第27話 花嫁
レオンとカイルが、フィーを追って森に入る。
しかし、深い森のどこに行けばいいかも分からず、二人は彷徨っていた。
一方で、ジェラルドから正確な場所を伝えられていたフィーは、転移を駆使して森の中にある祭壇へとやって来ていた。
「おお!! ようやく来たんだね、僕の花嫁!!」
祭壇ではドミニクが待ち受けていた。
「チッ……お楽しみはもう終わりかよ……」
周囲には何人かのならず者がいて、フィーの母――アイリスを囲んでいた。
その衣服は破られており、ならず者たちは無遠慮にその肉体に触れ回っている。
「っ……くっ……」
アイリスは、全身を襲う嫌悪感に襲われながら、必死に恥辱に耐えている。
「あなた達……なんて卑劣なの……」
母親を辱められた怒りから、フィーは光の刃を生成して解き放った。
「え……?」
直後、アイリスを弄ぶならず者達の腕が切り落とされた。
「お、俺の腕が……腕がああああああ!!!!」
ならず者が叫ぶと、フィーは口元を手で押さえてえずく。
思わず攻撃したが、フィーはこの手の暴力に慣れていなかった。
「なんとも家族想いなことですね。さて、どうやら一人で来たようですね。てっきり、あの二人も一緒かと――」
「腕が腕がああああああ」
ジェラルドの言葉を遮るように、ならず者の一人が叫んだ。
「うるさいな」
直後、ジェラルドが槍を男の腹部に突き立てる。
「ごふっ……な、なんで……」
ジェラルドは疑問に答えず、絶命したならず者を投げ捨てる。
「さてと、話を再開しますか」
フィーの周囲をならず者が取り囲む。
彼女は咄嗟に杖を構えるが……
「おっと、フィー。余計な考えは捨てた方がいいよ。こっちには君のお母様がいるんだからね」
ドミニクがアイリスに視線をやる。
「ドミニク殿下……あなたと言う人は」
フィーが侮蔑の視線を送るが、絶対的優位に立つドミニクにとって、その反抗的な視線も心地よかった。
「ヘヘ。まさか、本当に来るとはな。ばかな娘だぜ」
「ひ、ひひ。綺麗な娘。こんなべっぴんさん、み、見たことねえ」
ならず者が、フィーを羽交い締めにする。
「いやはや家族想いなのはよろしいですが、あなたが来たところで何ができる訳でもない。もう少し頭が回るものだと思っていましたがね」
「どの口が言うの……私の父を殺し、母上を辱めた」
「ええ、そうです。私があなたの人生を滅茶苦茶にしました。そしてこれから、あなたはドミニク殿下に相応しい花嫁になるのです」
見下したような視線を投げながら、ジェラルドがフィーの顎をクイッと掴む。
そして、血に染まった槍をフィーにゆっくりと押し当てる。
「その槍でお父様を……」
「ええ。実につまらない男でしたよ。村人を人質にしただけで、あっさりと抵抗をやめてしまった。後で殺すか、先に殺すかの違いでしかないというのに、あの男は最後まで村人を救えたと思い込んでいた。実に滑稽で、笑いを堪えるのに必死でしたよ」
「貴様……!!」
フィーは言葉を荒げる。
「殺してやる……!! 必ず殺してやる……!! 村を……私の家族を奪ったクズどもが……!!」
自分の父の最期を聞き、フィーは憎悪をたぎらせる。
露骨な挑発であったが、大事な家族を殺され、怒りに支配された彼女にそれをはね除けることなどできなかった。
「おうおう。なんて汚い言葉遣いだ。とても《聖女》様とは思えねえなあ」
「フッ。そう言わないでください。彼女もご家族を亡くされて心細いのでしょう。とはいえ、次代の王妃たるもの、優雅さと気品が不可欠というもの」
ジェラルドがフィーの衣服を切り裂く。
「どの口が……!!」
心の底から湧き上がる憎悪に表情を歪ませながら、フィーがジェラルドを睨む。
「おお、怖い怖い。貴様ら、その女に"慎み"を教えてやりなさい」
ジェラルドが顎で指示を出す。
「へ、へへ、いいんですかい? お、俺みたいな男が、こんなキレイな女の子に手を出して」
ならず者の一人は大層フィーのことを気に入ったからか、ひどく興奮している。
「おい、傷物にはするなよ! それに暴力も禁止だからな!!」
「とのことです。いくら愚鈍なあなた達でも、意味はわかっていますね」
「もちろんですよ。飽くまでも俺たちは、この女の教育係に過ぎやせんからね」
一人が下卑た笑いを浮かべる。
「フッ。貴様の美点は、己が分を弁えているところですね。お前達程度のならず者など、簡単に換えが利く。それが理解できない者は、そこで転がっているクズのような末路を辿るだけです」
ジェラルドが地面に転がるならず者の死体に視線をやる。
「へ、へへ……その通りで」
「な、なあ……も、もう話は終わりでいいよな。俺、がが、我慢できねえよ」
興奮したならず者がフィーを組み伏せた。
「や、優しくするからね」
「ひっ……!?」
フィーの表情が青く染まる。
「お、おい、本当に大丈夫なのか、ジェラルド!!」
ジェラルドがならず者の首に槍を向ける。
「ひ、ひいっ!?」
「一線を越えれば、私が始末します」
ならず者の興奮が収まっていく。
「それよりも、彼女を辱めたいというのが、殿下のご要望でしょう?」
「ああ。彼女は一度僕を拒み、恥をかかせたからな。王妃にしてやるといっても、立場は分からせないといけないだろう」
「おっしゃる通りでございます。何せ、女というのは簡単に嘘を吐く生き物ですからね」
ジェラルドの言葉を受けて、ドミニクは地面に視線をやる。
そこには、息も絶え絶えといった様子で、イライザが倒れている。
「お母様……いや、この女は嘘をついていた。血が繋がっていないのに、僕を実子だと偽っていたのだ。それも全て王位をつけ狙わんがためだ。卑しい女め……」
その目は嫌悪と怒りに染まっていた。
「いずれにせよイライザ様は、体のいい犠牲となります。地方で突如引き起こされた大虐殺。いくら反帝国の気風があるとはいえ、それは許されることではございません」
「だが、帝国にとっては都合のいい出来事だ。反帝国派への牽制となり、虐殺の罪もそこの女に押し付けることができる。そして僕は、一生涯の伴侶を得ることになる」
ドミニクが、地面に組み伏せられたフィーの頬をそっと撫でる。
「ん。やっぱ気が変わった。やはり、このようなならず者どもに、いい様にされるのは興が乗らん。せめて、僕の所有物であると、彼女に分からせてからでないと」
「な、こ、ここでお預けなんて酷いんだな!!」
「黙れ下郎が。僕がやりやすいように、彼女を押さえていろ」
ドミニクに命令され、ならず者たちが渋々と従う。
「こうして部下に頼らないと、女一人好きにできないなんて、情けない王子様ね」
「ふーん」
パンっと、ドミニクがフィーの頬を思い切りはたく。
「ひっ……!?」
突然の暴力にフィーが怯えた表情を見せる。
怒りと憎悪でいっぱいになっているとはいえ、フィー自信はこのような暴力的な状況に慣れていない。
心の中は恐怖でいっぱいであった。
「実に素敵だよ、フィー。そういう生意気な女ほど、躾けのしがいがある!」
ドミニクが生き生きとし出す。
「それに、なんて可愛らしい悲鳴なんだ。もっと聞かせておくれよ!!」
興奮したドミニクは舌なめずりをする。
そして、その指をゆっくりとフィーの肌に這わせようとする。
「ようやく、見つけた……」
その時、一人の少年が現れ、ドミニクに剣を振り下ろした。
「え……?」
剣は、声の方を振り向いたドミニクの顔面を深く切り裂く。
「ぎゃあああああああああああ!? 目が、目があああああああああああああああ!!!!!!」
ドミニクは右目を押さえて、地面に倒れ込むのであった。
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