アイゼンとスチームギアとバスターソード(前編)
夜中に、工房の一角でこっそり妄想にふけるスピナ。
工具を置いて、使い古された図面を見つめながら、唇の端をニヤリと吊り上げる。
「リリが笑うと……あかんて。あれは人殺しの笑顔や」
誰に言うでもなく、ぶつぶつと呟いていると――
――ドォン!
「……ん?」
鉄の扉が、小刻みに震えた。外から、何かが叩きつけられたような音。
もう一度、ゴォン! 今度は扉の上方だ。
その衝撃で、工房の看板――交差した大槌とバスターソードを模した鉄板が、ガシャリと落下した。
「……面倒な客だな」
スピナが呟く。
物音に気づいて、イブキとフェル、そしてリリも起きてくる。
「なんだ、こんな時間に……」
イブキは手にバールを持つ。
「この扉は破れねえけど、窓壊されたら厄介だ。リリ、開けてくれ。加減はしてな」
イブキの指示に、リリが静かに頷き、ギィィ……と扉を開く。
そこに立っていたのは、両腕にギアをまとったごろつき――アイゼン。
片腕に連続式のパイルバンカー、普通なら両手で支える工事用のギア。
もう片腕は巨大なハサミの鉄パイプを切断するためのギアシオマネキ。
帽子とゴーグル、革ジャン姿で見た目は細めの不良だが
チンピラとはいえ流石はボスと言うことか、悠々とその二つを確認するように動かす。
肩でパイルバンカーの動力が蒸気をあげる。
「よっ、お嬢ちゃんたちに用があるんだ」
にやりと笑って、リリに顔を近づけてくる。
「うちの若いのがすっかり惚れちまってさ。ちょっと礼も兼ねて、一緒に来てもらえねぇかって話だ」
リリが首を傾げると、アイゼンは笑いを深めた。
「なんだその顔は。こっちも礼儀は尽くしてるんだぜ?
……まあ、その隣のちっこいのもなかなかイカしてるから、まとめてでも」
「あんた、何言ってるかわかってるのか」
スピナの声が低くなる。
「お前が誰に向かって話してるのか、自覚した方がいい」
「は? なんだよ、あんたら。話してんのはこの子たちとだぜ? 邪魔すんなよ、脇役ども」
芝居がかった口調に、スピナの眉がぴくりと動いた。
「オオタの飼い犬の店だったか? それはそれは、無礼を働いたかな」
その言葉に、イブキが目を細める。
「うちはオオタのバイクを預かってる。ここで騒ぐ意味を少し考えた方がいい」
「ケタケタケタッ!」
アイゼンが笑い声を上げる。
「ビビると思ってんのか? 飼い犬のくせにハッタリは一人前かよ。バイクには興味ない。でも……喋る機械には興味あるんだよ」
その瞬間、イブキがバールをアイゼンに投げるつける。
シオマネキを顔の前でふりバールを弾く。
うっすらと笑みを浮かべるアイゼン。
「喋る機械――失礼。リグレインに用があるんだ」
リリの表情は変わらない。ただ静かに、アイゼンを見つめていた。
「あなたは敵ですか?」
その無機質な声に、フェルの眉がぴくりと動いた。
「フェル、あれ」
イブキが指をさす。
落ちた看板のバスターソードとハンマー。
「一つ俺に――」
「だめ」
フェルが即座に遮る。
「適材適所でしょ。普段のイブキならそう言う」
そして、バスターソードをリリに差し出す。
「あなたが使うのが一番」
フェルは小さく頷き、慎重に、まるで何かを託すようにバスターソードを差し出した。
リリは一言も発さず、静かにそれを両手で受け取る。
イブキが歯噛みしながらも、拳を固める。
スピナが言う。
「まぁ、見てろよ。すぐ終わる」
その直後、リリの背中から白い蒸気がふわりと上がった――。
夜中に、工房の一角でこっそり妄想にふけるスピナ。
工具を置いて、使い古された図面を見つめながら、唇の端をニヤリと吊り上げる。
「リリが笑うと……あかんて。あれは人殺しの笑顔や」
誰に言うでもなく、ぶつぶつと呟いていると――
――ドォン!
「……ん?」
鉄の扉が、小刻みに震えた。外から、何かが叩きつけられたような音。
もう一度、ゴォン! 今度は扉の上方だ。
その衝撃で、工房の看板――交差した大槌とバスターソードを模した鉄板が、ガシャリと落下した。
「……面倒な客だな」
スピナが呟く。
物音に気づいて、イブキとフェル、そしてリリも起きてくる。
「なんだ、こんな時間に……」
イブキは手にバールを持つ。
「この扉は破れねえけど、窓壊されたら厄介だ。リリ、開けてくれ。加減はしてな」
イブキの指示に、リリが静かに頷き、ギィィ……と扉を開く。
そこに立っていたのは、両腕にギアをまとったごろつき――アイゼン。
片腕に連続式のパイルバンカー、普通なら両手で支える工事用のギア。
もう片腕は巨大なハサミの鉄パイプを切断するためのギアシオマネキ。
帽子とゴーグル、革ジャン姿で見た目は細めの不良だが
チンピラとはいえ流石はボスと言うことか、悠々とその二つを確認するように動かす。
肩でパイルバンカーの動力が蒸気をあげる。
「よっ、お嬢ちゃんたちに用があるんだ」
にやりと笑って、リリに顔を近づけてくる。
「うちの若いのがすっかり惚れちまってさ。ちょっと礼も兼ねて、一緒に来てもらえねぇかって話だ」
リリが首を傾げると、アイゼンは笑いを深めた。
「なんだその顔は。こっちも礼儀は尽くしてるんだぜ?
……まあ、その隣のちっこいのもなかなかイカしてるから、まとめてでも」
「あんた、何言ってるかわかってるのか」
スピナの声が低くなる。
「お前が誰に向かって話してるのか、自覚した方がいい」
「は? なんだよ、あんたら。話してんのはこの子たちとだぜ? 邪魔すんなよ、脇役ども」
芝居がかった口調に、スピナの眉がぴくりと動いた。
「良いおもちゃぶら下げて強気だな」
「良いだろ、早く試させろよ。リグオンは一撃だったぜ」
ギアを見せびらかすように両腕を広げる。
その言葉に、イブキが目を細める。間を挟まず低く告げる。
「うちはオオタのバイクを預かってる。ここで騒ぐ意味を少し考えた方がいい」
「ケタケタケタッ!」
アイゼンが笑い声を上げる。
「ビビると思ってんのか?脇役2号!ハッタリは一人前かよ。バイクには興味ない。でも……喋る機械には興味あるんだよ」
その瞬間、イブキがバールをアイゼンに投げつける。
シオマネキでバールを弾く。
うっすらと笑みを浮かべるアイゼン。
「喋る機械――失礼。リグレインに用があるんだ」
リリの表情は変わらない。ただ静かに、アイゼンを見つめていた。
「あなたは敵ですか?」
その無機質な声に、フェルの眉がぴくりと動いた。
「フェル、あれ」
イブキが指をさす。
落ちた看板のバスターソードとハンマー。
「一つ俺に――」
「だめ」
フェルが即座に遮る。
「適材適所でしょ。普段のイブキならそう言う」
そして、バスターソードをリリに差し出す。
「あなたが使うのが一番」
フェルは小さく頷き、慎重に、まるで何かを託すようにバスターソードを差し出した。
リリは一言も発さず、静かにそれを両手で受け取る。
イブキが歯噛みしながらも、拳を固める。
スピナが言う。
「さあ、試せ。誰が“おもちゃ”だったか、教えてやるよ」
その直後、リリの背中から白い蒸気がふわりと上がった――。
それは開戦の狼煙だった。
(つづく)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!初めて話の途中で日をまたぎます。ようやく明日バトル開始です。
本作は毎日更新を目標に、少しずつ蒸気の街ノアの物語を広げていきます。
挿絵も多めに入れていく予定ですので、ビジュアルでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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ではまた、明日お会いしましょう。
――作者より