表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/50

夜更けのコブラツイスト

リリとフェルが帰ると、スピナが本気で悔しがっていた。

一方、イブキは工具を手にしながらも、どこか嬉しそうな顔をしていた。

まるで、娘に初めての友達ができたとでもいうような――そんな穏やかな眼差しだった。


「じゃあ、私は一度スナックに戻るね。夜は《ナックル》で合流ってことで!」

リョウがそう言って手を振る。再び一人、商業街を駆け抜けていくその背中を見ながら、

フェルとリリも一度、着替えと休憩のため工房に戻ることにした。



夜。街の灯がともる頃、〈ナックル〉での待ち合わせへと向かう彼女たちは、

昼間とはまた違った表情を見せ始める



リョウに付き合って一日中過ごしたフェルとリリは、

彼女に連れられて飲屋街のバー〈ナックル〉へとやってきた。

スピナが今度はついていくと聞かないので、イブキとスピナもやってきた。



そこは“闘技場つき”の飲み屋だった。


リングが設置され、飲みながら観戦ができる。屋内なので武器は使えず、素手での格闘が基本。


派手さではスチームギアに劣るが、その“肉体同士のぶつかり合い”こそが、通好みなのだという。

工場帰りの職人や、夜の街のお姉さんで賑わっている。


「お待たせー!」


リョウが元気よく戻ってくる。その後ろには、ナツメの姿もあった。


「こんばんは」エプロンを外しただけの普段着姿。

リョウに引かれるまま、ナツメも席に加わる。


「リョウはお店は大丈夫なの?」フェルが聞く。


「うちは遅くから開けるから平気。ここにいる女性たちも、飲み屋の子が多いのよ」


なるほど、確かに艶やかなドレスの女性が多い。隣に男性客がいることも珍しくない。


注文が終わり、飲み物が届く。フェルとリリは水。イブキとスピナはビール。

リョウもビールを頼んでいたが――


「ナツメさん、それ……強くない?」驚くイブキ。

リョウは見慣れているのか、イブキの反応に笑う。


「ビールも好きだけど、これが好きなの」


さらりと返すナツメは、驚くほど強い酒を飲んでいた。

“笑顔の花屋さん”、恐るべしである。


プロレスの試合が始まる。セコンドを背に、選手がリングに上がる。


「セコンドってあれのこと!」

リョウが指をさすと、リリは真剣な眼差しでうなずいた。


ドワーフとヒューマンの対戦。一撃の重いドワーフと、技の多彩なヒューマン。

避けられる技をあえて受け、技を返す。耐えることで“強さ”を魅せる、独特な世界。


ヒューマンのがドワーフをトップロープに載せてからの、フランケンシュタイナーなど見どころがある。


「あのレフリー 皮職人のジョグじゃない?」っとフェル


「ほんとだ。あのおっさんこんなとこで何やってんだ」驚きながらも観戦を続けるスピナ


「なんだ若いの。鉄拳のジョグを知らねーのか」知らないおじさんも大興奮である。


知らない人間との交流と、知ってる人間の意外な顔が面白い。



「セコンドも戦うんですね」リリが言う。


そう――乱闘の中、セコンドが乱入し、リングは四人の肉弾戦に変わっていた。

ドワーフのダブルレッグラリアットがえげつない。飛べる筋肉恐るべし。


レフリーのジョグも止めに入ってきたけどコブラツイスト食らって退場。

鉄拳のジョグ本業に差し支えるだろう。さらに試合は混乱している。


イブキは、遠巻きにそれを眺めながら、隣のナツメにぽつりと声をかける。


「酒、強いんだな」


「うん。こういうの好き」


そう言って笑うナツメの顔には、どこか寂しさが滲んでいた。


「リョウに友達ができて、よかった。仲良くしてあげてね」


その言葉にイブキは何かを感じた。――この人は、いつも笑ってるけど、どこかで少しだけ、

孤独を抱えているのかもしれない。


「ナツメさんは一人で花屋をやってるのか?」イブキは何気なく聞く


「さんはいらないよって言ったのに。そうね一人よ」


ふとイブキに優しい目を向けるナツメ。


どこか懐かしい眼差しだった。



リングではドワーフの選手とセコンドがツープラトンを決めて勝ちを決めていた。



挿絵(By みてみん)



スナック茜の開店時間が迫るので、解散した後の工房で


「スピナさん、少し協力をお願いします」


「お、おう? なんだ急に」


リリの頼みに、スピナが気軽に応じた――その瞬間だった。


「では、お願いします」


すっと足を滑らせたリリの太ももが、スピナの顔面にがっつりと絡みつく。


「なッ――え? ちょ、なにこれ、ご褒美……?」


言いかけた瞬間、リリが腕をとって一気に体を捻る。その姿勢は完璧だった。


「……“コブラツイスト”」


リリの口元が、どこか誇らしげに動いた。


「いったあああああ!!? ご褒美じゃねぇ! ご褒美からの裏切りだコレぇええッ!!」

スピナの悲鳴が工房に響き渡る。


「ちゃんと極まってますか?」


「極まってるどころじゃねぇよッ!!」


「昨日、学びました」リリは真顔で答える。悪びれた様子は一切ない。


「コブラツイスト、技の中で制圧しやすそうなので、覚えておきたかったのです」


「せめて人形でやってくれぇえ……!それに何を制圧する気だ!!」


「リグオンに関節技は効きません」


ギシギシと音を立てるスピナの体に、イブキが気の毒そうにタオルを投げた。


「もうやめとけ。これ以上やったら、ジョグみたいに仕事に差し支える」


リリはコブラツイストを丁寧に解除し、ぺこりとお辞儀。


「ありがとうございました。参考になりました」


床に倒れたスピナが、涙目で天井を見上げながらぼやく。


「……いやマジで、太ももはドキッとしたよ……」


「別の世界が見える。タオル差し出してくるリリがまた遊んでね。

 スピナ先輩とか言ってくる。幻覚が見えるぞ」


次の練習台も遠くなさそうだった。


挿絵(By みてみん)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

AIにコブラツイスト描かせるのに1時間費やして無理でした。

妄想に逃げます。


本作は毎日朝7時更新を目標に、少しずつ蒸気の街ノアの物語を広げていきます。

挿絵も多めに入れていく予定ですので、ビジュアルでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


もし「続きが気になるな」と思っていただけたら、ブックマークや応援してもらえると励みになります!


ではまた、明日も7時にお会いしましょう。


――作者より

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ