第6話 守るべき相手
フィーと二人だった武術の稽古にカイルが加わって、数日が経った。
原作主人公であるカイルの登場……それは僕にとって警戒すべき出来事だ。
レオンが暴走するきっかけの一つは、カイルとフィーの関係に対する嫉妬だ。
生まれた時にレオンは、父に殺されかけた。
その時の炎の光景は、レオンの脳裏に焼き付き、強いトラウマになっている。
それは僕も同様で、あの恐ろしい光景と痛みは今も頭から離れてくれない。
そんな状況で、自分を庇ってくれたフィーは、レオンにとってかけがえのない存在であり。
レオンは強い執着心を抱いていた。
僕がこの世界で真っ当に生きるには、そのレオンの執着心を乗り越えなくてはいけないのだ。
「レオン、また考えごとしてるの?」
「あいたっ!」
気付いたらフィーが目の前にいて僕の頭を小突いてきた。
こっちはフィーのことで悩んでいるというのに、気楽なものだ。
「年頃の男だから、悩み事が尽きないんだよ」
「まだ、7歳なのに、何言ってんだか」
続けてカイルが呆れたように言ってくる。
二人は僕が前世の記憶を持っていることを知らないので、当然の反応ではある。
「ねえ、どうやったらカイルみたいに強くなれるの?」
僕はふと、そんなことを尋ねる。
「どうって、セレナさんの言いつけ通りに訓練を重ねれば、お前だっていつか強くなれるよ」
「いつかじゃダメなんだ……二人を守れるようにならないと」
そう言うと二人が笑い出した。
「レオンったら、可愛いこと言うんだから」
ぽんぽんとフィーが僕の頭を撫でる。
この人は本当に僕を弟分としか見ていない。
だけど、二人が捉えた意味と、僕の意図は違う。
僕の中には得体の知れない何かが潜んでいる。
それが毎晩のように僕を深淵に引き摺り込もうとするのだ。
あの声に抗うには、僕はもっと強くなる必要がある。
「まあでも、レオンの歳ならそんな風に思うのは当然だろ」
「カイルも同じくらいの歳で強くなりたい強くなりたいって言ってたもんね」
「む、昔の話だろう。それよりもついてこいよ」
カイルが僕たちを手招きする。
どうやら森の方へと行こうとしているようだ。
「ま、待って。僕は屋敷の外には……」
「今ならセレナさんも見てないよ。それよりも強くなりたいんだろ?」
最近は母上も忙しいのか、午前中だけ母上の指導を受け、午後は僕らだけで自主的に稽古するという機会が増えてきた。
何をしているのかは分からないが、きっと大事なことをしているのだろう。
だが、確かにチャンスではある。
「カイル、ダメよ。森は危険だから、子供だけで入っちゃダメだって」
「大丈夫だって。レオンも十分強いし、奥まで行かなきゃ大丈夫だ」
僕は意を決してカイルの方へと歩いていく。
「レオン!? ダメだよ」
「でも僕は強くならないと……」
この世界でどうすれば強くなれるのか、その知識が僕には思い出せない。
なら、ここでカイルから学ぶのが僕にできる唯一の選択だ。
「もう、どうなっても知らないからね!!」
それから僕らは森の中へと足を踏み入れる。
日の光も差さないぐらい鬱蒼とした森で、カイルは体の鍛え方をレクチャーする。
「稽古ももちろん大事だが、体を鍛えるなら実戦が一番だ」
そう言って得意げにしていると、カイルの背後から巨大な蜂が襲いかかる。
「はぁっ!!」
しかし、カイルは臆することなく背後に斬りかかり、巨大な蜂を一太刀で仕留めてみせる。
あまりにも鮮やかな剣捌きだが、それよりも気になったのは蜂の死体の方だ。
蜂の体はしばらくすると、霧のようになって消滅し、後に赤い玉のようなものが残された。
これは一体なんだろう?
「こいつらは魔獣って言って、魔力でできた危険な生物だ」
原作でもよく目にした敵だ。
戦闘力は大したことなく、最序盤で出てくる敵だ。
ゲームでは倒すと経験値が手に入るけど……
「重要なのはこいつらが落とす赤い玉だ。これは魔魂と言って、魔力が凝縮されている」
カイルは魔魂に手をかざす。
すると魔魂はカイルの体内に吸い込まれていく。
「カイル、大丈夫なの!?」
フィーが心配そうにそれを見守る。
「大丈夫だって。危ないもんじゃないからな。むしろこうやって取り込むことで、魔力と身体能力が強化されるんだ」
なるほど。ゲームにおける経験値の代わりというわけなのだろう。
「レオン、ここにいるのは雑魚ばかりだ。試しに戦ってみろ」
僕はカイルに促されて、蜂や狼といった小型の魔獣と戦っていく。
カイルの言う通り、ここにいる魔獣はそれほど強くはなく、幼い僕の体でも簡単に倒すことができた。
「こうして魔魂を集めていくのが、体を鍛えるコツだな。俺たちの肉体は筋肉以外にも、体内の魔力によって補強される。魔力量を増幅させるにはこうして外から取り込むのが一番効率がいいんだ」
それから僕はカイルと共に森の魔獣を蹴散らしていく。
このままでは魔獣を狩り尽くしてしまうのではと心配になる程だが、カイルによると、その心配はないらしい。
「この分なら、少し奥に行っても大丈夫そうか?」
ふと、カイルがそんな提案をした。
すると、フィーは少し怒ったように返す。
「カイル、調子に乗りすぎだよ!! そろそろ帰ろう? 遅くなったら、みんな心配するよ?」
流石にフィーの言う通りだ。
立ち入りを禁止されている森に踏み入れ、僕は屋敷から抜け出してしまった。
これ以上、長居するのは躊躇われる。
「平気だって。俺もこの先には何度か……って、フィー!?」
その時、フィーの背後に僕らの三倍はあろうかという巨大な山猿が現れた。
「………………え?」
唖然とするフィーに向かって、山猿が剛腕を振るう。
丸太のように太い腕から放たれる一撃。そんなものをまともに食らえば、フィーの命はない。
「フィー!!」
僕は咄嗟に駆け出して、フィーの前に立つ。
そして両腕を構えて防御の姿勢をとり、山猿の一撃を受け止め――
「かはっ……!!」
きれなかった。
その力は圧倒的で、僕は後ろにいたフィーごと殴り飛ばされてしまう。
そして、運の悪いことに、僕らは側にあった断崖の先に投げ出されてしまうのであった。
「フィー!! レオン!!!!」
カイルの声が聞こえる。
体が痛い。
今の一撃で骨が折れてしまっただろう。もしかしたら、内臓も……
あまりの激痛に、僕は気をやりそうになる。
「いや……気絶……してる、場合じゃ……」
僕の側にはフィーがいる。
このまま地面に激突すればひとたまりもない。
僕は折れた腕を無理やりに動かして、フィーの腕を掴む。
「フィー!!」
そして全身の力を振り絞って彼女を引き寄せると、僕は彼女を包むように抱き留める。
「レ、レオン!? 何する気!? だ、だめ!!」
フィーが必死に振り解こうとするが、僕は無理やりそれを押さえ込む。
このまま僕の身体をクッションにする。
そうすれば彼女だけでも助かるはずだ。
僕が生まれた日、彼女は僕を必死に庇ってくれた。
その恩を返す時が来た。
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