第3話「ギルドで大混乱」
ギルドに寄ったら、勇者になってました。俺、旅芸人です。
【○月×日】天気:晴れ。気分は曇り。
今日、ギルドに寄った。
理由は単純。昨日の“森のナイフ事件”で「臨時冒険者認定証」なんてものを渡されたからだ。
紙っぺらかと思いきや、ちゃんとした革製カードに銀の装飾。名前がしっかり印字されている。
《アルル・リオン ランク:B》
いや、待て。
俺、ギルド入った覚えないぞ!?
誰の許可でランクBになってんの!?てか初期ってEとかじゃないの!?
これはさすがに誤解を解かねばと、正規のギルド窓口に行った。
町の中心部にある“冒険者ギルド・ロルダ支部”。
扉を開けた瞬間、空気が凍った。
いや、誇張じゃなくて本当に静かになった。
中にいた十数人の冒険者たちが、一斉にこちらを見る。
受付嬢のペンが止まる。酒を飲んでいたおっさんが口を開けたままフリーズ。
「……勇者、様……?」
またそれかよ!!
「ち、違います!俺は旅芸人で、昨日ちょっとナイフ投げただけで──」
「ナイフ一閃で魔物を討伐、しかも一点貫通の精密射撃……間違いありません、あの伝説の“光の神撃”だ!」
「黒髪、黒目、若干憂いのある目元……伝説のアルト様と酷似……!」
「まさか、現代に再臨された!?」
なにこの謎の考察ラッシュ!?
ネット掲示板かよ!
受付のお姉さんに至っては、なぜか涙ぐみながら俺の手を握ってきた。
「ご、ご無事で何よりです……。十年前、あなたが姿を消されたと聞いて、ずっと……!」
いや違う、俺そんな壮大な話の主じゃないの!
「俺はアルル・リオン、旅芸人です!」
「それに、勇者様って“アルト・ライオンハート”じゃ──」
「“アルト様”の甥御さんとか?」
「“ライオン”と“リオン”って……そっくりすぎんか?」
「まさか、隠し子……!?」
だから何でそこでワイドショーみたいになるんだよ!!
結局、俺は無理やりギルドカードを正式に登録され、「ランクBからのスタートを許可された逸材」とか勝手に持ち上げられ、
挙げ句の果てに──
「勇者アルル様、お部屋をご用意いたしました!」
……なんで専用個室が用意されてんの!?
宿屋でもこんな扱いなかったぞ!
しかもその個室に入った瞬間、「失礼します」と入ってきたのが──
黒猫。
いや、猫っていうか……小さめ。ツヤツヤの毛並み。
そして、喋った。
「……ようやく見つけた。インチキ野郎」
は?
何この猫、めっちゃ毒舌。
「その顔、そのナイフの投げ方……どう考えてもインチキ。あんた、本当に勇者か?」
いやだから違うって言ってんじゃ──
……あれ? 今、逆に話が通じる?
「……名前は?」
「アルル」
「へぇ、やっぱインチキだ」
何その初対面の好感度ゼロ。むしろマイナス。
てか、なんで猫が喋ってんの?魔法?精霊?幻覚?
「俺はニア。このギルドで《勇者鑑定師》をやってる猫だ。……まあ、自称だけどな」
……どんな自己紹介だよ。
とにかく今日はもう疲れた。
なんか訳わからんが、喋る毒舌猫に「追跡マーク」なる魔法を付けられて、
「少しの間、監視させてもらう」ってついて来るらしい。
また、面倒くさいのが増えた。
いや、ちょっとだけ面白くなってきたかも?
誤解がまた一つ増えました。あと、猫が増えました。
監視されながらも、俺は自由に生きたい(無理)。