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第17話 桐ヶ谷 柚葉-きりがや ゆずは- ③

柚葉は、クラスメートの視線に耐えられなくなり、学校にはもう行ってなかった。


ずっと部屋に閉じこもっていた。


篠宮先生の言葉を思い出していた。私が「透花にいじめられていた」と話したとき、


「こんな事を正直に話してくれてありがとう」

「きっと君のせいじゃない」


あのとき、先生は私の言葉を疑わなかった。あの嘘を、信じてくれた。


それが今となっては、嬉しかった。

先生だけは、私を「いじめの加害者」ではなく「被害者」として扱ってくれた。たとえ、それが真実でなくても。


だから、私は先生に会いに行こうと思った。本当のことを話そうと思った。



---


先生が学校を辞めたと聞いたとき、私は愕然とした。

「……どういうこと?」


職員室で、別の先生が言った。

「……ほら、例の件で。結局、担任だった責任を問われて、ね。」

「クレームが来てたみたいだし、仕方ないよな。」


私は、息が詰まるような気持ちになった。

先生は、私の嘘を信じてくれたのに——

自殺は、私のせいかもしれないのに……

そして、その先生はもういない。


私は学校を飛び出した。

先生に謝らなきゃ。


先生は、私の話を聞いてくれた。


私の嘘を、本当のように受け止めてくれた。

それがどんなに救いだったか、私自身が一番よく知っている。


---


先生の家の前に立つ。

呼び鈴を押す手が震えた。


何度か押した後、扉がゆっくり開いた。

そこに立っていたのは、以前よりもやつれた顔をした篠宮先生だった。


「あ……」

先生は、私を見て、一瞬驚いたような顔をした。


「……桐ヶ谷か。」

声に、張りがない。

まるで、もう全てを諦めたような声だった。


「あの、先生……私……」

何から話せばいいのかわからなかった。

でも、私が言いたいことは、たったひとつだった。


「ごめんなさい。」

先生は、少し目を伏せた。

そして、静かに言った。


「……先生のこと、利用しました。」


「でも……でも、先生だけは、私を信じてくれた。」


「だから……私は、先生にだけ、本当のことを言いたかった。」  


「……何が?」


「私……嘘をつきました。」


「透花にいじめられてたなんて、全部嘘です。」


「本当は、私が透花に嫌がらせをしてた。」


「先生は、あの時、信じてくれましたよね……? それが……嬉しかったんです。」


「誰にも信じてもらえなかったけど、先生だけは……。」


「だから、もう嘘をつきたくなくて……」

言葉が詰まる。



先生は、しばらく私を見つめていた。

そして、ふっと、かすかに笑った。

でも、それはどこか乾いた笑いだった。


「……俺は、信じたんじゃないよ。」

「……え?」


「俺は、お前が嘘をついてることぐらい

わかってたさ。」

その言葉に、私は息を呑んだ。


「わかってて……?」

「でもな、桐ヶ谷……俺は、それをどうすることもできなかった。」


先生は、苦笑しながら、頭を掻いた。

「お前が本当のことを話したところで、俺に何ができた?」


「俺は……結局、何も変えられなかったよ。霧野を救えなかったよ。」

私は、先生の言葉を聞いて、胸の奥が苦しくなった。


先生も、ずっと後悔していたの?

先生も、自分を責めていたの?


「……先生。」

先生は、もう一度、私を見た。


「お前は、どうするつもりなんだ?」

私は、何も言えなかった。


「学校に戻るのか?」

私は首を振った。


「……戻れないです。」


「でも……でも……」


「私は、ちゃんと向き合いたい。透花のことも、自分のことも。」


先生は、少しだけ目を細めた。

「……そうか。」


そして、ぽつりと呟いた。

「俺も……それくらいは、しなきゃいけなかったよな。」

その言葉に、私は涙がこぼれた。

先生は、何も言わなかった。


ただ、私を見ていた。

私は、涙を拭いて、先生に深く頭を下げた。


「ありがとうございました。」

先生は、小さく頷いた。


私は、そのまま家を出た。


「……これから、どうしようかな。」

そう呟くと、どこからか風が吹いた気がした。

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