第08話 篠宮 啓介-しのみや けいすけ- ②
「すまないが、自主退職してくれんかね。」
校長は、静かに、しかし淡々と篠宮に告げた。
「やはり、クラスに自殺者を出した担任がいるとなると、親御さんたちからクレームが入っていてね。」
言葉を選ぶような素振りを見せながら、校長はため息をつく。
「この学校にいじめなんてなかったし、私も君を守ってやりたいんだが……」
ほら、またそれ。
「いかなる理由があろうとも、生徒を自殺させた教師がいると見なされてしまうとね……」
篠宮は、疲れた顔をしていた。
「……はい……わかりました……。」
──ははは。そうよね。こうなるわよ。気持ちいい。
彼は、ぐっと唇を噛みしめる。
「私としても……思うところがありますので、退職させていただきます。」
──そう、堪えて、飲み込んで、黙って去るしかないわよね?
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私は、篠宮の背中を見つめながら、ゆっくりと笑みを浮かべる。
あの時、話をまともに聞かずに、詩乃の言い分しか聞かなかったもの。
そんなの 許せるわけないじゃない。
でもね、ほらほら、いじめはあったわよね?
柚葉が、透花にいじめられていたって、ちゃんと申告してたじゃない?
……あれは、言わなくていいの?
まぁ、言ったところで無駄だけどね。
だって 学校には「いじめはない」ことになっている んだから。
そんな言葉、誰にも届かない。
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静かに、校長室のドアが閉まる。
篠宮は、もうこの学校の教師ではない。
親たちのクレームを受け、学校は「最善の対応」を取ったつもりだろう。でもね、私から見れば、ただの保身でしかないのよ。
私は、校長の耳元で囁く。
もちろん、聞こえるはずなんてない。
「ねえ、校長先生?」
「これで満足?」
「先生を追い出したのは、あなたたちよ。」
本当に、篠宮が悪かったの?
本当に、彼がすべての責任を負うべきだったの?
──違うでしょう?
ただ誰かを悪者にして終わらせたかっただけ。
「教師としての責任? クラスに自殺者を出したから?」
笑わせないで。
都合のいい標的を作って処分して、そこで終わりにする。
「これで解決しました」って、そうやって納得したいだけ。
篠宮の消えた校長室は、しんと静まり返っていた。
机の上には、名前が刻まれた職員証が置かれている。
私は、その上にそっと手をかざす。
──でも、指先は、何も触れられない。
「……さて、次は誰が苦しむ番かしら?」
私は、ふっと笑うと、音もなくその場を後にした。
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