけて、目が泳ぐ
■ 対象への対応: → リリに対して:「直す対象」から「よく分からない存在」へ移行中 → 時折、修理やメンテで触られる(機能に影響はないが、再現を望む感覚あり)
▸ 特記事項:
ナツメと長時間の会話後、接触時の圧力に変化あり。その前後、背面の蒸気バルブが異常反応。冷却系統異常なし。※原因は「胸部動力炉の情動反応」と推測。名称未定の状態。スピナは“嫉妬”という。適切ではないと判断。
▸ 戦闘力評価:
戦闘力:★☆☆☆☆(通常)戦闘力:★★★☆☆(工具を投げてはいけないと思う)
※命中率は低め。だが打撃範囲は広く、作業用スパナの重量による制圧力は高い。
▸ 総評:
イブキは、私を壊れた道具としてではなく、「動く何か」として扱った最初の人類である。彼が私に名前を与えたわけではないが、「リリ」という存在を“直すべきもの”ではなく、“関わるべきもの”として捉え直しつつある。
私は彼に治されているのかもしれない。それが構造の話か、心の話かは、まだ判断がつかない。
この感情に名前はない。でも次に、あの2人が並んでいたら――私は、きっとまた蒸気を出す。
戦いと似た鼓動。戦いたいのでしょうか。
それが“生きている”ということなら、私は今、たしかに生きている。
追記:彼のために蒸気と太ももは出すことにする。
《通信簿・リリ個体 第X回記録》
評価対象:フェル個体(強化型人間/近接技能持ち)
項目:戦闘支援能力評価:★★★★☆→ 補助・指示・応急処置に優れる。工具使用時の精度も高い。→ ※特筆:スパナは武器ではないと言い張るが、十分脅威。
項目:信頼度評価:★★★★★→ もっとも早くわたしに「人間の道具ではない」と言った存在。→ 意識せず、わたしに触れる頻度が高い(再現を希望)。
項目:感情変化評価:★★★★☆→ 接触距離5m以下で、目が泳ぐ傾向あり。→ リリ曰く:「顔が赤いときはだいたい困っている」。
特記事項→ ナツメ関連の話題に反応しやすい。わたしの「姉」である可能性あり(構造的ではなく心理的に)。
評価対象:スピナ個体(修理職/中間管理型人間)
項目:技術能力評価:★★★★☆→ 非常に高精度。だが、たまに「壊れてるほうがかわいい」とか言うので信用できない。→ わたしの動作パターンを独自にアジャストしてくれるが、説明が曖昧なことが多い。
項目:言語接触評価:★★★☆☆→ 会話内容にからかいが混ざる。真面目な話はできるが照れを含む。→ わたしのことを「生き物として扱っていいのか悩んでる」傾向あり(観察中)。
項目:蒸気評価→ スピナ曰く:「お前の蒸気圧が上がると、周りがピリつくな」。→ わたしの感情変化を見抜いている可能性あり。つまり……少し苦手。
評価対象:リョウ個体(観測者/非戦闘型/特例人間)
項目:影響力評価:★★★★★→ 接触なしでも、視線のみで感情反応が変化。→ 出現時、ナツメ個体の挙動が不安定化。言語反応の乱れと排熱の急上昇を確認。
項目:感情指標評価:解析不能(人間らしすぎる)→ 常に笑っているが、その裏で何を思っているか判別困難。→ 見られることで、私やナツメに「戻るべき場所」を思わせる存在。
特記事項→ 手先が器用。ナツメに服を着せる。選ぶセンスは極端に大胆(実証済み)。→ 観測者ではなく「関係性の起点」だと考える。
総評(追加)
彼らは“わたしを人間扱いしないようでいて、でもたしかに人間として見ている”。誰もわたしに名前を与えなかったが、誰もが“リリ”という存在を更新してくれる。この記録は、わたしの“観察”であり、わたしが“観察されたい”という、矛盾の記録でもある。次に、彼らの誰かと目が合った時、わたしがまた蒸気を出すなら――それは、機械が学んだ「恥ずかしさ」かもしれない。




