第11話 桐ヶ谷 柚葉-きりがや ゆずは- ②
霧野透花は、いじめられて自殺した。
――その話で、噂は収束していた。
彼女が死ぬ理由がそれぐらいしか思い当たらないから。
透花自身は、優等生だった。
確かに両親が不在がちだったが、
家庭環境が悪いという話も聞かない。
親と仲が悪いという噂もなかった。
だからこそ、
「いじめが原因だった」 という話が、
ネットやテレビで流れ始めると、
クラスメートたちも「それが真実だったんだ」と思い込むようになった。
表立って話されることはなかったが、
──「主犯は桐ヶ谷柚葉」
それが、クラスの結論だった。
私は、笑った。
ふふふ、だってそうじゃない?
柚葉。
あなたが「透花にいじめられていた」って言ったのに、「柚葉が透花をいじめていた」ことになってるんだもの。
あなた以外のクラス全員が、そういう「結論」を出したのよ。
愉快な話ね。
気づいたら、あなたが孤立しているんだから。
柚葉が「本当は透花にいじめられていて、
それをやり返しただけだ」と言っても、
誰も、それを信じなかった。
――ついに柚葉は、学校に来なくなった。
私は、桐ヶ谷柚葉のいない教室を眺めながら、
ふっと笑う。
彼女の席は、今や空席のまま。
もちろん、先生は 「家庭の事情」 と説明した。
でも、クラスメートは もう知っている。
──柚葉は、もう戻ってこない。
透花の死後、柚葉がやったことは、
結局、すべて自分に返ってきた。
「いじめられていた」と言えば、同情を買えると思った?
透花がもういないから、何とでも言えた?
──でも、クラスメートはそんな言葉を信じなかった。
柚葉が透花を嫌っていたことなんて、
誰もが知っていたから。
蓮と付き合っていた頃も、
柚葉が透花の悪口を言っていたのは、誰もが聞いていた。
むしろ、
「柚葉が主犯だった」
──その話のほうが しっくりくる。
だって、その方が「わかりやすい」から。
透花が「いじめられていた」ことにすれば、みんな安心できる。
クラスの雰囲気は変わったけど、結局、そこに罪悪感を抱く人なんていなかった。
むしろ、これで良かったとすら思ってる。
原因が柚葉だったことにすれば、他の誰も疑いも責められなくても済むのだから。
柚葉がいじめの主犯だった。
柚葉が透花を追い詰めた。
柚葉のせいで透花は自殺した。
――その結論が、クラスの新しい「真実」になった。
「誰も信じてくれない」と言いながら
クラスの視線を避け沈黙し、柚葉は
次第に学校には、来なくなった。
ねえ、柚葉。
もしかして、これが「いじめ」なのかな?
私は、彼女がいない教室で、誰にも聞こえない声で囁く。
そして、ひとり、笑うのだった。
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