表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/34

第21話 殺伐

「奴隷……奴隷ってどういうことですか?」


 エーファが困惑している。

 当然だ。俺も困惑してる。

 だけど、彼女に選択の自由を与えず、かつ彼女の身を守るにはと考えたらこんな言葉が出てしまったのだ。


「僕は今、都合のいい手駒を探している」

「手駒ですか?」


 一度吐いた言葉は引っ込められない。

 僕はこのまま突き進む。


「君の兄のドミニクが何をしたのか。君も知っているだろう?」

「……はい」

「奴は薬を使い、非道にもフィーの尊厳を奪おうとした。僕は決して奴を許さない」


 原作のドミニクは根っからのクズだ。

 一度目が失敗しても、決して諦めず、再びフィーを手に入れる算段を巡らせる。

 僕は次のドミニクの動きに備えなくてはいけない。


「奴は懲りない。きっとまたフィーを狙うだろう。その時に彼女を守り抜くには、彼のすぐそばにいる人間の協力が必要だ」

「それが私……なんですか?」

「ああ。だから奴隷になれ。君はドミニクを監視して、彼が何かを企んでたら、必ず僕に報告する。そして僕の指示があれば、必ずそれに従うんだ。どうだやってくれるか……?」


 普通に考えてこんな提案受け入れるはずは無いが……


「そうすれば……私のことを許してくれますか……?」

「ああ。無事にフィーを守り通したら、君の罪は許す」


 まあ別に、彼女の境遇を知る僕は彼女についてはそこまで悪感情を抱いていないが、ここはこう答えた方が良さそうだ。


「もちろん選択権は君にある。僕は君に兄を裏切れと言っている。応じるなら君は家族と縁を切ることになるし、僕の命令に逆らうことは許されない。だから自分で決めるんだ。僕に付くか、ドミニクに付くか」


 さて、どう出るか。

 原作の彼女は、兄を嫌悪していた。

 ただ、自分の力で生きていくことが出来ないから、兄に服従していただけに過ぎない。


「……分かりました。あなたの奴隷になります」


 しばらくの逡巡の後、フィーが答えた。

 しかし、彼女の表情は暗いままだ。


 彼女から見れば、僕がどういう人間なのかはまだ分かっていない。

 加えて、カイルの激しい暴力に曝されたこともあって、僕に対する警戒心というか、恐怖心も拭えないのだろう。


 僕もまた彼女に対して強い敵意と怒りを抱いているのでは……エーファはそう考えているのかもしれない。

 だけど、こうでも言わないと、彼女はまた屋敷を抜け出すだろう。


 彼女は本心では、兄から解放されたいと思っている。

 しかし、カイルに責められたせいで、自由になることも幸せになることも許されないと強く思い込んでいる。

 そして、誰かに罰して欲しいとすら思っている。


 実際、彼女は目の前の自由を捨てて屋敷から逃げ出した。

 それほどまでに彼女は追い詰められているのだ。


「分かった。なら君は今日から僕の奴隷だ。フィーを助けるまで、君は僕の命令に従え」

「……はい。分かりました」


 ここまで来たらもうやり切るしかない。

 どのみち、あのドミニクに備えるには、彼女の協力が必要だ。


 何せ、フィーの不幸はこれで終わりじゃない。

 次にドミニクは、フィーを無理やり自分の婚約者にしようと、さらに悪辣な手段に訴えるようになる。

 次はそれを阻止しないと。


*


 さて、それからしばらく、僕らは何事もない日々を過ごしていた。

 いや、少しだけ……状況は変わったかもしれない。

 ある日の稽古のことだ。


「ドミニク殿下……もうおしまいですか?」

「い、痛い……痛い痛い……」


 ドミニクが地面に(うずくま)って腕を押さえている。

 腕には生々しい青あざが残されている。


 たった今、ドミニクはカイルと打ち合っていた。

 しかし、カイルはあれからさらに力を付けているようで、ドミニク程度では全く歯が立たない様子であった。


 それだけなら問題はないのだが、カイルは全力でドミニクを打ちのめし、防御の隙間を縫って、生身の身体を直接叩きつけることも何度かあった。

 カイルほどの実力者に全力で打たれたら、ただでは済まない。

 稽古を終え、ドミニクは痛みのあまり涙を流して喚いていた。


「ろくに己も鍛えず、色に溺れて放蕩三昧、挙句にはあんなことまで……本当に醜いやつだ」


 カイルは心底見下したような視線を投げて、吐き捨てる。

 彼の言うことは間違ってはいないし、気持ちもわかるが、流石にそこには、原作のカイルの面影は残っていなかった。

 今の彼は、原作にはない冷徹さが備わっていた。


「カイル、その辺にしておこう。こんな風に生身に打ち付けるなんて、母上は承知してない」

「フン……」


 聞いているのか聞いていないのか。

 鼻を鳴らすとカイルは木剣をこちらに向けた。


 次はこちらの番ということなのだろう。

 僕は木剣を構えて応じる。


 直後、カイルが一瞬で距離を詰めてくる。

 目の前に現れた頃には、下から切り上げるように木剣が振るわれていた。

 僕は咄嗟にそれを防ごうとするが、手にした木剣が宙に舞ってしまう。


「油断したな、レオン」


 今までのカイルとは比べ物にならない膂力とスピードだ。

 そして、彼の動きはまだ止まらない。


 僕は四方八方から迫り来るカイルの剣をかわしていく。

 どちらかが剣を落とせば打ち合いは終了だ。

 しかし、カイルはまだ続けるようだ。


「仕方ない……」


 僕は絶え間ないカイルの攻撃の隙を見つけ、その腹部に掌底を喰らわせる。


「かはっ……」


 カイルの体が吹き飛ばされる。

 母上に習った、剣を使わない体術が役に立ったようだ。


 それにしても、今の力は……?

 何度か手合わせしているが、カイルの力は日に日に増していっている。

 原作でも才能の塊という設定だったが、だとしてもここ数日のカイルの成長ぶりは、凄まじいものだった。


 僕はカイルの動きに妙なものを感じながらも稽古を続ける。

 しかし、この稽古も随分と様変わりしてしまった。


 僕、カイル、ドミニク、母上が見てないときはこの三人しかいない。

 そのせいで、殺伐とした雰囲気が流れている。


 フィーはここにはいない。

 ドミニクの蛮行の瞬間、彼女は眠っていたが、あの日々起きたことは隠し通せず、彼女はドミニクの悪行を知ってしまった。

 以来、彼女は塞ぎ込んでいるのだ。


「後で様子を見てあげないとな。カイルは行かないのか?」


 無駄だと思いながらも、尋ねてみる。


「ああ、俺もついて行く」


 しかし意外なことに、返事はイエスだった。

 どういうつもりだ?

 僕は彼のことが分からないまま、剣を鍛えるのであった。

 お読みいただいてありがとうございます!!


 少しでも面白いな!!続きを読んでみたいな!!と思っていただけたら、ブックマークに追加していただいて、下の☆☆☆☆☆を塗りつぶしていただけると励みになります!!


 何卒よろしくお願いいたします!!!!


 また、本作はカクヨムというサイトにも投稿しております。

 最新話はそちらに掲載しておりますので、先の展開が気になる方はぜひご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ