第14話 宵宮 夢莉-よいみや ゆめり-
「はじめまして。霧野 透花です。」
「初めて会ったばかりのあなたに、こんなことを言うのは、おかしいけれど……」
「………」
「あの夜、私は自殺しました。」
「どうぞ、お願いします。私が死んだ理由を教えてください。」
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霧野透花は、そのように『私』に話しかけてくる。
──自殺した後も、そこに漂い続けている。
彼女は、自分の状況を理解できていないのかもしれない。
ただ、死後の念として
「なぜ?」 を繰り返すだけ。
『私』は、透花をずっと見てきた。
透花があの席に座る前から、私はここにいる。
透花が自殺するまで、すべてを見ていた。
──そして、透花が死んだ後、彼らがどう変わっていったかも。
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「私は、宵宮 夢莉です。」
「私はあなたをずっと見てました。私もここから自殺しました。」
私は、透花の死後、
彼らがどうなったのかを伝えていく。
──彼らは、透花の死を悼まなかった。
──透花の死を 自分の都合 に利用しようとした。
ただただ、
自己保身のために行動していた。
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「私も同じ経験がある。透花と同じなんだよ。」
夢莉は、悲しそうに透花に語りかける。
「だからこそ、私には透花の気持ちがわかるんだ。」
「誰にも理解されず、誰にも伝わらず、誤解されて、つらかったよね。」
──だけど。
夢莉は、嬉しそうに顔を上げる。
「でもね、私がちゃんと彼らが苦しんでるのを見てきたよ。」
「どんどん生活が破綻して、人生が落ちていくのを、ちゃんと見届けてきた。」
夢莉は、まるで透花のことを 自分のことのように 喜ぶ。全身で、満ち溢れる歓喜を表しながら。
「だから、透花の死は無駄じゃなかった!
ちゃんとみんなに、復讐できてたよ!」
私は、透花の瞳を覗き込む。
何も言わない彼女の顔は、ただ静かで、まるで感情のない人形のようだった。
「ねえ、透花。よかったよね?」
私はそっと、彼女の肩に手を置く。
「あなたの苦しみを、彼らにも味わわせた。」
私の言葉に、透花はゆっくりと顔を上げる。
そして、ぽつりと呟いた。
「……私は……そんなこと……望んでない……」
瞬間、私の胸の奥に、鋭い針を刺されたような感覚が走った。
「——え?」
違う。そんなはずはない。
透花は、彼らを恨んでいたはず。
彼らのせいで死んだんだから、復讐を望んでいたはず。
まるで、世界が音を失ったようだった。
私の手が、震える。
「そんなはずない……!」
思わず声を荒げる。
「だって、彼らはあんなことをしたのよ? あなたを苦しめて、裏切って。」
「なのに、なんで……?」
透花は、ただ悲しそうに私を見つめるだけだった。
──そんな考えをかき消すように、
私は、彼らのその後の光景を目にする。
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