表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/50

花屋と笑顔と秘密と

花屋と笑顔と秘密と

「おはようございます。今朝のノアは、曇りのち霧雨。午前中は肌寒いので、お出かけの方は、上着を一枚お忘れなく。」

(軽い間、紙をめくる音が聞こえるような雰囲気)

「泣いてる子がいたら、見て見ぬふりはダメだよ。それだけで、誰かの夜が変わるかもしれないから。そんな新曲お聞きください」

――ザーッというノイズとともに、ラジオが流れる。


挿絵(By みてみん)



ゆっくり背伸びをする。人を真似した行為だが、習慣になっている

ナツメの朝が始まる


なぜ、花屋なんて始めたのか。


時々、自分でも不思議になる。

ひっそりと構えた、小さな店。

だが、毎朝、軒先に花を並べ、昼には鉢を拭き、夕方には水やり。

そういう時間が、少しずつ“日常”として、身体に馴染んでしまった。


この街に来た当初は、ただの“カモフラージュ”だった。


誰の目にも触れず、潜伏できる表の顔。情報が集まり、人の流れを読むにはちょうどいい職業だった。花束の配達を装えば、雑踏に紛れられた。レイグが与えた職業だったが、当時は疑問にすら感じていなかった。

それに、ナツメのボディは隠密用。蒸気の排熱も少なく、心拍音のように穏やか。

演じるにはうってつけの“器”だった。


だけど気づけば、花に囲まれる時間が少しだけ、好きになっていた。


街の人たちは不思議な存在だった。

ナツメを“普通”として受け入れてくれる。

リョウは相変わらず無遠慮で、バンビは何も聞かずに笑ってくれる。

アカネは「あんたも若いんだから」と何でも手伝わせたがったし、

近くの子供たちには“花のお姉さん”と呼ばれたりもした。


(……笑っていられる自分が、たまに怖くなる)


「ありがとう」と言われるたび、心の奥がくすぐったい。

けれどその感情が、“喜び”なのか“罪悪感”なのか、自分でも判別できない。

街に馴染んでいくほど、裏の仕事との落差が、心に影を落とした。


「花が似合うわね」と言われると、ひどく戸惑った。

ナツメ自身は、花のようになりたいと思ったことなど一度もなかったから。


それでも――


今日も、扉をゆっくりと引く。花の香りが外へと流れ出し、ひんやりとした朝の空気が店内を包んだ。



通りを歩く子供が、手を振る。ナツメはそれに、ぎこちなく笑みを返す。


(自分が人間であれば、よかったのに)


そんな言葉が喉元まで込み上げたが、飲み込んだ。


それは、言ってしまえば壊れてしまう“願い”だから。




いつも通り花の香りと湯気の立つ紅茶の香りで満ちていた。ナツメは黙々とカウンターの花を整え、今日も配達に備える。


ナツメはカウンターの奥で、静かにエプロンを外した。代わりに動きやすいスカートとベルト付きのポーチを装着する。腰に手を当て、姿勢を確認するように軽く足を伸ばすと、スカートの裾がふわりと揺れて、引き締まった太ももが覗いた。

ブーツのベルトを締め直しながら、ナツメは壁の鏡に映る自分を一瞬見つめる。“看板娘”として通る顔に、作り慣れた微笑みをのせる。けれど――

「……よし、行こう」

花束を持ち直し、扉に向かう背中には、“普通”を演じることの罪悪感がわずかに残っていた。




〈茜〉の厨房では、バンビがまかないを作っていた。だが、野菜を切る手がふと止まり、視線はカウンターへ。


配達に来たナツメが柔らかな笑みを浮かべる。


今日もバンビは、無意識に“模擬戦”を始めていた。野菜を切る音がリズムに変わり、心の中でナツメとの手合わせが始まる。強そうなものがいるとついやってしまう。



「また見てる」不意に声がして、バンビはビクッとする。リョウがモップを持ってニヤニヤしていた。

「見てねぇよ」

「いや絶対見てた。しかもめっちゃ真剣な顔。恋する乙女かよ」

「違ぇって!」

図星すぎて返す言葉が見つからない。リョウは肩をすくめる。

「ま、バレバレよ。バンビがナツメに見惚れてるの、みんな気づいてるし」

「……それ、誤解されると困る」

「ふーん?」


(ほんとに、誤解だ)

バンビの内心は、恋とはまた違う。

バンビの中にあるのは“恋”というより、“戦士”としての直感に近い。無駄のない動き。鋭い勘。それでいて、誰にも敵意を感じさせない完璧な演技。花屋には似つかわしくない“気配”が、ナツメからは漂っていた。


 最近は、時折ふと見せる作り笑いが気になってしまう。なぜだか目を離せない。

強者を前にするとつい観察してしまうのは、自分がバトルマニアだからだろう。けれど――リョウの言葉も、まるきり否定できるわけではなかった。

(見すぎて……恋、か?)

戦いの高揚感と、恋の高揚感の違いが、まだバンビには分からない。考えすぎだとわかっていても、視線はまたナツメを追ってしまう。


配達に戻ろうとするナツメに、バンビはつい声をかけていた。

「困ったことがあったら言えよ」

「はい?」ナツメがきょとんとする。

「いや、なんでもねえ。気をつけてな」


そう言って、炒め鍋を強火にかけて誤魔化す。

その背中を見て、リョウがまた笑う。

「やっぱり恋じゃん」

「違うっつってんだろ!」


だがナツメは、そのやりとりには気づかないふりをする。そし軽やかな足取りで花を届けに出ていく。膝上丈のスカートの裾が揺れ、太ももが一瞬だけ窓から差し込む光を弾いた。それを見てバンビは、慌てて目を逸らす。


「ねえナツメ!」

扉の前、手を振るリョウが声をかけた。

「今度またプロレス観に行こうね! リリも連れてさ!」

ナツメはふと振り返り、少しだけ微笑む。

「ええ、予定が合えば」


 その言葉にリョウは満足そうに頷いた。花と蒸気と淡い期待がふわりと混じる。誰もが彼女を「ただの花屋の看板娘」だと思っている。バンビはただ強いとだけ勘づいており。恋心には蓋をした。


ナツメは少し遠まりをする。カイヅカ工房の中を遠目でのぞく。

今日もバタバタやってるようだ。ナツメの口角が少し上がる。

それに気がつき。気が付かれないようまた遠まりする。


少しだけ目が熱い。



挿絵(By みてみん)

AIとお絵描きしていると、行き違いが多くなかなか伝わらない。

まだまだ人と会話してるには遠い世界です。


ナツメは人に近づくAIとして考えて貰えばわかりやすいかもしれません。


登場キャラの中でも、ナツメは最も挿絵を試したキャラです。

ソックスの高さに悩んだり、裏と表の表情を描き分けようと何度も生成をやり直したり……

その過程そのものが、彼女の“不完全な人間らしさ”に重なって見えました。

いつかそれを全部見せたいところですね。



メカナツメとか興味あります?

感想ぜひお待ちしています。


それではまた明日。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ