スチームディズ 街角に咲く花
『ノアのみなさーん、今日も蒸気とともにいきましょう!スチームデイズ、始まり ます! 街角に咲く一輪の花を見つけたら、いいことあるかも?』
――ザーッというノイズとともに、ラジオが流れる。
ナツメの花屋やスナック茜 カイヅカがある商業街は、元々工場街の作業員のための居住区だった。イーストフォージと呼ばれた地区。今はフォージと呼ばれる地域。ノアの中では古い街並みだが、最近は蒸気機関の駅など再開発が進み。街が騒がしい。
昼下がりの街。蒸気の音、バイクの振動、遠くで響く汽笛。
そんな街を、ひときわ静かにバイクが走る。
蒸気が薄く流れる裏路地を、黒いバイクが走っていた。蒸気は少なめに、ピストンの動きも静か。ナツメの手によって、密かにカスタムされたバイクだった。
配達用の箱には、今日の届け物が積まれている。
小さな花束――華やかではないが、柔らかく、静かな存在感。
黒いシャツに白いエプロンをつけ、ミニスカートから太ももを見せる。大人びた雰囲気を漂わせながら、どこか幼さの残る横顔。配達に出たナツメの姿に、思わず目を奪われる通行人も少なくない
スチームアイドル、イリスの歌声が遠くに聞こえてくる。誰かの開けた窓から漏れてくるラジオだろう。
『蒸気ホールで今夜、ライブ開催!イリスとセラのダブルヘッドライン! チケット残りわずか!』
興味はない。 ナツメは、バイクのアクセルをほんの少しだけ開いた。
蒸気にかすむ商店街を抜け、裏通りの奥へ。 小さなスナックの看板が見えてくる。
《スナック茜》今日の配達先だ。
バイクを降りると、蒸気の音がひときわ大きく耳を打つ。 ナツメは、ゴーグルを額にあげ、静かにドアをノックした。
「はいよー」
がちゃりと開いたドアから、タンクトップ姿のバンビが顔を出す。 筋肉隆々の腕には、鍋をぶら下げている。大柄のドワーフの青年。可愛らしい顔をしているが、バンビと呼ぶには筋肉が多い。だが彼はバンビという名で定着していた。スナックの店主でもあるアカネがつけたのか、ナツメはその由来を知らない。
「花? ああ、アカネさんが頼んでたやつだな」
鍋を片手に、サインも受け取りも適当に、バンビは花束を受け取る。
ナツメは黙って軽く頭を下げた。
「今日は……赤い花じゃないんだ」
奥のソファから、少女が眠たそうに声をかける。 しろいシャツにメーターや歯車のデザインを施された革のホットパンツ小柄な少女。剥き出しの太ももが若さをアピールしてくる。この蒸気の街では珍しくないファッションだが、少女はそれを自分なりにアレンジして着こなす。
スナック茜の居候で、看板娘リョウだ。
「今朝は……良い状態が手に入らなかったので。」
ナツメは淡々と答える。
リョウはあくびをしながら、ぼそりと漏らす。
「うん……今日の花、きれいだね。赤いのより、こっちのほうが好きかも」
ナツメは、軽く礼をして戸口を離れた。
外に出ると、蒸気が街を覆っている。小さな花屋には、まだ今日も配達が待っている。バイクにまたがり、ナツメはゴーグルをかけた。
バイクを静かに走らせる、背中からふわりと、蒸気が漏れた。
双剣を持ってた子が、今日は花束?
器用な子もいるものですね~。ノアのみなさん、よーく観察してみてね?
セラでした、次の奇跡はすぐそこ!評価と感想、入れると作者がすっごく喜びます♪