第8話「俺、ついにナイフ講座を開く」
ナイフ投げ教えたら、伝説がまた肥大化しました。
俺、ただの芸人だってば──講師デビューしましたけども。
【○月▽日】天気:晴れ。ナイフ日和(?)
俺、今日ついに──
ナイフ教室の講師になりました。
……いや何言ってんだ俺?って感じなんだけど、ちゃんと経緯がある。
昨日の“勇者像事件”の影響で、町の子どもたちが完全に俺をヒーロー視してしまったらしく、
「勇者様!ナイフの投げ方を教えてください!」
「魔物を一撃で倒す“風神ナイフ術”をぼくも習いたいです!」
と、リクエスト殺到。
いや、無理だって。あれ偶然なんだよ。風向きとかタイミングとか、完全にまぐれだったんだって。
でも、キラキラした目で見つめられると弱いのが、俺という人間。
「……じゃ、じゃあ、基本の握り方だけな? 投げるのは危ないから、絶対マネしないでな?」
「はーい!!!」
──元気よすぎる。
この時点でなんかイヤな予感はしてた。
場所は広場の片隅。木の的を用意して、デモンストレーションスタート。
「いいか?ナイフはこうやって──」
(シュッ)
──スコン。
……うん。刺さった。きれいに的の中心。
いや、俺でもたまにはこういう奇跡が起きる。でも今じゃなくてよくない!?
「「「おおおおおおおお!!!」」」
「勇者様、すげえ!」
「まっすぐ心に刺さるナイフだった!」
「なんか今、風が追いかけてったよね!?」
ちょ、待っ──そのナイフ、ただのパフォーマンス用だぞ!?
追い風とか演出でもなんでもねぇからな!?自然現象だからな!?
しかもそれを見てた村の大人たちがまたノリノリで、
「やはりアルル様は“風の使い手”……!」
「間違いない、風神再来だ!」
「この技、ぜひ村の兵士にも教えていただけないでしょうか……」
話、膨らみすぎィ!!!
横でエミリアがポロリと一言。
「子どもたちに、夢を与える。これぞ、勇者ですね」
ちょっと待て、どの段階で俺、教育者ポジションに入ったの!?
ちなみにニアはその間、屋根の上で昼寝してた。
講座終了後に報告したら、すげぇ顔してた。
「……お前、完全に“伝説のインフレ”起こしてるぞ」
いやホントそれな。
でもまぁ、子どもたちが喜んでくれたなら、それでいいか。
投げナイフ一本で誰かの笑顔が作れるなら、それも芸人の仕事だろ。
それにしても──
「“一投一心”って名前、どうですか?ナイフ術の」
「それ、たぶん伝説になるからやめろ!!!」
「一投一心」って技名やめろ、伝説になるだろ!
旅芸人、教育者へジョブチェンジ(未承認)