第5話「依頼失敗!?そして伝説へ」
旅立ったら、いきなり群れるゴブリンと遭遇しました。
こっちは“旅芸人3人旅団”なんだけどなぁ?
【○月□日】天気:快晴(戦うには暑すぎる)
旅立った。
勇者様(仮)と、女騎士と、毒舌猫。いよいよ始まった“インチキ旅団”。
ギルドからは「北の丘陵地帯で発生している魔物の群れを調査せよ」という依頼。
といっても、情報では“ゴブリン2〜3体の目撃例あり”ってだけ。
雑魚モンスター。……のはずだった。
「ふふん、勇者様の初陣にふさわしいですね!」
とエミリアがやる気満々で馬を走らせる横で、
「お前、死ぬなよ」と肩の上のニアが言ってくる。
縁起でもないわ。
で──現地に到着。
草むらに隠れて、遠目から丘の上を覗いた。
すると、いた。ゴブリンが……10体くらい。
おいおい、話が違う。
「これは……数が多いですね!」
「“ですね!”じゃないよエミリア!戻ろう!普通に無理!!」
「大丈夫です!アルル様がいれば、きっとどうにかなります!」
「その“きっと”でどうにかなった試しがねぇんだよ!!」
案の定、エミリアが突っ込んだ。
大剣をぶん回し、確かに強い。けど一人じゃ数が多すぎる。
俺は安全な岩陰でナイフを構えていた。
……芸人用だけど、当たれば痛い。たぶん。
ニアは俺の耳元で囁く。
「なあアルル。お前、あの子がやられたらどうすんだ?」
「……知らねぇよ。勇者じゃねぇんだし」
そう言ってから、一瞬の沈黙。
「けど……旅芸人としては、舞台を台無しにするのは……ちょっと、ダサいよな」
ナイフを投げた。
1本、2本、3本──最後の1本が、エミリアに飛びかかろうとしたゴブリンの脇腹に偶然ヒット。
ゴブリンが倒れ、転倒した拍子に他の奴らを巻き込んで、坂を転げ落ちていく。
最終的に、ゴブリン全員が下の沼にドボン。
一同、唖然。
「す、すごい……あの一投で全員を……!」
「まさか、“ナイフの風神”という伝承は本当だったんですね……!」
誰だよその伝承作ったの!!!
エミリアは目を輝かせながら、
「わたくし、あの一投を一生忘れません……!それが、愛という名の衝撃であったとしても……!」
なんで告白風味にまとめようとしてるの!?
ギルドに戻ったら、依頼達成報告とともに“勇者アルル様、再び戦場に舞う”という記事が掲示板に貼られ、酒場では「ナイフの風神伝説」の話で盛り上がっていた。
……俺はただ、旅芸人として舞台の空気を守ろうとしただけなんだけどな。
ああ、でも。
ちょっとだけ、気持ちよかったかも。
ナイフ投げたら伝説が生まれ、愛の告白までセットでした。
誰か一回、本気で俺の誤解を解いてくれ。