花屋と笑顔と秘密と
花屋と笑顔と秘密と
「おはようございます。今朝のノアは、曇りのち霧雨。午前中は肌寒いので、お出かけの方は、上着を一枚お忘れなく。」
(軽い間、紙をめくる音が聞こえるような雰囲気)
「泣いてる子がいたら、見て見ぬふりはダメだよ。それだけで、誰かの夜が変わるかもしれないから。そんな新曲お聞きください」
――ザーッというノイズとともに、ラジオが流れる。
ゆっくり背伸びをする。人を真似した行為だが、習慣になっている
ナツメの朝が始まる
なぜ、花屋なんて始めたのか。
時々、自分でも不思議になる。
ひっそりと構えた、小さな店。
だが、毎朝、軒先に花を並べ、昼には鉢を拭き、夕方には水やり。
そういう時間が、少しずつ“日常”として、身体に馴染んでしまった。
この街に来た当初は、ただの“カモフラージュ”だった。
誰の目にも触れず、潜伏できる表の顔。情報が集まり、人の流れを読むにはちょうどいい職業だった。花束の配達を装えば、雑踏に紛れられた。レイグが与えた職業だったが、当時は疑問にすら感じていなかった。
それに、ナツメのボディは隠密用。蒸気の排熱も少なく、心拍音のように穏やか。
演じるにはうってつけの“器”だった。
だけど気づけば、花に囲まれる時間が少しだけ、好きになっていた。
街の人たちは不思議な存在だった。
ナツメを“普通”として受け入れてくれる。
リョウは相変わらず無遠慮で、バンビは何も聞かずに笑ってくれる。
アカネは「あんたも若いんだから」と何でも手伝わせたがったし、
近くの子供たちには“花のお姉さん”と呼ばれたりもした。
(……笑っていられる自分が、たまに怖くなる)
「ありがとう」と言われるたび、心の奥がくすぐったい。
けれどその感情が、“喜び”なのか“罪悪感”なのか、自分でも判別できない。
街に馴染んでいくほど、裏の仕事との落差が、心に影を落とした。
「花が似合うわね」と言われると、ひどく戸惑った。
ナツメ自身は、花のようになりたいと思ったことなど一度もなかったから。
それでも――
今日も、扉をゆっくりと引く。花の香りが外へと流れ出し、ひんやりとした朝の空気が店内を包んだ。
通りを歩く子供が、手を振る。ナツメはそれに、ぎこちなく笑みを返す。
(自分が人間であれば、よかったのに)
そんな言葉が喉元まで込み上げたが、飲み込んだ。
それは、言ってしまえば壊れてしまう“願い”だから。
いつも通り花の香りと湯気の立つ紅茶の香りで満ちていた。ナツメは黙々とカウンターの花を整え、今日も配達に備える。
ナツメはカウンターの奥で、静かにエプロンを外した。代わりに動きやすいスカートとベルト付きのポーチを装着する。腰に手を当て、姿勢を確認するように軽く足を伸ばすと、スカートの裾がふわりと揺れて、引き締まった太ももが覗いた。
ブーツのベルトを締め直しながら、ナツメは壁の鏡に映る自分を一瞬見つめる。“看板娘”として通る顔に、作り慣れた微笑みをのせる。けれど――
「……よし、行こう」
花束を持ち直し、扉に向かう背中には、“普通”を演じることの罪悪感がわずかに残っていた。
〈茜〉の厨房では、バンビがまかないを作っていた。だが、野菜を切る手がふと止まり、視線はカウンターへ。
配達に来たナツメが柔らかな笑みを浮かべる。
今日もバンビは、無意識に“模擬戦”を始めていた。野菜を切る音がリズムに変わり、心の中でナツメとの手合わせが始まる。強そうなものがいるとついやってしまう。
「また見てる」不意に声がして、バンビはビクッとする。リョウがモップを持ってニヤニヤしていた。
「見てねぇよ」
「いや絶対見てた。しかもめっちゃ真剣な顔。恋する乙女かよ」
「違ぇって!」
図星すぎて返す言葉が見つからない。リョウは肩をすくめる。
「ま、バレバレよ。バンビがナツメに見惚れてるの、みんな気づいてるし」
「……それ、誤解されると困る」
「ふーん?」
(ほんとに、誤解だ)
バンビの内心は、恋とはまた違う。
バンビの中にあるのは“恋”というより、“戦士”としての直感に近い。無駄のない動き。鋭い勘。それでいて、誰にも敵意を感じさせない完璧な演技。花屋には似つかわしくない“気配”が、ナツメからは漂っていた。
最近は、時折ふと見せる作り笑いが気になってしまう。なぜだか目を離せない。
強者を前にするとつい観察してしまうのは、自分がバトルマニアだからだろう。けれど――リョウの言葉も、まるきり否定できるわけではなかった。
(見すぎて……恋、か?)
戦いの高揚感と、恋の高揚感の違いが、まだバンビには分からない。考えすぎだとわかっていても、視線はまたナツメを追ってしまう。
配達に戻ろうとするナツメに、バンビはつい声をかけていた。
「困ったことがあったら言えよ」
「はい?」ナツメがきょとんとする。
「いや、なんでもねえ。気をつけてな」
そう言って、炒め鍋を強火にかけて誤魔化す。
その背中を見て、リョウがまた笑う。
「やっぱり恋じゃん」
「違うっつってんだろ!」
だがナツメは、そのやりとりには気づかないふりをする。そし軽やかな足取りで花を届けに出ていく。膝上丈のスカートの裾が揺れ、太ももが一瞬だけ窓から差し込む光を弾いた。それを見てバンビは、慌てて目を逸らす。
「ねえナツメ!」
扉の前、手を振るリョウが声をかけた。
「今度またプロレス観に行こうね! リリも連れてさ!」
ナツメはふと振り返り、少しだけ微笑む。
「ええ、予定が合えば」
その言葉にリョウは満足そうに頷いた。花と蒸気と淡い期待がふわりと混じる。誰もが彼女を「ただの花屋の看板娘」だと思っている。バンビはただ強いとだけ勘づいており。恋心には蓋をした。
ナツメは少し遠まりをする。カイヅカ工房の中を遠目でのぞく。
今日もバタバタやってるようだ。ナツメの口角が少し上がる。
それに気がつき。気が付かれないようまた遠まりする。
少しだけ目が熱い。
AIとお絵描きしていると、行き違いが多くなかなか伝わらない。
まだまだ人と会話してるには遠い世界です。
ナツメは人に近づくAIとして考えて貰えばわかりやすいかもしれません。
登場キャラの中でも、ナツメは最も挿絵を試したキャラです。
ソックスの高さに悩んだり、裏と表の表情を描き分けようと何度も生成をやり直したり……
その過程そのものが、彼女の“不完全な人間らしさ”に重なって見えました。
いつかそれを全部見せたいところですね。
メカナツメとか興味あります?
感想ぜひお待ちしています。
それではまた明日。