第01話 霧野 透花-きりの とうか-
「はじめまして。霧野 透花です。」
「初めて会ったばかりのあなたに、こんなことを言うのは、おかしいけれど……」
「………」
「あの夜、私は自殺しました。」
「どうぞ、お願いします。私が死んだ理由を教えてください。」
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夜の風が、髪を揺らした。
ここは高い橋の上。下には暗く静かな川が広がっている。
街の灯りが遠くに見える。川の水面に、ぼんやりとした光が反射して揺れていた。遠くから車の走る音が聞こえるけれど、この橋には、今、誰もいない。
「寒いな……」
夜風が肌を刺すように冷たい。だけど、それもすぐに感じなくなるんだろう。
私は、ゆっくりと足を上げ、欄干の上に立った。
風が、少し強くなった気がした。
想像してみる。
痛みはあるのか、それとも、一瞬で何も感じなくなるのか。息ができなくなる感覚は、どんなものなのか。
だけど、考えても分からない。
手を離せば、すべてが終わる。
私の存在も、悩みも、すべてが。
……そう、すべてが。
(だけど、本当にそれでいいの?)
一瞬、何かが頭をよぎる。
思い出す。今日の出来事。
昨日のこと。その前の日のこと。
私には、理由がある。
だから、考えるのはやめる。
私は、深く息を吸った。
夜の空気は、思ったより澄んでいて、冷たくて
きれいだった。
手を、----離す。
一瞬、無音だった。
それから、風が吹いた。
体が浮いた気がした。
私の視界は、暗闇の中へと落ちていった。
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