第39話「インチキ勇者、物語を語られる」
王都に流れる“勇者アルル伝説”は、どこか自分とはズレてる気がする。
でもそのズレが、誰かの笑顔になってるなら──それも悪くない。
【○月◇日】天気:晴れ。なのに、なんか妙に気恥ずかしい空気が漂ってる。
戦いが終わって数日。
王都はまだ余韻の中にあった。
酒場では「勇者アルル様の武勇伝を聞かせてくれ!」と騒がれ、
市場では「空神勇者・最終決戦記ナイフ(非公式)」が爆売れ中。
そして今夜──
王都の広場で、“勇者アルルの物語”を語る劇が上演されるらしい。
「本人まだ生きてるのになんで“偉人伝”扱いなんだよ!」
「もう“生きる伝説”になってるニャ」
うるせぇ。
◆
広場には大勢の人。
子どもから老人までぎっしり。
その中心に、小さな劇団のステージが組まれていた。
開演の合図と共に、ナレーションが響く。
「むかしむかし……“ナイフ一つで世界を救った男”がいました──」
「待って!?ちょっと待って!?そこの時点でだいぶ違う!!」
舞台に登場する“アルル”役の役者は、
異様にイケメン、しかも身長が2メートル近くある。
「我こそは空神の使徒、風を断ち、闇を砕き、世界に笑いをもたらす者なり──!!」
「なにそのスーパーヒーロー仕上げ!?」
「でも、めっちゃ盛り上がってるニャ……」
劇の中の“アルル”は、魔王と一騎打ちし、世界の涙を拭い、最後に空に向かってナイフを放つ。
──空が光る演出。
「おおーっ!!」「さすが勇者アルル様!!」
「……俺、どこでこんな大層な人生送ったっけ?」
エミリアは、そっと言った。
「でも、みんな“信じてる”んです。たとえ話が盛られていても、その中心に“あなた”がいるのは事実」
「……むしろ盛らないと信じてもらえないくらい、現実がインチキだったってことだな」
アルル役が、劇のラストでこう叫んだ。
「さあ、今日も旅に出よう!ナイフ一本あれば、伝説は続く!」
──その言葉に、
観客たちが一斉に立ち上がって、拍手と歓声を送る。
「アルル様ー!!本物もかっこいいぞー!!」
「次の冒険も見たいー!!」
「新作グッズ楽しみにしてまーす!!」
「うわああああ……なんかもう……すげぇな俺の扱い……」
でも、
少しだけ、悪くなかった。
誰かが笑ってくれるなら、
ちょっとくらい“盛られて”もいいかもしれない。
だって──
旅芸人だもんな。オチは、笑える方がいい。
そこにいた“俺”は、ちょっとカッコよすぎたけど──
……まあ、笑ってもらえたなら、芸人冥利に尽きるってやつだ。




