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Side フィー 胸の高鳴り

 ざばんと大きな音と共に水しぶきがあがる。

 どうやら、私――アルフィナは川の中に落ちてしまったようだ。


「レオン!?」


 私はすぐに顔を出して、辺りを見回す。

 崖から投げ出された私を彼は必死に守ろうとしてくれたのだ。


「どこ! どこにいるの!?」


 私は必死に彼を探す。

 本当は私が守らなきゃいけなかったのに、逆に守られてしまった。


 父親に命を奪われそうになった可哀想な男の子。

 彼の姿が頭からずっと離れなかった。


 一体、あれからどうなったのだろうか。

 ちゃんと逃げられたのだろうか。


 彼のことをずっと気にしていた。

 だから、生きていると知って、元気でいると知ってどれほど嬉しかったことか。


「とにかく探しに行かないと……」


 岸に這い上がり、私は川下の方へとレオンを探しにいく。

 それから程なくして、レオンは見つかった。


「っ……ぁっ……」


 私はその姿を見て声を失ってしまう。

 レオンは、その小さな体のそこら中から血を流し、虚な瞳で空を見つめている。

 腕はあらぬ方向に曲がり、生きているのが不思議なほどの重傷だった。


「いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 私は涙でいっぱいになると、激しい叫びをあげるのであった。


 どうして? どうして?


 頭の中で疑問符が木霊する。

 せっかくあの最低の王様から解放されたのに、今度はどうしてこんな目に遭わされなきゃいけないのか。

 私は目の前の少年に襲う理不尽にやるせなさを抱いてしまう。


「と、とにかく、治療しないと」


 全身血まみれになり、骨も何本も折れている。

 そんな状態の人を、私なんかの力で治療できるのか。自信がなかった。

 それでも、やるしかない。

 私は杖を取り出してレオンの前にかざす。


「お願い治って……」


 必死に体内の魔力を絞り出す。

 治癒術が使える人間は希少らしい。

 だから、周りは私のことを聖女だとか言ってたけど、ピンときてなかった。

 でも、こんなことならもっと、レオンやカイルみたいに自分を鍛えればよかった……


「どうして……効かないの!?」


 いくら魔力を注げど、傷はまったく癒えなかった。

 まるで私の魔力を拒否してるみたいだ。


「あの時は、すぐに治ったのに、今はどうして……!!」


 あの最低の王様に焼かれた時、レオンの体はすぐに再生した。

 だから今回もそうなるんじゃないかって期待したけど、今は再生するどころか、治癒術も効いてくれない。


「このままじゃ死んじゃう……私のせいで」


 頭が真っ白になる。

 私をかばったせいで、レオンはこんな酷い目に遭ってしまった。


「ぅ……ぁ……」


 レオンが微かに呻き声をあげた。


「レオン!? 目が覚めたの!?」


 私は彼の顔を覗き込む。

 痛みのせいか、額からは滝のように汗が流れ、レオンは苦悶の声をあげ続けている。


「フィ……無事……よか…………ぐぅっ……!!」


 激痛に耐えながらレオンはそれでも私の無事を喜んだ……

 私はその姿に不意を打たれたような気分になった。

 ダメだ。この子を絶対に死なせてはいけない。


「私の魔力も命も全部あげるから……だから、お願い……この子を助けて……!!」


 ――貴様デハ無理ダ。忌々シイ小娘ヨ……


 ふと、声が聞こえてきた。

 それは酷く不愉快で、吐き気を催すような声だった。


「誰……誰なの!?」


 思わず耳を塞いでしまう。

 しかし、声は構わず直接、私の頭の中に雪崩れ込んでくる。


 ――忌マワシキ聖女ノ〝力〟ヲ継グ貴様ノ治癒ガ、効クハズナドナカロウ。


「あなたは……あなたは一体なんなの?」


 ――ドウデモヨカロウ。ソレヨリモ、コノ者ヲ治癒シタクハナイノカ?


「でも、私の術が効かなくて……」


 ――当然ダ。貴様ノ魔力ハ相性ガ悪イ。ダガ、ドウニカスル方法ハアル。


「なんなの……? どうすればレオンを治せるの!」


 ――コノ者ノ血ヲ飲ムガイイ。ソウスレバ、貴様ハ……


 私はそれを聞いて躊躇いなく、レオンの血を飲んだ。

 それが、最悪の選択だと分かっていながら、それでもレオンを救うために、他に手は無かった。


 どくりと、胸が高鳴る心地がした。


 全身が熱くなるのと同時に、不思議と力が湧いてくる。

 間違いない。これはレオンの力だ。レオンが私の中に流れ込んでいる。


 ――クク……躊躇イモ無ク、口ニスルトハ。バカナ……


「あなたが邪魔をしているのでしょう……?」


 私は治癒術を発動させながら、声に尋ねる。

 レオンが再生しなかった理由として最も可能性が高いのは、この不愉快な声の仕業だ。


「レオンの力があれば、こんな酷い傷でも、自力で治せるはずだった……それなのに……」


 ――アア……気付イテイタカ。


「一体、何が狙いなの? 私にレオンを治させて、何がしたいの」


 それきり声は聞こえなくなってしまった。

 果たして、今のはなんだったのか。

 私にはさっぱり分からないけど、とにかく今はレオンの身体を治すことに専念しよう。


「ぅ……フィ、フィー……?」

「レオン、すぐに治してあげるからね」

「だ、大丈夫……これぐらいの傷なら……」


 勝手に治ると言いたいんだろうけど、どうやらさっきの声は、レオンには聞こえてなかったようだ。

 自己治癒には期待できない。ここはなんとしても私が治さないと。


「どうして……? 治りが遅い……」


 先ほどの声の通りにした結果、治癒術が少しずつレオンに効くようになった。

 しかし、思ったよりもその治癒速度は遅い。


「フィー、無理しなくても……ひゃっ!?」


 私は杖を地面に置いて、レオンの頬を撫でる。

 治癒術というのは直接、接触した方が効果が高まると聞いたことがある。

 杖なしだと、術の制御は難しくなるが、今はそんなことを言ってられない。


「どう? 気分は?」

「うん……少しずつ良くなってきたみたい」

「良かった……レオンが無事で……」

「また、助けられちゃったね」

「覚えてるの……? あの時のこと?」

「うん……フィーが僕をかばってくれて……」

「そんな……」


 私はその言葉を聞いて、強いショックを受ける。

 レオンは頭のいい子だとは思ってたけど、良すぎたのだ。

 生まれた日の記憶を今でも持ってるほどに……


 それは、あの惨劇の記憶をまだ持ってることに他ならない。

 父親に焼かれ、殺されそうになった記憶だ。


「レオン……!!」

「フィ、フィー!?」


 私は思わず彼を抱き締める。

 神はなんて残酷な仕打ちをするのだろうか。

 実の父親に殺された記憶なんて、ない方が幸せなのに……


「この記憶も消してあげられたらいいのに……」


 しかし、それは出来ない。

 記憶の操作なんて私には扱えない。

 ならせめて……


「う、うわあ!? 何を!?」


 私は自分の衣服に手を掛ける。

 恥ずかしいけど……でも、全身で直接触れ合えば、治癒はより早くなる。

 過去の悲しい記憶は消してあげられないけど、せめてこの痛みだけでもすぐに消してあげたい……


「お願い、目を瞑ってて……」


 私は心臓が早鐘を打つのを感じながら、ピタリと身体を密着させる。


「レオン、助けてくれてありがとう……痛かったよね? 苦しかったよね? でも、私がそんな痛み全部消して上げるから……」

「う、うん……」


 こうして私はレオンが完治するまでその身を抱き続ける。

 私より年下の男の子。

 それが私に縋るように身体をくっつけてくる。

 私はその状況に、心の奥底で高揚するのを感じた。

 お読みいただいてありがとうございます!!


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 何卒よろしくお願いいたします!!!!


 また、本作はカクヨムというサイトにも投稿しております。

 最新話はそちらに掲載しておりますので、先の展開が気になる方はぜひご覧ください!

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