表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/40

第1話「また間違えられた」

顔と名前が似てるだけで、今日も勇者に間違えられました。

俺はただの旅芸人──のはずなんだけどなぁ?

【○月×日】天気:晴れ(雲ひとつなし。逆に不安)


 また間違えられた。


 この旅を始めて、もう何度目だろうか。

 馬車の御者からはじまり、宿屋の女将、ギルドの受付嬢、しまいには道端で寝転んでた子どもにまで「勇者様ですか!?」と叫ばれる始末。いや、違う。旅芸人です。ジャグリングと軽業とナイフ投げが主な仕事です。


 ……けど、分かってる。

 この顔と名前が、色々とややこしいらしい。


 俺の名前はアルル・リオン。

 黒髪、黒目、ちょっと涼しげな顔立ち(らしい)──そして、十年前に世界を救った“伝説の勇者アルト・ライオンハート”に、めちゃくちゃ似てるらしい。名前もややこしい。


 しかも、その勇者様も黒髪・黒目で、細身の剣を扱っていたとか。


 こっちはただの芸人。木剣を小道具に使うだけ。

 ナイフ?投げてるけど、リンゴに刺すだけ。

 魔法?火起こしとライトくらいなら。

 ──それで世界を救えたら苦労しないっての。


 でも今日もやって来た。新しい町。新しい勘違い。


 町の入り口に立った瞬間、「おお、あのお姿は……!」って叫ばれて、あれよあれよという間に花束を渡され、祭囃子とともにパレードスタート。あのな?俺、昨日まで隣村で“おばけピエロ役”やってたんだけど。


「勇者様、どうかこの町にご加護を……!」


 って言われたら、断れないのが性ってやつだ。

 そんで、宿代タダ。飯もタダ。衣装は新品をプレゼントされた。


 うん、最高じゃん。

 俺、しばらくこの町にいようかな。


 でも──


「勇者様!実は、北の森に魔物が出て……どうか、討伐をお願いできませんか!」


 ……ってくるよねぇ!!


「いやいや、俺は旅芸人で……」と一応断ってみたけど、

「旅芸も戦場の技に通じるというではありませんか!」とか、「勇者様がそんな謙遜を!」とか、もう誰も話を聞いちゃいねぇ。


 でも、北の森に出たのは「カーバンクル」という魔物らしい。

 ウサギの大きい版で、ちょっと光ってるだけの魔獣。

 人は襲わないし、森に住みついてるだけなんだけど──


「子どもたちが怖がって森に近づけないんです」

「このままでは薪拾いができません」

「薪が拾えないと、シチューが作れません」

「シチューが作れないと、食卓が寒いです!」


 ……うん。よし、行ってくるわ。


 俺が行けば、たぶん森の入口でナイフくるくるして歌でも歌えば、魔物の方が逃げるかもしれん。

 芸人ナメんなよ?光るナイフと変なダンス、わりと効果あるんだから。


 というわけで、明日は森に出発。

 今日はシチューと寝床をありがとう。勇者様(仮)、満腹で就寝予定。


 それにしても、「アルル様は、きっと勇者アルト様の生まれ変わりですよ」とか言われたのは、ちょっと気になった。


 まさか、ね。

シチューのために森へ行くことになりました。

芸人のナイフ、案外使えるって知ってました?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ