第7話「猫の呪いと勇者像」
町に入ったら、俺の銅像が建ってました。いや誰が許可した。
しかも猫が光って花咲かせてるの、何?
【○月△日】天気:晴れ。心はモヤ。
今日、町に入った。
名前は「リンドの里」。そこそこ栄えてる中規模の村──だったはず。
なのに。
「な、なんだこれは……」
町の中央広場に立つ、謎の銅像。
よく見れば……俺だ。いやマジで俺。顔も、髪型も、服装も、そっくり。
そして、台座には刻まれていた。
《勇者アルル、ナイフ一閃の瞬間》
──あの、“カーバンクルの森”の一件だ!!!
「えええ!? なんでこんなもの作られてんの!?」
周囲にいた村人が目を輝かせて近寄ってきた。
「本物のアルル様だ!ようこそ、我らの英雄よ!」
「この像は、町の子どもたちの募金で建てられました!」
「私も設置工事に参加しました!石を運びました!」
みんな笑顔だ……。
だからこそ言い出せなかった。
(あの時のナイフ、完全に偶然だったんだけどな)
後ろからエミリアがそっと囁く。
「素晴らしいです、勇者様。伝説が形となったのですね」
「うーん……なんか違う気がするけど……」
その時、ポン!と何かがはじけるような音がして──
「にゃあああああああああ!!!」
ニアが突然、バク転して空中に浮かんだ。
……え? バク転??
しかも毛が逆立って、目がキラッキラしてる。
「おい!? ニア!? 何があった!?」
「呪いだぁぁぁ!!!これ、勇者像の呪いだぁぁぁ!!!」
聞けばこの町、「勇者像に触れた者は、勇者の力に近づく試練を受ける」という風習があるらしい。
で、ニアはその台座で爪とぎしてた。
「試練ってなんだよ!?猫に試練ってなんだよ!?」
結果──
ニア、強制的に光り始める(目がエフェクト付き)
語尾が勝手に“ニャ”になる呪いが発動
地面を歩くと花が咲くようになる(かわいい)
「助けろぉぉぉニャああああ!!!」
「いや、かわいいけど!似合ってるけど!お前のキャラに合ってない!!」
「ニャーじゃねぇ!!俺はこんな……にゃ……こんなぁっ……ッッ!!」
エミリアは真顔で言った。
「これはこれで、神秘的で素敵です」
「いや誰か止めてあげて!?」
結局、呪いは銅像の前で三回土下座することで解除された。
その間、町の子どもたちに囲まれて「がんばれ!光るネコさん!」と応援され、
ニアの精神はさらに削られたようだった。
帰り際、村長が満面の笑みで言った。
「次の像は、“光るネコ”の像を予定しております。英雄の仲間として──!」
ニアはそれを聞いて、泣いた。たぶん、感動じゃなくて絶望で。
伝説がどんどん“形”になってくの、怖くなってきた。
次は猫の像らしいです。泣いていいぞ、ニア。