第25話 炎上
廃村跡で僕――レオンは一人の青年と対峙していた。
カイルは剣を片手にこちらを睨みつけている。
今の状況は、僕の想定以上の速さで推移していた。
本来、ここでイライザは、ジェラルドに村の襲撃とフィーの家族の暗殺を指示するシーンだった。
襲撃はそれから三日後に起こる。
だが、イライザはカイルに刺され、ジェラルドは何かを企み、彼女を連れ去った。
またしても原作とは異なる展開になっている。
これから何が起こるのかは全く予想できない。
だから僕は、一刻も早く村に戻る必要がある。
しかし‥…
「どういうつもりなんだ……? これから僕はあの人と……それにフィーを助けないといけない」
「戯言を……」
無言でカイルが斬りかかってくる。
ここ最近、カイルは僕に敵意を向けてくることが多かった。
そして今日、ついに彼は刃を向けてくるのであった。
「こんなことをしている場合じゃないだろう!!」
何度も何度も僕らは剣を交わす。
この数日で、カイルはさらに腕を上げていた……
「っ……」
「どうした? 防戦一方か?」
目で追うのがやっとな速度と圧倒的な膂力から繰り出される剣撃を前に、僕はを凌ぐので精一杯だった。
もはやカイルの強さは、想像を絶するほどに極まっていた。
この表現が正しいかは分からないが、まるで原作のカイルにアイテムと経験値を注ぎに注いで、極限まで鍛えたかのような強さだ。
「カイル、一体何があったんだ?」
「無駄口を叩いてる余裕があるのか?」
カイルがはぐらかす。
だが、明らかにしなくてはいけない。
しばらく前までカイルは、無力感に自信を喪失していた。
しかし、ドミニクがフィーを襲った事件。
あの前後で、カイルは言動が大きく変わった。
僕への敵意、ドミニクとそれに加担したエーファら兄妹への憎悪、そして急激な成長……
何か転機になる出来事があったはずだ。
「お前は……生きてちゃいけないやつなんだよ……」
憎悪の籠った一撃を受け、僕は後方に弾き飛ばされる。
僕は即座に地面に剣を突き立て、落下の衝撃を和らげると、ゆっくりと地面に着地する。
「君に何があったのかは知らないけど、このままじゃフィーが大変な目に遭う。今は剣を納めてくれ」
こんなところでカイルと争っている場合じゃない。
僕はなんとか説得を試みる。
しかし、カイルは聞く耳を持とうとはしない。
「違う! お前が……お前が彼女を不幸にするんだよ……! フィーだけじゃない。フィーの両親も、そこの女も、みんなお前のせいで不幸になるんだ」
ゆっくりとカイルがこちらに歩いてくる。
こちらへの殺意を隠そうともしていない。
カイルはどうしてそこまで僕を……
その時、僕はある考えが頭に浮かぶ。
「カイル……まさか、君は未来の記憶を……?」
そもそもがおかしな話だった。
ここは、僕にとってはよく知るゲームの世界だ。
どうして僕はそんな世界に転生したのか。なぜ、そんな世界が存在しうるのか。
疑問は数あるが、一つだけはっきりしていることがある。
この世界の登場人物として転生した僕には、この世界の記憶がはっきりと残っている。
なら、僕と同じように記憶を持つ人間が他にいてもおかしくはない。
「レオンハルト・エルドリア……! 穢れた血を引く者……お前は俺の前でフィーを辱めた!」
レオンが再び剣を振り下ろしてくる。
僕はそれを真正面から受け止める。
「やっぱり……」
「それだけじゃない。お前は散々フィーを弄んだ挙句、飽きたと言って奴隷商に売りつけた。〝施し〟を与えると言って浮浪者たちに襲わせもしたな?」
確かにそれはレオンがフィーに対して行う数々の蛮行の数々だった。
原作では選択次第で、レオンがカイルを押し除けてフィーを無理やり手籠めにする。
どういう経緯かは分からないが、カイルにはその記憶が存在しているようだ。
「どうやって知った……?」
「お前には関係のないことだ!」
カイルは僕の防御を突き崩そうと力を込める。
だけど、僕もここで押し負けるつもりはない。
腰に力を入れて、僕は全力のカイルに抗ってみせる。
「っ……なんて力だ……」
この世界で真っ当に生きるために、僕は強くなろうとした。
いくらカイルが力をつけようと、僕は負けるつもりはない。
「うおおおおおおおおおお!!」
僕は裂帛の気合いと共に、剣に大量の魔力を流し込む。
直後、剣が蒼炎を纏い、大剣へと変化した。
「なっ……」
カイルがたじろいだ隙を狙って、僕は渾身の力でカイルを弾き飛ばす。
「ぬおっ……!?」
地面に倒れ込むカイルの首元に剣を突きつける。
「くっ……これでも勝てないのか……」
唇を噛み締めるカイルに向けて、僕はある言葉を告げる。
「一つ、君が知らないことがある」
「なんのことだ」
「ジェラルドは村を襲撃して、フィーの家族を皆殺しにする。その未来は聞いたのか?」
「なんだと……?」
この反応、やはり僕のような前世の記憶を保持していたパターンではないようだ。
恐らく、誰かに情報を吹き込まれたのだろう。
それが誰かというのは、皆目見当もつかないが、とりあえず彼の豹変の理由はわかった。
「やはり聞かされてないみたいだ。それじゃあ、ジェラルドにフィーが辱められることも知らないようだ」
ジェラルドはドミニクの臣下でもある。
原作では、彼のためにフィーを捕らえ献上するのだが、その過程でフィーはやはり酷い目にあってしまう。
「咄嗟に思いついた出まかせだ。お前が未来を知るわけが……」
「どうして、自分以外に未来を知る人間がいないと思い込む? どうして知らされた情報が全てだと安心してる。君のその記憶は、誰かから伝えられた情報に過ぎないだろ?」
「…………っ!?」
「このまま僕と戦ってみすみすフィーを危険な目に遭わせるか、それとも僕の言葉を信じるか、どっちか決めろ」
答えは分かりきっている。
カイルにとってフィーは命よりも大事な人だ。
こうして、疑いを少しでも抱いてしまえば、それを確かめないわけにはいかないだろう。
「……わかった。村に戻る。話はそれからだ」
それから僕はカイルとエーファを連れて村へと戻るのであった。
「エーファ、どうしてそんなにピッタリくっつくの?」
村へ戻る道中、エーファは僕にしがみつきながら走っていた。
すごく走りづらい……
「え、えっとその……」
エーファがチラリとカイルに視線をやる。
なるほど、以前彼から受けた仕打ちを思い出して怯えているようだ。
僕は彼女を安心させるために頭をそっと撫でる。
「大丈夫。僕がついてるから、カイルには指一本触れさせないよ」
一方のカイルの表情は窺い知れない。
彼は僕らの先を走っているからだ。
程なくして、僕らは村へと辿り着く。
「な……!?」
僕は目の前の光景に息を呑む。
「村が燃えてる……だと? フィ、フィー!?」
カイルは顔を真っ青にして、慌てて走り出す。
だが、カイルでなくとも驚く。
いくらなんでも早すぎる。
イライザの命で、ジェラルドは三日後に村への襲撃を引き起こす。
だが、そのイライザは刺され、どういう訳か襲撃が前倒しにされた。
「慌ててる場合じゃない。今からでもできることはあるはずだ」
まずはフィーを探しに行こう。
ジェラルドの狙いはフィーのはずだ。
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