第9話「外の世界に伝説、広がる」
絵巻が勝手に出回って、伝説が出張依頼してきました。
俺の許可?出してねぇよ!!
【○月●日】天気:晴れ。空気がざわついている
昼頃、町の広場がやけに騒がしかった。
見てみると、豪華な馬車がズドンと到着。
白銀の装飾、旗に描かれた紋章──貴族の使いだ。
俺には関係ないと思って、屋台で焼き魚を頬張ってたら──
「そこのあなた、黒髪に黒目、ナイフを帯びた御仁……」
「もしかして、伝説の“風神勇者・アルル”様では……?」
……まただよ!!!
「いや違うんです、旅芸人なんですけど!たまたまこの町でちょっと芸やっただけで!」
「伝説は常に“偶然の中に”生まれるものでございます」
話が通じねぇ!!!
男は「フリーデン侯爵領の使者」と名乗った。
曰く、数日前から領内で“黒髪の青年が魔物を一刀で討つ姿”を描いた絵巻が出回っており、
「ぜひお越しいただき、我が領民にその力を示してほしい」とのこと。
いやいやいやいや、早い早い!
俺、まだその絵巻知らないんだけど!?誰が作ったの!?無許可!?使用料発生するぞ!?
エミリアはやる気満々。
「やはり、勇者様の名は国を越えて届いておられるのですね……!」
「だから違うってばああああああ!!」
ニアは冷静だった。
「そろそろ潮時かもな。“ただの旅芸人”でいられるのも」
「……なに、それ。ちょっと不吉じゃない?」
「いや、これからは“伝説の旅芸人”としてやってけよ」
おい、やっぱりそっち寄りなんじゃねーか。
ただ、侯爵領の使者が手土産に持ってきた“黄金のコイン入りカゴ盛り”を見て、
俺の財布と胃袋が正直に反応した。
「……まあ、行くだけ行って、また誤解を解けばいいよな」
「それ、最初の村でも言ってたニャ」
黙れ、呪いが解けたばかりのネコ。
というわけで、次なる目的地は“フリーデン侯爵領”。
伝説、どうやら俺の知らないところでひとり歩きしてるらしい。
──やれやれ、旅芸人の営業先がどんどん広がってくぜ。
旅芸人、ついに貴族領へスカウトされました(非公認)。
営業広がるけど、ギャラはナイフ投げじゃなく誤解です。