第31話 新たな地へ
こうして僕は、なんとかフィーを救い出すことができた。
フィーの父上は助けられなかったし、村の人にも犠牲を強いてしまった。
そのため、決して満点とは言えないが、それでもマシな未来は歩めたと思っている。
あれから国の情勢は大きく変わった。
ヴィルヘルムが国を帝国に売り渡したことに反発して、反乱軍が組織されたのだ。
彼らは帝国の影響力の低い北西部のテュルバンという大都市に集まり、帝国の打倒を掲げている。
そして、僕らは……
「レオン、今どのあたりを走ってるの?」
フィーが尋ねてくる。
僕らは王国の北を、西方に向かって車で走っていた。
「もうすぐミレーって街につくみたいだ。検問はないみたいだけど、念のため、街のはずれに車を停めて、徒歩で街の様子を調べてくるよ」
あの後、村には帝国の兵士たちが大勢やってきた。
どうやらジェラルドは帝国と繋がっていて、なんらかの理由で僕を捕えようとしていたらしい。
原作では見られなかった帝国の動きに、僕は妙なものを感じ、生き残った村の人たちを連れて、脱出することを決めた。
向かう先は王国の北西、反乱軍が拠点を構えるテュルバンだ。
そこで村の人たちを受け入れてもらえないか交渉してみるつもりだ。
「でも、今のところ追手がいなくて良かったね」
「そうだね。帝国の支配が手薄な地方都市を経由してるから、今のところトラブルもないし」
「おかげで、こうしてレオンとのんびりできる」
隣に座るフィーが腕を絡ませてくる。
あの戦いを経て、僕らは恋仲となったが、それからのフィーは原作でも見なかった積極性を見せるようになった。
原作ではカイルに対しても恋人というよりは、共に戦う同志のような関係がピッタリな距離感で、あまりカイルに甘える姿は見せなかった。
しかし今は、いつも僕から離れないようにピッタリくっついてくるし、何もない時にキスをせがんできたりと、新鮮な一面を見せてくる。
原作で彼女のことは良く知ってたつもりだったが、それでも未知の一面がたくさんあることに、僕はなんだか不思議な気分でいた。
「あの、街には私もついていっていいですか?」
エーファが尋ねてくる。
結局、彼女とイライザは一緒についてくることになった。
あの様な目に遭って、イライザもドミニクの元へは戻れないようで、王宮から離れて血のつながった娘であるエーファと共に生きることを決めたようだ。
「もちろんだよ、エーファちゃん」
さて、一方の奴隷問題についてだが、フィー的には特に問題がないらしい。
前に、エーファの爆弾発言でフィーと一悶着あった時は、「私の知らないところで、勝手に関係が築かれてるのが寂しい!」という理由だったそうで、ちゃんと説明してくれれば良かったらしい。
というか、もう奴隷でいる必要もないのだが、エーファ的にはこれでいいらしい。
なんだかよくわからない話だ。
そんな訳で順調な旅路を送っているが、気になることもいくつかある。
まずカイルのことだ。
結果的に、僕は彼からヒロインであるフィーを奪った。
僕は原作のレオンのように、彼女に対して酷いことをするつもりはないが、それでもこれはある種の不幸ルートと言える。
幸福ルート……フィーがカイルと結ばれるルートを外れた以上、これからどんな影響が出るのか全く分からない。
カイルはあの戦いの最中、何処かに姿を消してしまった。
風の噂では、原作通りに反乱軍に加入したそうだが、果たしてこれからどうなるのだろう。
二つ目はドミニクのことだ。
いや、よくよく考えたらそんなには気にならない。
彼はあの後、こっそりと逃げ出し、帝国の庇護のもと、どこかの地方都市でブイブイ言わせているらしい。
どうでもいい。
三つ目は、ジェラルドの仲間である仮面の男のことだ。
結局、彼の正体は何も分からなかった。
母上に匹敵する武術の腕を持ち、ジェラルドより上の立場のものぐらいしか分かっていない。
ジェラルドの仲間なのだから、恐らくはこの世界の〝未来〟の存在も知っていると思われるが、そもそもの話、どうしてそんな情報を知り得るものが存在しているのか。
最もあり得る可能性としては、僕以外にも転生者がいることだが……
「レオン、考え事?」
「あ、うん。色々あったなと思って」
「そうだね。まさか、私とレオンがこうなるなんて」
そう言って、フィーが頬にキスをしてくる。
その不意の行動が本当に可愛らしい。
そうだ。僕は彼女に救われて、彼女を守ろうとこの世界で生きてきたんだ。
何があろうと、彼女とそしてこれまでにできた大切な人たちを守り抜くだけだ。
これからの未来がどうなろうとそこは変わらない。
僕はフィーとエーファの顔を見て、決意を新たにするのであった。
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