第05話 夜見 結華-よるみ ゆいか-
夜見 結華は、ちらちらと私の席を見ていた。
何度も、何度も。
まるで「何か」を感じ取るかのように。
夜見は、霊感があると周囲に言っている。
幽霊が見える・感じると、いつも言っている女。
心霊や呪い、そういうスピリチュアルなオカルトが 大好きな女だった。
そんな夜見が、友達の玲奈に話しかける。
「ねぇ……あの席にさ、誰か座ってる気がするのよ。」
彼女は、一瞬、視線を横に逸らす。
でも、すぐに玲奈の方を見て、静かに続ける。
「ええっ、やめてよ。まさか、霧野が座ってるって言うの?」
「ううん……そこまでは分からない。でも、感じるの。それを感じ始めたのは、月曜から……だから、もしかすると……」
玲奈の顔が引きつる。
夜見はさらに言う。
「あの席に近づくと、なんか寒気がするんだよね……本当に……。」
「やだ、やめてよ。そうやっていつも結華は私を怖がらせるんだから。」
夜見は、小さな声で囁くように言った。
「あの席には近寄らないほうがいいかも。……ほら、あの席って、何十年も前に自殺した女の子が座ってた呪いの座席って話だったでしょ? それに……霧野だって、クラスに何か恨みを持ってたのかもしれない。」
そうして、小声で玲奈に言う。
「あそこに座って、ずっとクラスをみてる感じがする。」
「だから、ヤメテってば! 本当、怖いの苦手なんだから! あの席には、何もいないよ。見えないよ。」
「……ごめんね。でもね……」
夜見は、ふと口を噤む。
言いにくそうにしながら、ぽつりと呟いた。
「実は、この話をし始めてから……今度は、私が見られてる気がするの。」
玲奈の顔が強張る。
もうこれ以上、話を聞きたくないと言わんばかりに、耳を塞いだ。
夜見も、それ以上は何も言わなかった。
──この席に誰かが座ってるって?
ふふふ……こんなに面白いことはないわよ。
──だって、あなた、まったく見えてないじゃない。
いま、私はあなたの目の前にいるのよ。
笑いすぎて、涙が出てくる。
「私」がここにいることすら知らずに、適当なことを言っている。
それがたまたま当たってるなんて、滑稽すぎるわね。
怖がる玲奈。
得意げな夜見。
そうやって、勝手なイメージを作り、
「呪いの席」の話を盛り上げ、
注目されるために、友達を怖がらせる。
それで、自尊心を満たしてる。
ほんと、最低な女。
夜見は、ぽつりと呟いた。
「……もしかしたら、霧野は呪い殺されたのかも……」
その瞬間、私は さらに笑いが止まらなくなった。
「ふふ……ふふふ……ふ、ふふ……ふ……ふふふふ。
あはは……あっはははははは。」
急に、笑いが静まる。
「──本当に呪いだとしたら、その原因は
あなたよね。」
だって。
この呪いの座席の噂を作って、流したのは
──あなたなんだから。
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