第10話 夢咲 詩乃-ゆめさき しの- ②
私は詩乃を見つめながら、微笑んだ。
──ああ、ずいぶん落ちぶれたわね。
彼女は今、無機質な取調室の椅子に座っている。
手錠こそされていないが、目の前には警察官、そして付き添いの大人たち。
緊張した様子で、机の端を掴み、硬い表情を浮かべている。
――もう何度目だろうね?
最初はたかが文房具だった。
誰も気づかないほどの、小さな盗み。
でも、それは徐々にエスカレートしていった。
バッグ、財布、ゲーム機、アクセサリー。 そして、ついにブランド物の時計。
でも、詩乃は止めることはなかった。
むしろ、自分がやったことを、「透花のせいだ」 と言い訳するようになった。
「だって、霧野のせいでこうなったんだよ。
最初にあの子がやれって命令してきたんだ。」
「それから、私は万引きをやめられなくなった。」
「その後、霧野が自殺した後も、霧野が頭の中で言うの。もっと、良いものを盗めって。」
都合のいい言葉よね。
まるで、自分には何の責任もないみたいじゃない?
私は彼女の目の前に立ち、ゆっくりと顔を覗き込んだ。
「これは、あなたが望んだ未来なのかしら?」
「『霧野が死んだから、私はこうなった』って。」
そして、少年院送りが決まり、
詩乃は 最後に、こう言った。
「私の人生を壊したのは、霧野透花。霧野透花のせい。」
その言葉を聞いて、私はもう一度、笑った。
「ふふ……そう、詩乃。」
「ずっと、そう思っていればいいのよ。」
「それが、あなたを もっと苛む のだから。」
──少年院の鉄の扉が閉まる。
私は、それを見届けながら、そっと、呟いた。
「ねえ、詩乃。ここを出たとき、何を思うのかしら?」
「また、『透花のせいでこうなった』って言い続けるのかな。」
ふふ、どっちでもいい。
どうせ、私には何も関係のないことなんだから。
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