第15話 夜見 結華-よるみ ゆいか- ③
夜見唯華は、ずっと自宅に閉じこもっていた。
部屋の窓から外を眺めることしかできなかった。
カーテンの隙間から差し込む夕陽が、やけに不吉な色をしている。
——外に出たら、また見られる。
——また、透花の呪いが自分を追いかけてくる。
そんな気がして、ずっとベッドの上で震えていた。
けれど、時間が経つにつれ、頭の中にある記憶がよみがえった。
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「ねえ、透花。あの席、呪われてるんだよ。」
透花は、ノートに視線を落としたまま、少し眉をひそめた。
「……またその話?」
「だって、本当なんだもん!」
私は強く言った。
「昔から、あの席に座った子はみんな不幸になるの。知ってた? 誰も長く座れないんだよ。」
透花は、小さくため息をついた。
「結華、そういうの信じるのは自由だけど……
私はそんなの関係ないと思うよ。」
「でもさ、ほら。最近、色々ツイてないでしょ?
彼とも別れちゃったし……。」
透花の指が、一瞬ピクリと動いた。
私は続けた。
「それって、呪いのせいかもよ?
だって、あの席に座る前は、そんなことなかったじゃん?」
透花は、しばらく黙っていた。
「この呪いを祓うお守りあげるよ。」
そう言って、私は呪いよけの御守りを渡した。
「ふふふ、呪いのせいか。」
透花は、御守りを見つめながら、静かに言った。
「それって良いね。」
「だって、仮に自分が悪くても、呪いのせいにしちゃえば、自分は悪くないってなるんだ。」
「自分のせいじゃない。呪いのせい。悪いことは呪いのせいにする。その悪い呪いは、祓っちゃえばいいんでしょ。」
「なら呪いって、救いでもあるんだね。」
私はそんな事を考えたこともなかった。
透花は、いつでも優等生だった。
私はそれが鼻につくとも感じていたけど。
でも、あのときの透花は、何かを悟ったように笑っていた。
「ねえ、結華。御守りありがとう。あなたの言うオカルトも案外、悪くないね。」
思い出すべきだった。
——私は、なんでこれを思い出せなかったんだろう。
——こんな透花が私を呪うわけないじゃん。
透花は、呪いを信じたんじゃない。
ただ、自分を救うために、呪いという概念を
利用しただけなんだ。
私は呪われている。
それなら、呪いを祓っちゃえばいい。
呪いを祓う方法なら、たくさん知っているじゃない。ずっと、そういうのを調べてきたんだから。
夜見唯華は、その準備をするために、街へと向かった。
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