終結、そして終結へ
フェルからバスターソードを受け取るリリ。
二人に会話はない。
フェルの目、手は震えていない。
リリは優しくフェルを見つめた。
言葉なく唇が震える。
言葉にしない。
リリはナツメと向き合う。
「ナツメさん。――目的は何ですか?」
直球だった。 駆け引きも、裏も、探りもない。
ナツメは、呆れたようにため息をついた。
(……ほんと、この子たちは)
この子たちは、まっすぐで、裏がない。
言葉に裏打ちされた皮肉や、策を巡らすような会話を、何年も続けてきた自分には――羨ましいほどの“まっすぐさ”。
普段なら、はぐらかしただろう。 答えを与えず、かわしただろう。
だが――。
今、ナツメの中に芽生えた感情は、自分でもよくわからなかった。
せめて、今だけは。
ナツメは小さく息を吸い、そして吐いた。
「さんはいらないわよ。リリ」
「……オーパーツの確保が目的よ。最初はね」
口にしてから、ほんのわずかに目を伏せた。
それは、完全な真実ではなかった。
金庫番は、「安全に確保」など望んでいない。 多少壊れてもいい。利用できればそれでいい。
それは、リリだけではない。ナツメ自身に対しても、同じだった。
そのことに、気づいてしまった。 そして、ほんの少しだけ、胸が痛んだ。
今さら、そんなこと。わかっていたはずなのに。
そしてそれも、自分で台無しにしたばかり。
壊すか壊れるか、ただそれだけに支配されている。
ナツメは、ふっと笑った。
(もう、笑うしかないじゃない)
そう思った、その時。
地面が、震えた。
「……!」
夜の闇に、無数のバイクの灯りが浮かぶ。
先頭を走るのは――金色の悪趣味なバイク。 サイドカー位置に、馬鹿でかい蒸気機関を積んだバケモノ。
「オオタ…!」
誰かが呟いた。
ナツメも、リリも、イブキも、フェルも。 一斉に、無言で顔を見合わせた。
……笑えない。
本当に、笑えない。
「お待たせ」
スピナがイブキとフェルに合流する。
「リョウも来たみたいだな」
リリとナツメを離れたところでバイクの集団は見ている。
スピナの背後に、リョウの姿が見えた。
その瞬間、ナツメの思考が止まる。
(……なんで、連れてきた)
声にならない怒りが、喉の奥で渦を巻く。足が震える。吐き気に近い感情がこみ上げる。
「……スピナ」
低く、かすれた声。
「あなたも……」
スピナが顔をしかめた。何かを言いかける。
ナツメは、笑った。ひどく、乾いた声で。
「リリの味方。……あの子の、味方」
「待て、話を」スピナが言い終わる前に、ナツメが叫ぶ。
「だったら!」
叫びが爆ぜる。怒りでも、悲しみでもない。もう、どうでもよかった。
「見られたくない……! あんなふうに、こんな姿……リョウに、誰にも……!」
そのとき、目が合った。リョウの目。
怯えていた目ではない、何か言いたそうな毅然とした目。
(……やっぱり)
ナツメの目が、赤く光る。その光が一瞬だけ強くなり、そして──
目の奥が、焦げつくように痛んだ。
焼けるような感覚。もう戻れない、と知っている場所に、自ら踏み込んでいく感覚。
ナツメは、振り返らない。
気がつけば、人で埋め尽くされていた。
皮職人のジョグや飲食店の顔ぶれ、駅から来たのか駅員たちもいる。
商業街で見覚えのある顔ばかりだった。




